鑑賞後に、身動きが取れなくなるほど衝撃を受けた映画を観たのはいつだろうかと思います。いや、多分ここまで衝撃を受けた映画は人生初かもしれません。悲しさ、怒り、無力感、絶望、不安、おどろおどろしさ、、そんなすべての感情。
2025年のヴェネツィア国際映画祭で審査員大賞を受賞し、今年のアカデミー賞にもノミネートされている「The Voice of Hind Rajab」をユニオンスクエアにあるQUAD CINEMAで観てきました。
QUAD CINEMA。ロビーは感じのいいカフェバーになっている
この映画は、2024年1月に、イスラエル軍の攻撃の続くガザから避難しようとしていた二人の子供、ヒンド・ラジャブを含む7人家族と、救助に向かったパレスチナ赤新月社の二人の救急隊員がイスラエル軍の戦車に殺害された実際の事件を映像化した作品です。
2024年1月、イスラエル軍による民間人無差別攻撃の激化するガザから避難するため車で移動していた家族が、イスラエル軍の戦車の襲撃を受けました。大人を含む5人は最初の銃撃で即死したとされ、破壊された車の中に残された従姉妹同士の二人、ハマデとヒンドが、ドイツに避難した叔父を通してパレスチナ赤新月社に電話で救助を要求した3時間に及ぶ音声が公開されたことで発覚し、イスラエル軍による民間人無差別殺害が明るみに出たのでした。この映画はその時の実際の音声を使いつつ、当時の緊迫した3時間の様子を再現しています。
パレスチナ赤新月社に電話で救助を要求した音声によると6歳の女の子ヒンドが「(イスラエル軍が)撃ってきているの。私たちは車の中です。戦車はすぐそばにいます」と救急隊に救助を求めてきます。ドイツに避難している叔父から国際電話を通して緊急電話がかかってきているという状態。しかし、ガザはあまりにも危険なため、現場まで救急車派遣の許可がおりません。ガザでは赤十字に交渉を依頼しイスラエル軍の許可が出ないと緊急医療の救助活動すらできないのです。
https://www.imdb.com/title/tt36943034/
結局、たった10分ほどでつけるはずの現場まで救急車を派遣するのに3時間以上を要し、二人の子供のうちハマデは緊急センターの職員との電話の途中で、マシンガンの音と叫び声と共に死亡します。そして唯一生存していたヒンドは、パレスチナ赤新月社と電話がつながった状態で車内に身を隠します。その間、職員はあの手この手でヒンドを慰め勇気を与えようとします。ついに、パレスチナ赤新月社は、長時間にわたる交渉の末、救急車を指定ルートで派遣する許可を獲ますが、救助に向かった救急隊もイスラエル軍による砲撃で殺害されます。映画の中で使われた当時の映像によれば救急隊員の遺体は原型をとどめないほど分解損傷しており、またヒンドも行方不明となっていますが死亡したものと思われています。
ハマデとヒンド・ラジャブが救援を求めた時の音声記録が赤新月社により2024年2月3日に公開されたことでこの事件が発覚します。確かにこのニュースはイスラエルによるガザ虐殺の事例としてアメリカでも報道されていました。しかし、その後も学校爆破、助産婦施設、人道支援施設破壊などあまりに惨劇が続き、記憶の彼方へと消えようとしていました。アメリカのラジオニュースで聞いたとこはわずか数分の解説だったと思います。そんなニュースの裏側にこんな衝撃的な事実が隠されていたとは驚きです。
映画は実際の音声を使用しており、また当時の緊急センター内の様子を忠実に再現しています。90分ほどの映画ですが、上映後は、あまりに衝撃、そして悲しさ、無力感、怒り、いろいろな感情で身動きが取れませんでした。他のお客さんたちも同様、ほとんど皆黙り込んでいました。エンドロールが終わってもその場に居続けるお客さんたちもいました。
「The Voice of Hind Rajab」はアカデミー賞国際映画作品部門でノミネートされています。平和ボケした日本ではこういう作品は興行成績が振るわないので上映されない傾向にあるそうですが、もし機会があったらできる限り多くの方々に見てもらいたい作品です。これほど魂を揺さぶる映画に出会ったのは久々です。
奇しくもあれから2年経った2026年現在、トランプとネタニヤフによるイラン攻撃で中東情勢はさらに混沌としています。そんな中ガザの復興は気の遠くなるような状態でしょうし、各地でヒンドのような被害者が出ていると思われます。1日も早い平和の実現を希求します。



























































