お姫様伝説:前編 | /// H A I H A I S M ///

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あわてない、あわてない。赤ちゃんが「はいはい」するように、のんびりゆっくり進みましょう。

庶民の皆さん、ボンジュール。
欧州のとある国の貴族の血を引くと、もっぱらの噂の「なつむぎ」です。

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もちろんはっきりとウソだってわかってますってば。
本人のことですから。

でもさ。
もしある時、母の故郷の国から初老の執事がボクの前に現れて、

「あなたが、なつむぎお坊ちゃまでいらっしゃいますか。
 1000万ユーロと、
 アスコット競馬場の競走馬3頭と、
 ボルドーのシャトーの権利をお届けに参りました。
 あなたの伯父上の遺産でございます」


なんて言われたら、どうしよう...

まぁ、母の故郷はヨーロッパじゃないし、富豪の兄さんがいるなんて話は聞いたことがないし。

でも実は、母の家族に関しては伝説がある。
母の口からだけ語られる伝説がね。
もちろん、自分は本当はヨーロッパの貴族なのよ、なんて伝説ではないけれど。

母の語るところによると...

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 母の父の父、つまりボクの曾祖父は、
 渋谷の道玄坂で大きな薬問屋を営み財を成した人物でした。

 しかし残念なことに、関東大震災で店が焼けてしまい、
 再建の努力の甲斐無く、結局は薬問屋を廃業せざるを得ませんでした。

 どういう経緯があったのかは定かではありませんが、
 その後彼は東京を離れ、某県某村で村長を務めることになりました。

 母の父(ボクの祖父)が生まれたのはこの頃です。
 小さなころからとても賢かった少年は、何の不自由もなくすくすくと育ち、
 長じて東京の大学で法律を学ぶことになりました。

 村長である彼の父は、その頃には再びかなりの財産を築いていたようです。
 彼は、学生でありながら芸者遊びをしたりと、
 親の財力で、派手で贅沢な学生生活を送っていたということです。

 大学が休みに入り、彼が実家に帰る際には、
 村長の息子の帰省を歓迎するために、村では花火があがりました。

 花火に迎えられた祖父は、
 鉄道の駅から自分の家まで、他人の敷地を通ることなく帰ることができたということです。

 曾祖父は、村の大地主になっていました。

 その後祖父は、大学を主席で卒業し、母の母になる女性と出会い、
 結婚をして4人の子供をもうけました。


*****

その4番目の子供が、ボクの母です。

母の語るこれらのエピソードは、母自身の記憶によるものではありません。

なぜなら、母の家族の生活が華やかだった時代は、
母の18歳年上の長兄が少年時代を送った頃までで、
末子の母が生まれた時分には、
母の家族は、とある寺の敷地に建つ家屋を間借りして、暮らしていたからです。

ボクは青年の頃、母に内緒でその寺を見に行ったことがあります。
寂しい田舎町の小さな寺でした。

没落の経緯はこうなんだそうです。

 村では、村人のかねてからの望みであった治水工事が行われる事になりました。
 しかし村の予算ではなかなか工事が進まない。
 村長であった曾祖父は身銭を切って工事を進めたのだそうです。
 そのさなか、洪水によって工事が台無しになってしまいました。

 この事故により曾祖父は破産し、祖父の家族も没落することになりました。


教養はあるけれどお坊ちゃま育ちで生活力のない祖父の家族が、
その後華やかな生活に戻ることは無かったようです。

気位の高い祖父は、だれかに雇われて仕事を始めても直ぐにケンカをして辞めてしまい、
結局、学生の時に学んだ法律の知識を利用して、
近隣の人々の法律相談のようなことをして生活費を作っていたということです。

気位ばかりが高くて生活力の無い祖父。
それでも母が祖父を語るときは、とても美しい想い出を語るようです。

いつでも一品多かった祖父のお膳から、母だけはおかずを分けてもらっていたとか。
学生時代に、勉強で分からなかったことを祖父に尋ねると、何でも的確に教えてくれたとか。

きっと母は、末娘として父親の強い愛情の元に育てられて来たのでしょう。

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母の語る祖父と曾祖父の物語の、いったいどこまでが本当の事なのか、ボクはとても懐疑的です。
これらのエピソードは、母の心に刻まれた伝説(つまりは虚構)なんだって思ってます。
でも母にとっては、その伝説が真実であるかどうかは関係がないようです。

とても不思議に思っています。

母はどうして、こういう伝説を必要としたのでしょうか。

そして、母の大切にするアルバムにはなぜ、
構えの大きな店の前で、主人や番頭や店員が集まっている写真や、
護岸工事の進む川を背景に、揃いの袢纏を着た職人達が写っている写真があるのでしょうか。

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もしも、映画「ビッグ・フィッシュ」で、
ウソだと思っていた父親の若い頃の荒唐無稽な冒険譚が、
彼の葬儀の時に事実だったとわかったのと同じ様に、

母の葬儀の時に、

一緒に旅した巨人カールや
腰から上だけが2人分の美人シャム双生児や
オオカミ男だったサーカス団長がボクの目の前に現れたら、

ボクは、人を襲う森とその先にある奇妙な美しい町の存在も信じることができるんだけどな。 *1

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今日の記事には、オチも教訓もありません。
ボクが言いたかったのは、たぶん...

子供は、親の真実を知らないまま育つ。

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*1 巨人カール、美人シャム双生児、サーカス団長は、父親の語る冒険譚の中の登場人物です。人を襲う森、奇妙な美しい町も父親の話に登場します。