福島第一3号機、建屋2階を初調査
効率よく燃料を冷やせない状態が続くと、その分、汚染水が増えることになります。より効率的な冷却方法を探るため、27日、初めて作業員が2階に上がり、放射線量を測定するとともに、原子炉に水を注ぐことが可能な配管などを調査しました。
その結果、配管に大きな損傷は見当たりませんでしたが、付近では1時間あたり最高で280ミリシーベルトというきわめて高い放射線量を計測しました。
また、3階につながる階段に大きなガレキがあったため、それ以上は上がることができなかったということです。
東京電力は27日の調査をもとに、原子炉に注水する配管を変更するかどうか、検討することにしています。(27日20:38)
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福島原発 周囲気遣い「辛い」と言えず熱中症になる作業員も
連日のように酷暑が続き、福島第一原発(1F)では作業員が熱中症で運ばれるケースが相次いでいる。作業員として原発に潜入したフリーライターの鈴木智彦氏が、作業員たちがおかれている事情をこう説明する。
* * *
1Fは世界的にみても類例のない特殊な状況だ。そのため現場の作業員には臨機応変に対処するよう、何度も繰り返し指導される。が、作業員たちに訊いてみると、具体的な場面を想定しにくいので混乱するという。一瞬でリスクを計算し、判断できる作業員は少ないらしい。
安全優先を周知・徹底させるため、作業員の休憩所のあちこちに熱中症予防の注意書きが貼られるようになった。現場監督は誰もが、自分の班から熱中症で倒れる作業員を出さないよう気を配っているはずだ。それでも、熱中症は作業員の「具合が悪い。休みたい」という自己申告だけが頼りだから、注意書き程度では抜本的な安全対策とはいえない。
「トイレさえ、車に乗ってシェルターに戻り、すべての作業着を脱ぎ捨てなきゃいけない。再びあの重装備を着込むなど時間的ロスが多いため、どうしても作業員は『つらい』という言葉を飲み込んでしまう。
同僚に迷惑をかけたくないと考え、少々の苦痛は我慢しようとするのが一番危険なんで、メーカーは口酸っぱく『少しでも危険と思ったときは、すぐに申し出て下さい』と訴えているけど、集団作業だから、やっぱり自分を後回しにしちゃう人が大半だ」(とあるメーカーの安全管理担当)
あと少し動けば作業が一段落する……といったケースで無理は生まれやすい。自覚症状、自己申告がなくても、第三者が強制的に休みを取らせるような体制を作らない限り、熱中症患者はゼロにならない。
※週刊ポスト2011年8月5日号
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* * *
1Fは世界的にみても類例のない特殊な状況だ。そのため現場の作業員には臨機応変に対処するよう、何度も繰り返し指導される。が、作業員たちに訊いてみると、具体的な場面を想定しにくいので混乱するという。一瞬でリスクを計算し、判断できる作業員は少ないらしい。
安全優先を周知・徹底させるため、作業員の休憩所のあちこちに熱中症予防の注意書きが貼られるようになった。現場監督は誰もが、自分の班から熱中症で倒れる作業員を出さないよう気を配っているはずだ。それでも、熱中症は作業員の「具合が悪い。休みたい」という自己申告だけが頼りだから、注意書き程度では抜本的な安全対策とはいえない。
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原子力賠償支援法案、衆院委で可決
また自民、公明が議員立法で提出している原発事故の賠償金を国が立て替える「仮払い法案」についても、26日の復興特別委員会で採決され、可決されました。(26日18:41)
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ストレステスト実施後も再稼働認めず…新潟知事
東京電力柏崎刈羽原子力発電所が立地する新潟県の泉田裕彦知事は26日、原発のストレステスト(耐性検査)について、「やらないよりはやった方がいいという気休め程度のレベルだ。(終了時の再稼働の容認は)あり得ない」と述べ、実施後も再稼働を認めない考えを示した。
泉田知事は、「(東電福島第一原発事故の)検証がまだ終わっていない」と指摘した上で、「事故前の知識で実施するストレステストが終わったからといって、100%安全だというのは虚構以外のなにものでもない」と述べ、ストレステストを再稼働の条件とした政府方針を批判した。
知事は全国知事会の災害対策特別委員長として海江田経済産業相と会談した後、経産省内で記者団に答えた。
泉田知事は、「(東電福島第一原発事故の)検証がまだ終わっていない」と指摘した上で、「事故前の知識で実施するストレステストが終わったからといって、100%安全だというのは虚構以外のなにものでもない」と述べ、ストレステストを再稼働の条件とした政府方針を批判した。
知事は全国知事会の災害対策特別委員長として海江田経済産業相と会談した後、経産省内で記者団に答えた。
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東電OL殺人事件15年目の新展開 「信じられない捜査ミス」と証拠隠滅
検察、警視庁を震撼させる“新事実”が明らかになった。14年前に起きた東電OL殺人事件は、一審が無罪、二審は有罪と正反対の判決が出た末、ネパール人男性の無期懲役が確定した。だが、まったく別の“真犯人”の存在を示す鑑定結果が出たのだ。またしても、警察・検察による“お粗末捜査”が浮き彫りになってきた。
14年前、事件の舞台となった崩れそうな木造アパート・K荘(東京都渋谷区円山町)は渋谷の雑踏から近い神泉駅前にいまもある。オープンカフェやイタリアンバーが並ぶ一角で、K荘の周辺だけ、時が止まったかのような気がする。
不動産屋によると、家賃4万5千円。ほとんどは外国人就労者で、入居者は後を絶たない。事件が起きた部屋には、いまも人が住んでいる。
この事件は1997年3月19日、当時、無施錠だったK荘101号で女性(当時39)の絞殺体が見つかったことから始まる。これだけなら数多ある事件の一つに過ぎなかっただろう。
だが、被害者の女性は慶大卒で、東京電力本社に勤務する年収1千万円のエリート社員。勝俣恒久・現会長とは当時、直属の関係だった。さらに、それは昼の顔で、夜になるとSMクラブや街娼として働いていた。となれば、報道は一気にヒートアップする。事件をモチーフに書かれた小説はベストセラーになった。
事件2カ月後、警視庁捜査1課は、K荘の隣のビルに不法滞在していたネパール人、ゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)を強盗殺人容疑で逮捕した。
ゴビンダ受刑者は一貫して無罪を主張し、2003年に最高裁で無期懲役が確定した後も再審請求をしていた。新事実が報じられた7月21日に、ゴビンダ受刑者と横浜刑務所で面会した支援者の客野美喜子さん(59)はこう語る。
「今年3月に、裁判所と検察、弁護側が集まった非公開協議で、弁護人が推薦した鑑定人がDNA鑑定をやることに決まった」
鑑定したものは、被害者の膣内から採取されていた精液である。
関西の大学研究者が新たにSTR法(15部位の塩基配列を調べる)でDNA鑑定した結果、ゴビンダ受刑者とは別人のものだと判明した。警視庁捜査1課元捜査員がこう振り返る。
「被害者の膣内にあった精液がゴビンダのものじゃないことは最初からわかっていた。精液の主の血液型はO型だが、ゴビンダはB型だからだ」
膣内の精液の主は、被害女性と最後に会った可能性がある「事件の重要参考人」のはずだ。捜査線上に浮かんでいたゴビンダ受刑者と別だとわかれば、この精液の主を捜そうとするのが、捜査の鉄則だろう。
だが、この元捜査員はこう言った。
「被害者が殺される約2時間前、常連客とラブホテルに行ったことはわかっている。その客はO型だった。犯人かと思ったが、この客にはアリバイがあった。そこで、精液はこの客のもので事件と無関係だろうという先入観で、DNA鑑定をやらなかった」
だが、今回のDNA鑑定で、被害者の膣内に残っていた精液はこの客のものと一致しないこともわかった。
「第三者の可能性を常につぶすという『基本のき』を怠った明らかな捜査ミスだ。被害者が浮かばれない」(別の捜査1課関係者)
さすがにまずいと思ったのだろう。今回の報道を受け、当時の捜査幹部はしきりに、こう繰り返す。
「採取された精液が微量で、当時の法医学の技術では鑑定は不可能だった」
しかし、これは詭弁だ。
警視庁から当時、この事件のDNA分析を依頼された帝京大学の石山いく(※「日」の下に「立」)夫名誉教授は本誌にこう証言する。
「被害者の膣の中に精液が残留していたことを私は当時、知らされておらず、本当に驚いている。当時は、STR法ではなく、MCT118法で鑑定していた。精液は微量でも技術的には鑑定はできたはずだ」
ある検察幹部が「余計なことをしてくれた」と嘆いたこの新鑑定には、もう一つ重要な結果が含まれていた。それは、“真犯人”の存在をも証明する事実だ。
公判記録によると、被害者の遺体の下から計16本の陰毛が採取されていた。この中にゴビンダ受刑者の陰毛もあった。
一審は「ゴビンダのものではない陰毛が複数ある。他の陰毛が真犯人のものである可能性を否定できない」と、無罪判決を下した。
一方、二審は「現場の部屋は前の住人が掃除していなかったので、第三者の陰毛があっても真犯人にはつながらない」として、無期懲役の有罪判決を下した。
最高裁で確定した判決でも、「(ゴビンダ受刑者以外の)第三者が被害者と犯行現場の101号にいたとは考えがたい」とされた。
しかし、である。
今回のDNA鑑定で、被害者の遺体の下から見つかった陰毛の1本と被害者の膣内に残った精液のDNA型が一致したのだ。つまり、この精液と陰毛の主である「ミスターX」はO型だから、B型のゴビンダ受刑者とは明らかに別人で、犯行直前まで現場にいた可能性が強くなる。ゴビンダ受刑者を有罪とした確定判決は、完全に根拠を失った。
判決によると、被害者は3月8日午後7時ごろから前出の常連客とラブホテルで過ごした後、10時15分に渋谷の路上で別れた。その後、同11時半ごろ、別の東南アジア人風の男と一緒にK荘に入るところを目撃され、9日午前0時ごろに殺害されたと認定した。
警視庁はこの「東南アジア人風の男」をゴビンダ受刑者とみた。だが、真実は、「ミスターX」だったのではないか。
それでも、検察側は、「新鑑定が再審に結びつくとは考えられない」と強気だ。
その根拠は、現場で見つかった被害者の財布などが入ったショルダーバッグだ。犯人は被害者からバッグを奪おうとしてもみ合い、取っ手を引きちぎったとみられている。その際、付着したとみられる皮膚片からは、ゴビンダ受刑者と同じB型の血液反応が出た。これが、検察が強気の姿勢を崩さない理由だ。
だが、これも詭弁だ。
公判資料によると、付着した皮膚片のDNA型は、血液型Bの「223T-362C」という型が検出されている。ゴビンダ受刑者は血液型が同じB型でもDNA型は「223T-304C」で、別の型なのだ。
「現場から見つかったゴビンダ以外のB型の陰毛は2本あり、うち一本は『223T-362C』型でした。バッグに付着した皮膚片とも一致する。真犯人を示唆する重要な証拠にもかかわらず、この鑑定の詳細は公判では証拠開示されず、検察は論告でもバッグの取っ手分析を隠蔽していました」(ゴビンダ受刑者弁護団関係者)
弁護側は何度もバッグの本鑑定を裁判所に求めたが、却下され続けたという。
「鑑定すれば、ゴビンダの無実が明るみに出てしまい、検察の墓穴を掘るので却下し続けたのでしょう」(同)
いまだ真実は明らかではない。だが、思い込みによる捜査ミス、事件の核心となる証拠の隠蔽・・・となれば、東京地検特捜部に続き、警視庁捜査1課も、窮地に追い込まれるだろう。(本誌・森下香枝)
『東電OL殺人事件』の著者が語りおろす ノンフィクション作家 佐野眞一
「彼女の長いダイイング・メッセージが聞こえる」
取材先の韓国・テグで一報を聞いて、真っ先に「ゴビンダ、よかったな」と思った。彼の強い意志が再審の扉を開けようとしている。足利事件や布川事件など過去の事件が冤罪とわかってきたのもボディーブローのように効いたんだろう。
私は当初から、冤罪を確信していた。警視庁の捜査は思い込みがあった。今回、新証拠となった精液も重要視せず、警察に都合のいい供述をしたネパール人には、就職先や家を与えるなどの便宜供与までしていた。
捜査員の間でも「このままで大丈夫か」という雰囲気はあった。捜査本部が設置された渋谷署の警察官は私に、「乗り込んできた本庁の人間が捜査をめちゃくちゃにした」と言っていた。
私は現場周辺を歩いて、この事件は「流しの犯行(地縁や血縁のない人物による犯行)」だと確信した。常識的な判断をすれば、そういう結論にしかたどり着かない。しかし、警視庁の捜査トップは、ゴビンダ犯行説に固執した。
裁判になっても、とんでもない人がいた。一審の無罪をひっくり返した二審の裁判長だ。彼は裁判官になる際に、共産党員から転向し、その後“お上”に都合のいい判決を書くことで有名な人物だった。「権力側に覚えめでたい彼」は、捜査側が描くストーリーどおりの判決を書いた。
いくら被告でも、無罪判決を受けたら、社会に復帰する。そんな常識もこの事件では通じない。一審で無罪判決を受けたゴビンダはその後も勾留されたが、この判断をした裁判官はその後、買春容疑で職を追われている。
この事件は、常識的な市民が判断する裁判員裁判なら無罪となるケースだろう。しかし、現実には、重要なポイントごとに「病原菌のような人物」が登場し、冤罪を生み出した。事件当時、外国人犯罪が増えている時期だったから、「捜査当局は何が何でも外国人を犯人にしたかったのか」と疑いたくもなる。とは言っても、中国人を逮捕したら国際問題になってしまう。「弱い国ならいいか」とでも考えたのだろうか。
取材中、後に東電社長になる南直哉氏が私を訪ねてきて、「釣りはお好きですか。執筆のお疲れもあるでしょうから、ぜひお越しください」と誘った。それが今回事故を起こした福島第一原発の排水口付近だった。暗に「東電の社名を書かないでほしい」と頼みに来たのか。誘いに乗らなかった私に南氏の真意はわからない。ただ、慇懃無礼で人を小馬鹿にした口の利き方をする男だという印象がある。
文学的にいえば、殺害された女性は、長いダイイング・メッセージを残したなあと思う。
「あんたたち、まだわからないの?」って、彼女の声が聞こえてくるようだ。彼女は真実にたどり着かない私たちに、いら立ったように、かつて勤めていた会社の原発を爆発させ、今回は司法制度をぶっ飛ばそうとしている、と。
警察・司法の威信は完全に地に堕ちた。リスペクトなんて、これっぽっちもない。まさに、メルトダウンした社会を、今回の出来事は象徴している。 (聞き手 本誌・河野正一郎)
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しかし、これは詭弁だ。
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しかし、である。
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だが、これも詭弁だ。
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「鑑定すれば、ゴビンダの無実が明るみに出てしまい、検察の墓穴を掘るので却下し続けたのでしょう」(同)
いまだ真実は明らかではない。だが、思い込みによる捜査ミス、事件の核心となる証拠の隠蔽・・・となれば、東京地検特捜部に続き、警視庁捜査1課も、窮地に追い込まれるだろう。(本誌・森下香枝)
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裁判になっても、とんでもない人がいた。一審の無罪をひっくり返した二審の裁判長だ。彼は裁判官になる際に、共産党員から転向し、その後“お上”に都合のいい判決を書くことで有名な人物だった。「権力側に覚えめでたい彼」は、捜査側が描くストーリーどおりの判決を書いた。
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