そうか? むしろボクが居なくて仕事が楽になるって喜んでいるんじゃないのか? でも旅行中、セバスチャンにはいろいろと世話になるな。屋敷の事、母のこと、伯母のこと、女房や息子や娘のことをよろしく頼むぞ。 セバスチャンと長く会えなくなるのも、寂しいことだな……
----- はい。寂しゅうございます。ふふふ…… 寂しゅうございますが、ふふ……
おい。なにクスクス笑ってるんだ。
----- いや、旦那さま。セバスチャンめにも、いよいよ「モテ期」到来でございます。旦那さまがお留守の間に、セバスチャンも所帯を持ってしまうかもしれません。
モテ期だって? セバスチャンにようやく? それはめでたいな。で、いったいどうしたんだ?
----- 最近、色んな女性からメールが来るのでございます。仕事に追われてばかりで出会いがなくて寂しいからメール友達から始めてもらいたいとか、女医をしていてお金には苦労していないのだけれど一緒に遊んでくれる男性が居ないとかなんとか。
セバスチャン。お前それ、詐欺メールだろ?
----- もちろん分かっておりますとも。でもこれはどうです? ほら、本人の写メが添付されてございましょ? マリコさんという女性からです。ほら、タイトルに「48マリコです( ̄▽ ̄)」ってありますでしょう。「そうだ!写メ交換しませんか?」って、ほらここに、書いてございます。
本当だ。写メつきだ。カワイイ子じゃないか。しかし48歳には見えないな。どうみても20代だろ? 本物なのかな……
----- いやでございますね、旦那さま。48は年齢ではございませんです。48といえば AKB でございましょ? AKB でマリコといえば、篠田麻里子でございます。ほら、本人の写真でございます。
あぁ、知ってる。知ってる。あの「上から下から、まりこ~」の篠田麻理子だな。
----- 旦那さま、それは畑中葉子でございます。お下品な。
おいおい。ボクとしては下品さをずいぶんと弱めたつもりだったんだがなぁ。
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で、セバスチャンは、それが本人からのメールだって信じているのか? 返信はしたのか?
----- いえ、返信する勇気はまだないのですが、これは偽物でございましょうか。
偽物でございましょうかってね。本物のはずがないだろ? だいいち何で AKB がセバスチャンのこと知っているんだ。ん?なんだって?ファンクラブに入っている? いやはや……
セバスチャンね。そんなメールだったらボクの所にもたくさん来る。
この前なんて「斉藤○子」という女性から写真付きですっごい提案が来たぞ。本人の写真も来たがなかなかの美人でね。
彼女は、アメリカの運用会社でヘッジファンド・マネージャーをしているんだそうだが、個人資産の一部の7,500万円を是非ボクに受け取って欲しいという提案なんだ。
税務対策上の必要とかで、個人資産の内の数千万円を贈与することなどしょっちゅうあるということなんだな。
既に振込の手配は整っていて、7,500万円はアメリカ政府の許可を受けた国法銀行へ入金されていてね。ボクの了承があり次第、振り込まれる段取りなんだそうだ。
現金の写真付きだよ。ほら。

ってか「国法銀行」って何なんだろうね。
----- おやおや。これまた気前の良い話ですな。しかし旦那さま、それは詐欺メールでございます。断じて、きっぱり、詐欺メールでございます。
あのねぇ、セバスチャン。詐欺メールだなんて分かってるんだよ。いまさら何だよ。篠田麻理子からのメールを本物じゃないかって思ってるセバスチャンに、そんな指摘はされたくないな。
----- やはり、両方とも偽メールなのでございましょうか……
いや、セバスチャン…… どうだろうな。
もしも、もしもだよ。両方ともメールが本物だったとしたら……
(2人声を合わせて) 世の中にはなんて優しい人物がいるのだろうか! 世の中まだまだ捨てたものじゃない! ボクら2人、そろって「モテ期」なのかも知れないじゃないかぁ!
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セバスチャン、空しくないか?
----- はい。空しゅうございます。
だろ? そうだろ?
でもね…… 詐欺師は居るかもしれないけどさ。きっと世間はまだまだ捨てたものじゃないと思うな。
ボクはそれに少し期待しているんだ。
これからの長い旅で、世間の良いところに出会えることをね。
じゃ、連絡するぞセバスチャン。クリスマスのディナーは一緒に食おう!
¡Adiós, Hasta luego!
