乾 杯 !! | SFショートショート集

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SFショート作品それぞれのエピソードに関連性はありません。未来社会に対するブラックユーモア、警告と解釈していただいたりと、読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。長編小説にも挑戦しています。その他のテーマもよろしく!!

本編は「からくり!?」・・・続編です。

 

 ファンタスティック・スリーとスカイ・フォーのメンバーはそわそわしていた。朝から皆落ち着きがなかった。スカイ・フォーは束の間の平和な日常を取り戻して、平時の業務をこなしていた。夕陽が赤く映えるころにはソフィアのオフィスにメンバー全員がそろった。スーパーツインズは女の子らしくめかしこんでいた。これから何が始まるのかというと・・・

 

 なんと初めてのサリームメンバーとウィン博士、ルスラン博士との会食なのである。飲食を伴う行事はクアンタムやサイボーグには無縁のイベントであった、これまでは・・・・。このメンバーで会食ができるのは”ヒューマンセンス”のおかげである。初出動の際”ファンタスティック・スリー”にはヒューマンセンスがすでに組み込まれていた。例の変身パワーを搭載するときに一緒に組み込んだのである。スカイ・フォーにも実装される予定だったが、ラクサム人の一件で時間がなかったのだ。そしてその後、めでたくスカイ・フォーにもヒューマンセンスが搭載されたのである。当然ながら直接戦闘能力に影響はないが、またひとつ人間に近づいた。

 

 ウィン博士が市内の高級レストランを予約していた。

 デビットがカーラやミニョンのいつもとは雰囲気の違う出で立ちを見て、

「今日の女の子たちは一段と輝いて見えるね」

総勢11人がテーブルを囲んで料理が運ばれてくるのを待っていた。まずはビールとオードブルが行き渡ったところで乾杯だ。

 

 ルスラン博士が最初に口を切った。

「乾杯の前に・・・皆のおかげでこのような会食ができることに心から感謝している。核の恐ろしさから君たちは開放してくれた、それと、私が再びこうしてウィン博士と一緒に仕事ができるようになったのは君たちのおかげだ。本当にありがとう・・・」

するとクリスチーヌが、

「あの、もし良かったら私たちサリームを代表して、ウィン博士とルスラン博士に感謝の気持ちを伝えたいの。感謝しているのは私たちのほうです。お二人がいなかったら私たちはこの世界に誕生していませんでした。こうして食事ができること自体考えることもできなかったのに、お二人は神に等しい存在です、ありがとうございます」

今度はサイモンが

「そうですよ、僕もラウロもそしてリリーも新しい生き方を与えてくれた父さんに感謝しています」

最後にカーラが感謝の気持ちを伝えた。

「何も知らない私とメグに対して、ヒュームの人たちとの交流を陰から支えていただき、ことあるごとに親身になって相談に乗っていただいたウィン博士には感謝しています。貴重な経験は地球の人たちに必ず役立てたいと思っています、ありがとうございます」

ルスラン博士が

「親身になってくれた事には訳があるんだよな、ウィン・・・」

ウィン博士は、

「・・・というか、まずは乾杯しよう!われわれの永遠の愛と友情、そして地球の平和を祈って・・・乾杯!」

 

・・・乾杯!!

 

 

 スカイ・フォーたちは生まれて初めて食物を口にすることになった。

デビットが、

「”美味しい”という感覚って・・・こういうことなんだ」

横に座っていたミニョンが

「デビット、お肉はもっと小さく切って食べるものよ」

口いっぱいになるまで詰め込んで、ガツガツ肉を食べていたデビットをたしなめた。

ジョージが

「まずは食事のマナーを学ぶ必要があるな、デビット」

 

 一方のファンタスティック・スリーは人間であった時の記憶がよみがえり、感無量の面持ちで、計り知れないほどの思いをこめて食事を味わっているようにみえた。

サイモンが、

「こうして食事を楽しむことができて、改めて人間の素晴らしさを感じるよ。生きるって、幸せってこういうことなんだ、決して贅沢をすることで得られるもんじゃないよね、失って初めて気づいたよ」

ラウロが、

「小さい頃母さんが作ってくれた料理を思い出してしまった」

 

 ところでクアンタムやサイボーグは酔うことができるのだろうか?

 

 博士によると、ヒューマンセンスはコントロール可能なので、酔う度合いは自分で決められるということだ。是非人間にも欲しい機能だと、カーラはお酒を飲み過ぎた自分に言い聞かせた。そして、

自分の両親のことを思い起こしていた。カーラの両親は50代の若さでサイボーグの身体に依存していた。両親とは務めて食事に関する話題は避けてきた。ヒューマンセンスを目の当たりにして、いつしか両親とまた一緒に食事をしたいという思いに駆られていたのである。

 

 カーラはウィン博士が乾杯してはぐらかしたことが気になっていた。

「ウィン博士・・・親身になってくれた事には訳があるって、ルスラン博士がおっしゃってましたよね。続きを聞かせてくださいな、ルスラン博士は知ってるんですよね?」

カーラは少しろれつが回らなくなってきたのを意識しながら、ウィン博士に尋ねた。

「そのうち言おうと思ってたんだよ。隠すつもりもなかったし、別に公にするほどのことでもないかと・・・それにシャリーも言ってたことだし・・・」

カーラは虚ろな目で、

「シャリー・・・?ヒュームのシャリー?」

「そうだよ、地球に住み着いた子孫の血を受け継いでいるのがカーラとメグだよね。地球はある意味枝分かれした子孫の住む星、おそらく探せばカーラとメグ以外にももっと多くの血の継承者が見つかるかもしれないけれど、それだけで十分だ、ってね」

「それで・・・」

 

「私も”血の継承者”だと分かったんだ」

 

カーラの目が大きく見開いた。いい意味で、心地よい酔いが醒めてしまった。

 

 

 

…続く