オードリー | SFショートショート集

SFショートショート集

SFショート作品それぞれのエピソードに関連性はありません。未来社会に対するブラックユーモア、警告と解釈していただいたりと、読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。長編小説にも挑戦しています。その他のテーマもよろしく!!

本編は「乾杯!!」続編です。

 

 今日オードリーがソフィアのオフィスを訪れたのには訳があった。

 オードリーが

「あなたが依頼したデータの集計結果が出たわよ」

USBメモリーをウィン博士に渡した。

ウィン博士は早速メモリーをAIに読ませた。ホログラムにデータと分析結果が示された。

 

 ウィン博士は「DNAと寿命」の関連度で、ある疑問を持っていた。

 そもそも人の寿命は、どれだけ遺伝子に左右されるのだろうか?長寿家系が生まれる一因は「同類交配」にあるという研究結果もあった。人の寿命の真の遺伝性は、おそらく7パーセントにも満たない。先行研究の推定では、寿命の長短に対する遺伝子の寄与率は1530パーセントの間の値を示していた。

 カーラとメグの両親がそろって短命という運命を背負うことになったのは単なる偶然なのか?二人の両親はいずれも50歳代でサイボーグへの転身を余儀なくされたのである。平均寿命が110歳に到達した現在、これは非常に稀なケースだ。彼女たちの両親はいずれも免疫不全症候群だと聞いている。重症のタイプでは感染が改善せず、致死的となることもあるのだ。

 

 例えば猫、雑種はいろんな猫の血が混ざっている。なので、一般的に「遺伝疾患もなく、免疫力が高いので、純血種よりも長生きする」と言われている。カーラとメグの両親がいずれもヒュームの”血の継承者”だった場合、二人はヒュームの純血種により近いといえなくもない。そうなると、彼女たちが・・・20年も先の話ではあるが、急激に免疫力が低下してくる可能性も否定できない。

 

 では自分自身はどうだ?

 ウィン博士自身も”血の継承者”だ。しかし、自分は60歳を過ぎているがその兆候はない。幸か不幸かウィン博士には子供ができなかった。彼は、カギは「同類交配」にあるかもしれないと思うようになった。人はランダムな配偶パターンから予測されるよりも高い確率で、寿命の近い相手を選択していたことがわかっている。そして、同じ肌の色や人種を意識して選択する傾向が強い。「同類交配」と呼ばれる現象は、遺伝子に基づくものかもしれないし、社会的・文化的要因が原因である可能性もある。生活環境や教育レベル、質の高い医療への依存度といった、非遺伝性の特徴にもあてはまる。

 ヒュームの”血の継承者”同士は意識しないで惹きつけ合う可能性も否定できない。純血種に近いDNAの持ち主とウィン博士のような「雑種」の要素が混入した”血の継承者”の違いなのか?誰もが両親から半分ずつDNAを受け継ぐのだから・・・頭の中で堂々巡りが始まる。

 今後の研究結果を待たなければいけないが、彼女たちのためにも、免疫力を維持するための方策は考えておく必要がありそうだ。

 

 ウィン博士は、この件に関してはオードリーに任せることにした。オードリーは優秀な医者なのだ。

 

 

 話を3時間前に戻そう。

 

 会食の翌朝、カーラとメグ、そしてファンタスティック・スリーの3人はソフィアのオフィスでくつろいでいたが、サイモンとリリーは日本のレスキュー本部でのVRシミュレーショントレーニングに参加するために早々に引き上げようとしていた。その時ラウロが、兄が働いている日本という国を見たいと言って、邪魔でなければ一緒に日本に行きたいと言い出した。

 サイモンとリリーは歓迎してくれた。

「いざとなれば、今の僕らはひとっ飛びだもんね!」

 

 カーラとメグは宇宙港への出発までまだ時間があった。今度こそ何事もなく予定通り帰れることを願っていた。随分と長い間二人はマーズオフィス、ルナオフィスに顔を出していない。それでもスペース・ナビの本社は彼女たちを特別待遇していた。彼女たちは言わば会社の「看板」であり、”血の継承者”そして、今やスーパーツインズとしてその正体を惜しげもなくさらけ出していたのだから・・・

 

 ウィン博士とルスラン博士が、中年女性を連れてカーラたちがくつろいでいたオフィスに入ってきた。カーラとメグにウィン博士はその女性を紹介した。

「私の妻、オードリーだよ」

「はじめまして、メグ・バークリーです」

「私はカーラ・ファーナム」

「ウィンのパートナー、オードリー・ヴァンよ、よろしくね。二人の活躍はいつもウィンから聞いてますよ。ちょうどよかったわ、コーヒーいかが?」

彼女は抱えて持ってきたバックの中から熱々のコーヒーの入ったカップを二つ取り出して手渡した。

ルスラン博士が

「彼女は優秀な外科医で臨床心理士でもある」

オードリーは残りのカップをウィン博士とルスラン博士に差し出した。

 

 ルスラン博士が一口飲むと

「おい、カフェラテじゃないか」

「そう、あなたはラテよ」

「ブラックにしろといつも言ってるだろ」

「胃に悪いのよ、ブラックは・・・」

「俺はブラックしか飲まないこと知ってるだろ」

「最近胃が荒れてるって言ってたんじゃないの」

「お前なぁ・・・」

「今さら、あなたにお前呼ばわりしてほしくないわ」

傍で聞いていたメグが

「ルスラン博士、マジで怒ってる?」

カーラもうなずいて、ウィン博士の様子をうかがった。

ウィン博士はいつものことだと言わんばかりに

「ほっとけばそのうち治まるよ」

「私たち聞き間違えたような・・・オードリーさんはウィン博士の奥様ですよね」

「あの二人は夫婦の出来損ない、オードリーはルスランの元カノ」

 

カーラとメグが同時に

 

「信じられない!」

 

 

 

…続く