カーラとメグがそれぞれマーズオフィス、ルナオフィスに帰って三週間が過ぎていた。しかしラウロはまだ日本から帰ってきていなかった。なんと、ラウロはしばらく兄のいる日本で暮らしたいと言ってきたのである。ラウロは兄とリリーが所属している災害危機管理局レスキュー隊の仕事に非常に興味を示していた。
「兄さん、クアンタムはレスキューに参加していないの?」
「大勢いるよ。むしろクアンタムのほうが多いくらいだ。当初はクアンタム・レスキュー隊として発足したんだ。毎年ソフィアから何人か供給されているよ。だけどサイボーグの人たちも参加すようになって今に至ってる」
「そうなんだ・・・兄さん、僕も参加できないかな」
「急に何を言い出すんだ。お前は父さんのところで、ずっと父さんをサポートしてたじゃないか」
「スーパーツインズはスペースナビ、スカイ・フォーはソフィアの社員だし、そして兄さんとリリーはレスキュー隊にいる。ほかのサリームメンバーは皆、本職がある。よく考えてみると僕だけがちゃんとした仕事を持ってないんだよ。こんなこと思うようになったのも、実はヒューマンセンスのおかげかもしれない。飲食が出来るようになって、より人間に近づいて、人が生きていくってどういう事なんだと思うようになった。最も大切な人間の楽しみは、衣食住のうちで”食”じゃないかって感じるようになって・・・ほら、”働かざる者食うべからず”という言葉もあるように、飲食が出来るようになってみると、いつまでも父さんの世話になっているわけにはいかないと思うようになったんだ。それに何よりも、人の役に立ちたいんだよ」
「お前の気持ちはよく分かった。上司に話してみよう。ただし・・・サリームの話はオミットだぞ」
災害危機管理局にはサリームのメンバーであることはサイモンとリリーも同じく秘密にしていた。しかしサイモンとラウロがもともと人間の兄弟でありスクール・ドローン事故の犠牲者であった事、サイモンは脳死からの再生、そしてラウロは特別な処置を施されて人間であった時の記憶を保有したクアンタムであることを明かした。その結果、数日後ラウロはめでたくレスキューに入隊が決まったのである。
入隊が決まって、サイモンとリリー、ラウロの3人は日本から急遽”ひとっ飛び”でルスラン博士に報告のため会いに来ていた。ルスラン博士は一抹の寂しさを覚えたがこころよく祝福してくれた。その夜は自宅で、4人だけでラウロのレスキュー入隊祝いのパーティーをしていた。
子どものころの記憶を懐かしむようにサイモンとラウロはリリーに話を聞かせていた。
「ラウロ覚えているか、お前が剣道の胴着を着て、家の近くの小さな川の欄干から顔を出し過ぎて、バランスを崩して誤って川に落ちた時、そばにいた父さんが飛び込んで助けてくれた」
ルスラン博士は、
「剣道の胴着は意外と重くて助けるのが大変だったんだぞ」
ラウロが、
「近くに剣道の道場があって、胴着を着たまま道場に行ったこともあって、その途中に川があったんだ。まだ7歳か8歳のころだね」
リリーが
「ずっと日本に住んでて、剣道って、聞いたことはあるけど実際に見たこともやった事もないわ。日本人でも今じゃ”剣道”知らない人多いわよ」
「そうじゃな、”剣道”というのは古くから伝わる日本の 剣技を競う武道だ 。垂・面・小手・胴を身に着けると結構重くなるんだぞ。剣道?竹刀?・・・聞いた事あるけど実際に経験する人は少なくなった。私は結婚する前は日本に住んでいて剣道をやってた。そう言えば、お前たち、忍者って知ってるかな?」
サイモンが、
「知ってるよ、”手裏剣”使うんだ、聞いたことある」
ラウロが、
「父さんは大の日本びいきだったんだよね。だから日本人の母さんと結婚したんだ」
「実はウィンには内緒だが、日本刀のような新しい武器を考えておるんじゃが・・・」
ルスラン博士は、3人の顔を窺いながら話し始めた。
「スカイ・フォーにはフラッシュリングという”手裏剣”まがいの武器がある。ファンタスティック・スリーにも何か強力なアイテムが欲しいと思っているんだ」
ラウロが、
「父さんは相変わらずだな、ウィン博士へのライバル意識は衰えていないね」
「母さんと結婚する前は、オードリーを二人で取り合ってた。私が母さんを選んで一件落着とあいなったんだ」
惑星ドンヴァースに拠点を置いていたマリコフは・・・
核の転送に失敗したサラとニナたち一行を母船に呼び戻したマリコフは、居場所が奴らに知られていたのは、なぜだ!激しく歯ぎしりをしていた。
マリコフの側近チェスラが、
「マリコフ様、サラとニナは大きな間違いを犯しました。現場で不用意にテレパシーを使用してしまったのです」
「どういう事?」
「テレパシーは本物と偽物の相手を区別しません。本物のスーパーツインズにもイメージが伝わってしまったのです」
マリコフたちは新たな転送方法を模索していた。