ヒート・セーバー | SFショートショート集

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SFショート作品それぞれのエピソードに関連性はありません。未来社会に対するブラックユーモア、警告と解釈していただいたりと、読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。長編小説にも挑戦しています。その他のテーマもよろしく!!

本編は「入 隊」・・・続編です。

 

 ラウロのレスキュー入隊祝いの翌日、3人は早々と日本に帰っていった。そしてルスラン博士は、自室の研究室に閉じこもってしまった。ファンタスティック・スリーに強力なアイテムを授けたいという思いが強くなっていたからである。アイデアは以前からあった。原理は水素、酸素、あるいは大気などをプラズマ化し、切断したい材料に照射する事で切断するカッターと似ている。形状は違うがフラッシュリングと同等の効果を発揮する。

 ルスラン博士は、日本刀をイメージしたプラズマの熱刃(ヒート・セーバー)を考えていたのである。

 

 それから約1ヶ月が過ぎたころ、ルスラン博士は日本から3人をソフィアのオフィスに呼び寄せた。3人だけではなくウィン博士も都合をつけてくれた。

 ルスラン博士が、

「今日はお前たちに私の新作をお披露目する。以前チラッと話したと思うが・・・」

そしてウィン博士に向かって一言言った。

「ウィンには黙っていたが・・・」

「ここに・・・ ”ヒート・セーバー”なるものを持ってきた、これだよ」

 ルスラン博士はオフィスの隅のテーブルに案内した。

 並べられた3本のヒート・セーバーを一同は不思議なものを見るように凝視していた。無理もない、そもそも 外観は、柄(つか)と鍔(つば)の部分のみで形成されているのだ。一同はおそらく初めて見る形だろう。

 

 日本刀の外装のことを「拵」(こしらえ)あるいは、「つくり」などとも言う。 鞘(さや)、茎(なかご)を入れる柄(つか)、鍔(つば)を総称した言葉だ。当然だが、起動していない熱刃(ヒート・セーバー)には鞘は必要ない。外観は柄(つか)と鍔(つば)の部分のみだ。起動すると鍔(つば)の先から日本刀と同じ形状の熱刃(ヒート・セーバー)が飛び出してくる仕掛けだ。刃長は60cm~75cmで調整できる。サーベル特有の片手での操刀に対して、この熱刃(ヒート・セーバー)は両手で扱うことが基本である。

 

 プラズマの熱刃は何らかの物体に接触したときに強力な熱エネルギーを放出し接触面を切断する。また、熱刃を覆う強力なアーク波によってビームやレーザー、弾丸の類に干渉して弾道をそらすことができる。しかし、これを駆使するには高度な剣術を体得している必要がある。日本古来の剣道の奥義を得る必要があるのだ。これほどまでに日本刀にこだわる理由は、ルスラン自身が剣道の有段者であったからだ。

 

 ルスラン博士は3人に一通り説明すると1本を手に取ってサイモンに渡した。

「これから君たちに1本ずつ渡すが、<柄>はその持ち主となる人物の意識と一体となる。したがって決して他人に渡ることのないように注意してくれ」

ウィン博士が

「ルスラン、これはすごいじゃないか、スカイ・フォーにはないのか」

「スカイ・フォーにはフラッシュリングがあるだろ。それにアイテムがありすぎると”宝の持ち腐れ”になるぞ。ツールは使いこなしてなんぼ!って言うだろ。ヒート・セーバーを使いこなすには稽古が必要なんだ」

 ルスラン博士はサイモンとラウロに向かって、

「お前たちは小さいころ剣道の稽古をしたことがあったが、覚えておるだろう」

サイモンが、

「僕らが道場に通ったのはわずか2年足らずだったけどね」

ルスラン博士は改めて3人を見渡し、

「では、剣術を体得するために、私が稽古をつける。覚悟はよいかな?」

 

 

 翌日からファンタスティック・スリーは、毎日の日課のように稽古に励んでいた。もともと身体能力は人間の10倍以上と抜群なため上達は目に見えて速かった。 

 

 1ヶ月が過ぎたころ、ファンタスティック・スリーに対するルスラン博士の剣術指導は大詰めを迎えていた。今や3人が剣道の奥義を体得するにふさわしい心技体を兼ね備えたと博士は確信した。奥義は頭では得られない。考えてもわかるものでもないし、話を聞いてそれと理解出来るものでもない。理屈ではなく、感覚であり、感性であり、それと稽古と努力が奥義に達する重要な過程である。

 

そして・・・カーラのいるマーズオフィスでは新たな問題が起きていた。

 

 

…続く