ハバナ最初の夜のお話 | /// H A I H A I S M ///

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あわてない、あわてない。赤ちゃんが「はいはい」するように、のんびりゆっくり進みましょう。

----- 旦那さま、ハバナ最初の夜はいかがございましたか。

セ…… セバスチャンじゃないか。なんでこんなところにいるんだ?

------ いえね。旦那さまがハバまで仕事に行かれるって伺ったものですから、わたくしめもちょっとお供しようかなと……

お供ってなんだよ。ついて来るならそう言って来いよ。内緒でお供なんて話は聞いたことがないぞ。

------ まぁ、そう怒らないでくださいまし。わたくしだって気を遣ったのでございますよ。ハバナに出張とかおっしゃって実はお忍びのご旅行だったらお邪魔になるかと思いましてね。それでわざわざ、ホテルも別に取った次第です。

そうか、別のホテルか。少しは気が楽だな。

------ それですがね。旦那さまがお一人だってわかったものですから、それならばご一緒させていただいた方が旦那さまのご安心かと。

あのね。別にセバスチャンに心配してもらわなくてもいいんだけどね。

------ そうは言いますが、わたくしはスペイン語にかけては、旦那さまより10倍は上手かと……

セバスチャンはスペイン人だろ。ネイティブじゃないか。比べるのは卑怯だよ。

------ 旦那さま。わたくしもハバナに来たかったんでございますよ。実を申しますと、先祖の一人がキューバに移民しましてね。えぇ。大伯父さまの従兄弟の義理の父親にあたる人なんでございますが、そういうワケこちらに親戚がいるのでございますよ。

なんだ。親戚に会いたかったのなら、最初からそう言えば良いのに。

*****

------ ところで、ハバナの夜はいかがでございましたか? わたくしは、それが聞きたかったのでございます。

まったくひどいものだよ。食事をしようとレストランを探しながらブラブラとしてたんだ。ちょっと可愛いウェイトレスのいる店があったんだよ。満面の笑みを浮かべて、美味しいパエリャがあるわよ、って言うんだよ。

------ 相変わらず旦那さまは、笑顔の女性に弱いのでございますね。それにしても、ハバナまで来てパエリャですか。

あのねぇ。セバスチャンの国の料理だよ。むしろ光栄に思って欲しいくらいだな。
いやね。マドリッドにいた時、キューバ人の母娘が一緒の家に暮らしていたことは前に話しただろ? 彼女が、彼女っていうのは娘の方だけど、キューバにもパエリャがあるわよ、って言っていたんだよ。サフランも入ってなくて、鶏肉と豆が入っているだけなんだって言うから、それはパエリャじゃないだろうって思っていたんだけどさ。
ここに来てパエリャって言葉を聞いたら彼女のことを思い出しちゃってね。彼女の食べていたパエリャが食べられるかもしれないって。

------ そうですか。なにか思い出でもあるのでございましょうね。で、いかがでございました?キューバのパエリャは。

それが、食えなかった。

------ それはまたどうして。

パエリャは2人前より承りますってメニューに書いてあった。やつらの食べる量はただでさえボクの適量の2倍はあるんだ。それを2人前って、ほとんど残すことになる。

------ わたしがご一緒していればよろしかったのに。

そうさ、よろしかったのさ。なぜ、肝心な時に居ない。

------ 本当に申し訳ないことをいたしました。明日のディナーは是非ご一緒いたしましょう。で、どうなされましてた?

鶏と野菜のスープとサーロインを頼んだよ。あとビールもね。

------ 美味しゅうございましたか?

それがだよ…… 笑顔のかわいい彼女に注文したすぐ後に、およびでないブサイクなウェイターが来て、あいにくサーロインは切らしておりますって言うんだ。

------ それは返すがえすも残念でございましたね。

ところが、すぐに笑顔のかわいい彼女が、大丈夫ですよありますよって言いに来た。実に良い子だ。

------ ほぉ。
  
するとまたすぐにブサイクが来て、サーロインはありますが豚のサーロインになります。キューバスタイルですとぬかした。焼き加減をレアでお願いって言ったばっかりなんだよ。豚だったらウエルダンにしてくれよって言ってやった。

------ 豚のサーロインでございますか。珍しゅうございますな。

するとすぐにまた笑顔の彼女が来て、大丈夫ちゃんと牛肉ですからって。もう、何がなんだか分からんよ。合挽肉でも来るのかよ。豚なら火を通してくれよ。

------ まぁ、そう興奮なさらずに。で、結局どうだったのでございますか?

鶏のスープが来た。味が薄い、というかコクがない。野菜を噛むとジャリジャリとした食感の上に、なんか青っぽいものを噛みつぶしたような嫌な香りがした。

------ いやはやでございますな。それで、ひどいものだっておっしゃったのでございますね。

そうさ。だがね、ひどいのはそれまでだったね。サーロインはたっぷり300グラムはあろうかって量で、これが実に美味いんだ。なんか嬉しくなっちゃってさ。

$///   H A I H A I S M   ///-サーロイン
↑盛り付けは洗練されてないけどね

------ 嬉しくなって?

ビールをおかわりした。

------ はぁ。

肉を食べている内にだんだんと涼しい風が、ハバナ湾を渡る涼しい風が店に入るようになってね。なんだか気持ちが良いなって思ったころを見計らったように、流しの音楽家3人が入ってきて演奏を始めたんだよ。

------ ほう。

なかなか良かった。フィデルの写真とキューバの国旗が飾ってあるパティオのレストランで、流しの演奏するチャチャチャを聴きながらの食事さ。あぁ、学生の頃からの願いがかなって、やっとボクはハバナにいるんだなって感動したさ。

------ 旦那さま、ひどいものだなんておっしゃっておいて、良い夜を過ごされたのでございますね。

あぁ、そうだよ。良いと悪いは交互にやってくるものなのさ。いつも言っているだろ?
今は次の良いことが何か楽しみにしているところさ。

------ おや? 次は悪いことではございませんか?

ちがうよ。ホテルに戻って来たらおまえが居た。


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後日そのレストランにはもう一度行くことがあって、隣のテーブルのカップルが仲良く食べてるパエリャを覗いてみたら、スペインのパエリャと同じような見栄えだった。豆と肉だけじゃなかった。
それもそのはず、そのレストランはホテルに併設されたレストランで、そのホテルの名前は「バレンシア」
バレンシアと言えばパエリャの本場だものね。

そして、牛肉を出してくれた笑顔もキュートなウェイトレスのお姉さんともちゃんと再会しましたとさ。