
この山で 死にかけたねと君が 言ったから 7月20日は 山の記念日
7月20日なら「海の日」だろってのは、無しですよ。
そりゃそうだけど、ボクに取っては山の想い出の日だし、
それに「海の日」は今では第3月曜日だし。
「サラダ」は7月6日だし。
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もう10年くらい前のこと、
山好きの友人H氏に誘われて、山登りに挑戦することになったのね。
もちろん、ボクだって山は初めてじゃない。
我が家は浅間山の近くにあるから、小学生の頃から、友達と良く山頂まで遊びにいった。
自転車でね。
あ、驚くことはありません。
浅間山って言っても「あさまやま」じゃなくて「せんげんやま」ですから。
「せんげんやま」は、そうだなぁ...
墓地のある麓から大きな木が1本と草むらの山頂まで、30~40メートルはあったかな。
草むらの中では、時に若い男女がモゾモゾとしてたりして、
さすがに居たらまずいと思ったボクは、あわてて麓まで自転車で一気に降りようとして、
ドブにはまったことがある。
どうでもいいことだけど。
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H氏が、浅間山の次に登る山としてボクに選んでくれたのは、八ヶ岳の赤岳でした。
赤岳は八ヶ岳の中では最高峰。山頂の標高は2899mです。
それ、高山病にならないですかね?
途中でフリークライミングなんて、ないですよね。
と、怯えに怯えたボクの気分を察知してか、
「大丈夫ですよ。なつむぎさん。
なつむぎさんは、自分の着替えと食糧だけをリュックに入れて来てください。
その他の、キャンプに必要なものは全部、経験者が持っていきますから」
やぁ、だから、経験者ってスキだよ。ラッキー♪ ってなもんです。
ボクは自分の荷物と、自分の身体だけ、なんとか持ち上げればいい。
その他のキャンプ道具一式は、若くて健康で基礎体力がある山男たちが、持って上がってくれる。
こうして、めでたくボクは「事実上」生まれてはじめての山登りをすることになったワケです。
それが7月20日だってこと。
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実の所、登頂直前のキャンプサイトまで行ったら、
高山病のフリをして、ボクだけそこで待ってようかなって思っていたりした。
ところが、麓からキャンプサイトまで行く内に、なんだかハイになってきた。
規則正しくゆっくり歩くペースが、サイキックな効果をもたらしたのかな。
ランナーズ・ハイってヤツに近いのかもしれない。
それに、キャンプサイトまで行くと、今まで見えなかった山頂がくっきりと見えている。
あそこまで登ったら格好いいだろうなぁ。
もう、すっかりアルピニストだなぁ。
「山男には、惚れるなよ」だよなぁ...と、
すっかり登頂に意欲がわいちゃってさ。
で、結局、山頂まで行ったよ。
もちろん、初登山のボクはすごい快挙を成し遂げた気分でいた。
でもね。
山頂には、ボクより2~30歳は上だろうと思われる年配者やら、小学生やらがワンサカと居て、
なんかみんな、気楽なピクニック気分って感じで和やかなんだよな。
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頂上では、H氏の入れてくれたコーヒーを頂いて、
さぁ、そろそろ別ルートでキャンプサイトまで下山しましょうか、って頃、
突然、空が暗くなり始めた。そして激しい雨と雷。
土砂降りの雨の中、急な斜面を下りていると、ビシビシビシと背後で大きな音がする。
どうも、近くに雷が落ちたみたい。
ボクより10メートルほど先を歩いているH氏が、振り返って何かを叫んでいる。
なんか、Have an eye とか?
はい? May I help you? って聞き返すべきですかと迷っていると、
ボクの横2~3メートルとところを、小学生の運動会の大玉送りくらいの大きさの岩が、
ごろんごろんと転がり落ちていったんだよね。
ボクはただキョトンとするだけだったけど、
ボクの前方を行っていたメンバー達は、その時、香典の額を考えていたに違いない。
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なんだかんだあって、グチョグチョのずぶ濡れになってキャンプサイトに戻り、
いやぁ、あぶなかったね、なんて話になった時、
あぁ、あの時H氏は「あぶない」って叫んだんだって気付いた。
「当たると思いましたよ」 のH氏の言葉に、
「ね。もしさ。あそこでボクが怪我をしたらどうなってたの?」 と質問すると、
「ボクら山登りをする人間は保険に入ってるから、ヘリで救助に来てもらうだろうけど、
なつむぎさんは保険に入ってないから、みんなで担いで降りることになったでしょうね」
うはは。大玉送りの玉に潰された自分が、背負われて山を降りる姿を想像しちゃったよ。
で、その姿を肴にビールを2本(ロング缶)。
山登りのメンバーの足を引っ張っちゃ行けないって思って、
3日間、断酒をしてこの日を迎えたボク。
その、美味さは半端じゃないね。
初登頂の興奮と、
死ぬかもしれない所だったんだっていう高揚と、安心感と、
そんなものを味わいながらのビールは、本当は2本じゃ足りない位だけど。
でもさ。
夜中にトイレに行きたくなったら怖いだろうなって思って。
