メトロの中で、2人連れの酔っぱらいのおじさんに出会った。
その内の1人は、競泳用のキャップとゴーグルを付けていた。彼はとても愛想が良く、駅で乗客が乗って来る度にあいさつをする。パリの地下鉄4号線での話だよ。
ボンジュー、ムシュー! ボンジュー、マドムアゼル! サヴァ・ビアン? コムシ・コムサ?
こんなちょっと困ったおじさんは東京の電車の中でもたまに見かけるけどね。でもヨーロッパの地下鉄での方がだんぜん遭遇率が高いと思うんだ。
おじさんに話しかけられた乗客は、たいてい返事をせずにそっとその場から離れてしまう。
そんな中、ある駅から20代後半の女の子が乗って来た。いや、彼女の容姿について詳しくは語らないけどさ。とてもキュートな子で、むしろボクがキャップとゴーグルを借りて話しかけたいくらいだったよ。
マドムアゼル、ご機嫌かい? 今日もまた可愛いね。
もちろん、ゴーグルおじさんは話しかけた。彼女は反応しないけど、おじさんは続ける。
そう。そうなんだよ。おじさんは魚なんだな。いつ水に入ってもいいように、こうしてキャップをかぶってゴーグルを付けているんだよ。一緒に泳いであげてもいいよ。
あれ? 彼が許してくれないって? 彼氏いるの? 結婚してんの? おじさんが結婚してあげてもいいんだよ。
ま、たぶん、こんな感じね。
話しかけられた彼女の方は、不愉快そうな顔をするでもなく、なにか不思議なものを観察するみたいにおじさんの方をずっと見ている。軽く笑顔と言ってもいい。
無視されたりあからさまに嫌悪感を示されたりしたら、おじさんもすぐに話しかけるのをやめてターゲットを別の人に移すんだろうけど、彼女にずっと顔を向けられてるものだから、話すのを止めるに止められない様子なんだ。
これが結構、面白かった。
おじさん、普段はそんな長い会話にならないものだから、まぁ会話って言っても一方通行なんだけど、話しのネタがそんなに多くないんだな。もう、なにを話して良いものやら場が持たなくなってきちゃって、舞台で受けなかった若手芸人みたいになって来ちゃって、自分のゴーグルを外して隣のおじさんにつけて、すこし引っ張って顔にパッチン! なんてしてた。
ちょうどその時、駅に到着して扉が開くと、その彼女が何事もなかった様にすーっと降りていった。
おじさん2人からなんとなく漂う安堵感。そして周りの乗客達も、その安堵感を共有してるのがよくわかる。
いや何がすごいって、その彼女の「微笑み殺し」って言ってもいいワザだよ。片道1.27ユーロ(10回券買ってるから、ちょっと割引)で見た、なかなかのパフォーマンスだったと思う。
【今日の小指】
さてお待ちかね。大好評の「今日の小指」のコーナーです。
今日も小指は固定されっぱなし。シャワーの時はテーピングと固定器具を外していいんだけどね。でもその間の無防備な小指が、何かに当たってはいけないんだ。
狭いシャワールームで小指に全神経を集中させてるから、全然リラックスしないんだよ。
今日蚤の市で、割と気に入ったので娘のお土産にピンズ(ピンバッヂ)を買おうと思ったんだけど、これに値札10ユーロとか付いている。高い!
そう思ってた時にちょうどお店のお姉さんが、「どう?気に入ったのある?」ってな感じで話しかけて来た。これ気に入ったんだけど高いよなぁ、ってな返事をした。
高くないわよ。いくらなら良いの?
そうだなぁ、2ユーロぐらいなら3つ買うけどね。
2ユーロ!?
そのイントネーションに、「なんか心外だわ」ってニュアンスを感じたものだから、「そうさ。2ユーロって言ったのさ」って表そうと思って指を2本出した。
ぷぷぷ。3ユーロってこと? それともこの太いの1本は5ユーロなの。あ、ごめんなさいね。怪我してるの笑っちゃって。でも1つ7ユーロまでなら、おまけしてあげてもいいわ。
つまり、こんな具合になってたワケです。
小指が曲がらないと、他の指の動きも全て滑らかじゃない。
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