いや、今は計画停電に至った経緯について語りたいんじゃなくてね。
ひさしぶりにランタンの灯りで家族で食事をしたのは、不謹慎かもしれないけれど楽しい経験だったんだな。
子供らが小さい時分には、テントや寝袋を車に積み込んで毎年キャンプに行ったものだけど、しばらくそんなことをしてなかった。計画停電が発表された日、物置からキャンプ用具を引っぱり出して来て、ガスランタンがちゃんと灯るか昼間の内からチェックしたっけ。
ネパールの街は、ひっきりなしに停電する。
ホテルやレストランや土産物屋はそれぞれに自家発電機を持っていて、停電になるとこれに切り替えるのだけど、カトマンズのボクの宿は昼間の内は停電になっても自家発電機をまわさないんだ。
電気が通じてないからネットもストップ。いろいろと調べ物をしながらの旅には不便この上なかったのだけれど、これってネットが使えることを前提に旅していたからでさぁ……
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ポカラでは、最初からネットもテレビもなかった。
ボクが取った宿は、そういうものから離れて時を過ごすってのがコンセプトらしくてね。
最初からネットがつながらないって分かっていたから、停電なんてむしろ夜が夜らしくて良いくらいだったんだな。
街には暗くなっても仕事をしている人がいる。
でも停電になると、それを合図にどこからともなく「あぁ」と声が聞こえて、それで仕事は終わり。
その後は、虫の声や犬の鳴き声や、時々窓が一瞬明るく照らされたかなと思うとバイクの音が聞こえたり、ふと静かになると停電モードになった人間達の会話が聞こえて来る。
光の無い環境に夜が馴染んでくると、ヤモリが鳴き出す。
東京のボクの家にも小さなヤモリが住み着いていて、くもや昆虫は激しく怖がる我が家の女性達もヤモリには好意的なんだ。「ヤモちゃん」って呼ばれて愛されているくらいなんだけど、でも我が家ではヤモリが鳴いてるのを聞いた事がないんだな。なんでだろう……
ヤモリの鳴き声を聞いていると、自然と人家がちょうど良く混じり合ったあたりに居る気がするよ。
リラックスする。
テレビもなくてネットもない。そしてボクは一人旅で孤独。でもなんかとてもゆったりとした時間でさ。

↑ 停電の夜 チャイ(ミルクティ)とビールと Yeti Airlines でもらったピーナッツ
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停電の 夜にヤモリの キョキョと鳴く

ヤモリは夏の季語らしい。ポカラはもう夏なんだな。