LGBTと一緒の括りにはなっているけれど、基本的にはあまりお互い関心のないゲイGとレズビアンL。男にしか興味のない男と、女にしか興味のない女、自然に任せたら交わることはないわけで、必要な時だけアライアンスを組む人たちが多い気がします。例えば同性婚の賛否を問う選挙のデモを一緒にするとか、職場のダイバーシティのイベント企画とか。もちろん、レズビアンの友達がたくさんいるゲイもいますけど、私の周りにはあまりいなくて思い浮かべるだけで、片手で数えるくらいです。細く長く繋がってるのは2組のカップル、4人だけ。

 

そのうち今もNYに住んでいるのが1組。そのカップルが最近別れて、別々に暮らすことになったからということで、わりと親しかった方のQ姉から引っ越し手伝ってくれ!という依頼が来ました。親しかったとは言っても、彼女の元パートナーに比べたらQの方が話しやすかった、というだけで、休日潰して無料で引越し手伝うほど親しかっただろうかというのが素朴な疑問。バースデーカードやクリスマスカードすらくれたことないんですけど、この姉御、推しが強く、なんとなく好きなタイプの性格で、女優という肩書きで生きている面白い人なので、久しぶりに会いたいなと思い引き受けることになってしまいました。本当は力が強そうな旦那Dの方に来てもらいたかったようですが、すでに旦那は所用が入ってました。

 

荷物の搬入が終わったらさっさとトラックで消えていった姉御Q

 

そして手伝ったのが遡ること真冬の1月。覚悟して気合い入れて出向いたにもかかわらず、デカい荷物などはあまりなくて、衣類が入った段ボールを、レンタルしたトラックに積んで、新しい家に地下鉄で先回りして、彼女が運転するトラックが着いたら、荷物を積み降ろして部屋まで届けるというだけ。男の住まいとは違って服や靴だけでダンボールが何箱もあってすごい量でした。サンダルみたいな靴もたくさんあるけどいつ使うんだろうと、色々と未知の世界に触れる好奇心でモチベーションを満たしました。Sex and the Cityの一コマ、キャリーが誰かの子供の誕生日パーティーに行った時に、お気に入りのサンダル風の靴を盗まれてしまって、ホストに新品を買わせて弁償させたエピソードを思い出しました。

 

幸い新居にはエレベーターがあったのですが、荷物搬入専用ではないので、日常使いの住人たちと共用。4階の部屋とエントランスの行き来数往復で結構な時間がかかってしまいました。終わり際、何かお礼くれるのかな〜と期待したものの、ありがとうのハグだけ。レンタルしてたトラックを返す時間が迫ってるからと、この日手伝った男たちをその場に残して、ビアン友だけトラックに乗せて颯爽と去っていきました。残された男たちのうちの一人が、走り去るトラックを眺めながら「典型的なレズビアンだよな〜」と文句を言っていましたが、確かにやや後味悪し。彼曰く、マンハッタンのビアンはケチな人が多いそう。(←彼はチェルシーのレストランでウエイターをしていて、ゲイやストレートの男女に比べてビアン客のチップ払いの気前の悪さに怒っていました。)

 

確かに、ゲイ友の引っ越し手伝った時はスタバのギフトカードもらったり、その日のランチも買ってくれたりするし、日本人のお友達の帰国時の手伝いでは、日持ちする食べ物とか、日本に持ち帰らない食器などを譲ってくれたり、何かしら返礼があったんですが、この日は何もなし。遠方から来た私は交通費分持ち出し。夜にお礼のメールが来るのかなと期待もしたのですが、それもなし。ダンボールをいくつも運ばされて筋肉痛にはなるし、旦那に愚痴ってしまいました。

 

と、前置きはがなくなりましたが、引っ越しの日から2ヶ月が経ち、あの時の愚痴など忘れかけていた先月のある日、Q姉から引越のお礼をしたいからと引っ越し祝い(英語では「housewarming party」と言います)に招待されました。Q姉はやっぱり恩義深い人だったんだという安心感と、あんなに愚痴らなければよかったと少し罪悪感に苛まれながら、まあ、元取ってやろうかくらいの気分で、先週参加してきました。それとちょっとした下心もあって、、、。というのも、引っ越し手伝いにきてた男たちとまたどこかで会いたいなと思っていたのでした。Q姉からあんな形で路上放置されてしまったので、お互い尻切れトンボみたいな別れ方だったので、ゲイなのかどうか確信が持てなかったし、これは再会の機会だと思いました。

 

引越の手伝いをしなかった旦那は辞退すると言うので、引っ越しの時同様一人で電車を乗り継ぎ、マンハッタン経由ではるばるブルックリンまで遠征しました。引っ越し祝いと言って誘われて、また何か手伝わされるのかとやや警戒しましたが、部屋はすっかり綺麗になっていました。Wi-Fiのモデムやパソコンの設定とか手伝わされてたIT系の人がいましたが、私は純粋に客人としてもてなしを受けました。密かに期待してた、引っ越しの時に会った男たちも皆きていて、まあまあ来た甲斐がありました。

 

以下の写真、引っ越し祝いの日の様子。Q姉は女優だし自称有名人。SNSなど顔出しOKだよと言うので、写真も載せてます。シングル女性のブルックリン・アパート暮らしのリアルです。夜景が綺麗とか、ゴージャスな新築とかではないけれど、居心地の良さそうな部屋です。地下鉄の駅からは1ブロック。仕事柄遅くに帰宅することが多いので、安全のためそこは譲れない条件だったそうです。

 

 

リビング兼ダイニングは小綺麗に片付いていた

 

衣装を縫ったりするミシンは彼女の大切な備品

 

素朴な会は、人柄でゲストを魅了できる人がなせる技

 

食べ物は決して豪華なものではないのですが、中華料理が用意されていて、さらにデザートも色々種類があって彼女のホスピタリティを感じました。何より会話がすごく楽しかったです。Q姉は女優兼コメディアンなので、虚々実々話題が豊富。そして自然に彼女の周りに人が集まってくるような惹きつけるオーラがあります。招待した男たちに囲まれた彼女の一人舞台のような楽しさでした。それと、客人全員に話題をふるのを忘れないところが素晴らしい。ちょっと前に、金にモノを言わせた煌びやかなパーティーの様子を書きましたが、「構ってちゃん」が開く「自分が輝くためのパーティー」って参加者の満足度は基本的に低い。

 

 

一方、この日のQ姉のパーティーは、彼女のホスピタリティが伝わってきました。質素なのに満足度が高いのは、人柄でゲストを魅了できる人のみがなせる技だと思いました。そして彼女の予算の中で彼女なりの感謝の気持ちがとても伝わってきました。ニューヨークに住んでる女優なんて言うと華やかな連想をしますが、煌びやかな生活ができるのはごく一握り。実際には、Q姉のように質素な生活をしているのが現実です。それでも、入居審査パスして、一人でブルックリンのワンベッドルームの家賃払えてると言うことは、それだけ継続して仕事があると言うことなので、素晴らしいと思います。なお、端役女優やモデルの仕事は天気の都合などで前日にいきなりコールがかかることが多いので、他の仕事との兼業が難しく、衣装制作などで収入を補完しているようです。Q姉はアフリカン・アメリカンなので若く見えますが、私よりも年上の50代前半。恋人と別れて20年ぶりの一人暮らしは寂しくないのかな〜と余計な詮索は全く不要で、幸福オーラをギラギラさせていました。ちなみに、Q姉は、超有名コメディアン件女優のマーガレット・チョーと一緒に仕事したことがあって、今でもテキストできる仲だと豪語していましたが、真実は謎。

 

Sex and the Cityにも出演したマーガレット・チョーは今も現役

 

Qの仕事仲間の方々。エンタメ業界にいるだけあって垢抜けてる感じ

 

デザート類も充実していた

 

また、引っ越しの時はあまりお話しできなかった彼女の男友達も皆地に足のついたいい人たち(英語でDown to the earthという)ばかりで、また新しい友人を作るきっかけになりました。参加者の半分は、コメディアンや俳優仲間だったりするので、私の他の友人たちよりも若く見える人が多かったです。普段私が接してる市井の中年おかまたちとはの友人たちとは違ってエンタメ業界にいるだけあって、垢抜けてる感じ。もともとビアンのQ姉の知り合いというのが前提なので、皆多分ゲイだと思うけれど、そういうことをいちいち明確に表明するような感じでもなかったです。これは最近のニューヨークの傾向ですね。もうセクシャルマイノリティがメインストリーム化しているので、少なくともこういうプライベートなイベントの入り口のところでの確認作業は必要なくなっていると言ったらいいのか。いずれにしても居心地のいいホームパーティーでした。

 

春は出会いと別れの季節、ということでパーティー関係の投稿が続いていますが、この日の引っ越し祝いは中年の危機(ミドルライフクライシス)気味な私の中に、新たな視点を与えてくれました。というのも、最近、自分の知ってる世界や今の人間関係って本当に狭くてこのまま年老いていくのかな〜と漠然に不安に思う日々が続いています。よって新しい出会いを欲しているのですが、この年になって全く新しい人間関係を開拓していくことはそう簡単ではありません。いざとなると億劫になってしまったり、たとえ新しい出会いがあっても期待した分失望が大きかったり。ということでQ姉からの誘いは、今まで埋もれていて気がつかなかったような既存の魅力的な人間関係と、そこから広がっていく機会の可能性もあるのだと気づきの機会になったのでした。

 

Q姉のおかげで、新しい人間関係が広がった