クリスチーヌはフィオナに向かって話し始めていた・・・心の叫びとして。
声には出さず、意識をフィオナに集中させていた。自分自身がラクサム人の被爆2世であることを思い出したのだ。クリスチーヌは何故か、フィオナに意識を集中することで伝えられると感じ始めていたのである。
そして、ついにフィオナがクリスチーヌの心の叫びに気づいてくれたのである。ついにテレパスが通じたのだ。
「私はクリスチーヌ。スカイ・フォーのレッドと呼ばれている。私たちスカイ・フォーもあなたと同じラクサムの被爆2世よ」
フィオナが一瞬驚きの表情を浮かべた。
「フィオナ、私の話を聞いて!・・・私たちは遠い過去に両親がドンヴァースを脱出してこのミール第3惑星、地球に逃れてきたときはまだ赤ん坊だったの。私たち4人の両親たちは、マリコフの追手によって宇宙船を破壊されて亡くなったわ。でもその時、私たちだけはカプセルに乗せられていて地球に無事届けられた。幼い私たちは地球の大気に順応しきれないでいた。そんな私たちを救ってくれたのが地球人よ。そして、私たちを育ててくれた地球人のために、地球を宇宙の脅威から守っている・・・地球人は遠い過去に核を使用した経験を持つ種族だから、被爆者の苦しみも分かってくれる。地球人は今、世界中の核を放棄しようと努力している・・・お願い、地球人を信じて・・・私たちが証人よ」
フィオナの目つきが変わった。
次の瞬間、格闘を続けていたサリームたちが我に返ったようにピタリと戦いをやめていた。
リオネルがフィオナに詰め寄った。
「何故だ! 解除するんじゃない」
フィオナはクリスチーヌを見て
「兄さん・・・彼女は被爆2世のラクサム人よ」
「そんなはずはない、そいつは地球人だ」
「彼女は心の中を見せてくれた、間違いないよ!」
正気に戻ったサリームたちがクリスチーヌの周りに集まってきた。
ルフィナが
「いい加減目を覚ましなよ、リオネル。マリコフも知らないことだよ」
「そんなはずはない・・・嘘だ!」
「リオネル落ち着け、見苦しい!」
いつの間にか・・・遂にマリコフ自身がサリームの前にその姿を現した。襟を立てた黒ずくめのマントに身を包み、右手には鞭のようなものを携えている。すらりとした体形とスキのない鋭い目つきが印象的だ。
「スカイ・フォーがラクサム人の被爆2世だったとは聞き捨てならないね。不愉快な過去の記憶を思い出させてもらった。お前たちが我々を裏切ったラクサム人の子供だったとは想像できなかったよ」
「マリコフ、あなたの考え方は間違ってる。地球人たちは今、核を放棄しようとしている。核を使って脅すなんて正気じゃないわ。核を持てばそれだけで核に振り回されることになるのよ・・・」
「我々は核に振り回されるほどヤワではない。被爆難民を愚弄してきた平和ボケ人種の目を覚ますことが我々に与えられた仕事だ。邪魔をする輩は誰であろうと排除する」
ルフィナがクリスチーヌに警告してきた。
「クリスチーヌ、マリコフの次元ポータルに気をつけろ」
クリスチーヌがうなずく。
「スカイ・フォーはラクサムの被爆2世だけど、同時に地球人よ。地球の核はすべて破棄します、あなたには1本たりとも渡すつもりはないわ」
「たわごとはそれまでだ。裏切り者の子供の言うことなど聞き入れることはできないね。お前たちまとめて異世界に送ってやろう!」
そう言いつつ、右手の鞭を一振り打った瞬間・・・
サリームたちの目の前、砂漠の地に転送ポータルのような大きく輝くアーチの構造物が現れた。アーチは明らかに周囲から浮いていて、不自然で場違いなものだった。アーチのポータル越しに見える景色は同じ地形ではあるものの、周囲は砂漠であるというのにその中は穏やかに晴れた緑あふれる景色が広がっていた。そして、このあまりにも違う景観に恐怖すら感じるものだった。
次の瞬間、サリームたちはなすすべもなく、全員そのポータルに吸い込まれてしまったのである。
フィオナが
「何てことするんだ!」
しかし、叫んだ時にはポータルは閉じてしまっていた。
これは異なる次元の世界に通じる次元ポータルであった。
サリームたちはマリコフの鞭の一振りで異世界に飛ばされてしまった。この先地球の運命はどうなってしまうのだろうか?