ネタ元中日新聞 、毎日新聞 、産経新聞 など。
ミスがあったのはN700系のTPS303形パンタグラフの舟体の取り付け方向ですが、そのお話の前にTPS303形パンタグラフとはどんなパンタグラフなのか説明しましょう。TPS303形パンタグラフは下枠短縮形低騒音シングルアームパンタグラフと呼ばれています。シングルアームパンタグラフを横から見ると上枠と下枠がくの字型になっているのが一般的ですが、TPS303形は下枠を基台カバーの中に完全に納めていて、カバーの外には上枠と舟体しか露出していないというのが外観上の特徴です。

基台のカバーも流線型とすることで騒音低減に寄与しています。
ちなみに下枠はこんな形。

とても下枠に見えませんね(笑
参考までに700系に搭載されている低騒音シングルアームパンタグラフTPS301形はこんな形状です。

下枠が普通のかたちをしていますね。低騒音シングルアームパンタグラフというのは、舟体のバランスをとるためのイコライザーアームを枠内に内蔵して露出部品を減らしたもので、新幹線の高速化に貢献しました。また上枠と下枠の関節部分に流線型のカバーを装着しています。
TPS303形は下枠と上枠の関節部分の露出がなくなりました。

しかも上枠が上下する溝にはシャッターまで設けられてカバー内への空気の進入をシャットアウトしています。
さらに基台そのものの前面投影面積を縮小し、基台を支える碍子は3本として、そのうち1本は交流25,000Vを通すケーブルヘッドを兼ねることで、ケーブルヘッド用碍子を省略しました。

その結果碍子カバーの前面投影面積も縮小され、大型化された2面側壁によって300km/h運転時の空力騒音を低減させることに成功しています。
そんなTPS303形ですが、今回問題となった舟体というのは、これのことです。

架線から交流25,000Vを集電する部分です。300km/h運転中も離線を抑制するために、バネによって適度な力で架線に押しつけられています。また架線からの逸脱を防止するための黄色いホーンには長穴が設けられていますが、この穴からジェット風が通り抜けることでホーンから発生するカルマン渦を抑制して騒音を低減させます。
さて上枠と舟体の取り付け部分の舟支えですが、こんな感じになっています。

船支えの右側に溝が切ってありますね。この部分と舟体側の突起が一致すると正常に取り付けができるということです。
当然反対側には溝はありません。

これを逆につけてしまった結果、舟体がきれいに収まらずに3mmほど浮いてしまったようです。
ちなみに中日新聞の記事を引用すると「JR東海関係者によると、舟体は空気抵抗を減らすため、進行方向逆側の下面の角を丸くしている。左右逆だと風圧で架線を押し上げる力が増し、本来の機能が損なわれる」となっていますが、もしそうだったら、パンタグラフを進行方向に合わせて方向転換させてやらないといけなくなっちゃいますね。
もちろんパンタグラフは方向転換なんてしません(笑
おそらく上枠上端部にある流線型のカバーのことと混同したのではないと思われます。

あくまで予想ですが。
N700系16両編成の場合、進行方向に関わらす常にパンタグラフは先頭から5両目後部と12両目前部に位置するように設計されています。

パンタグラフは先頭から遠ければ遠いほど騒音面で有利になることと、2基あるパンタグラフの間隔をできるだけ伸ばしたいということの兼ね合いによるものです。この考え方は700系で確立したもので、700系とN700系のパンタグラフの搭載位置は完全に前後対照になっているのが特徴です。
また進行方向前から5両目のパンタグラフは関節が常に前に向くようになっています。

そして進行方向前から12両目のパンタグラフは関節が常に後ろ。

つまり、1編成で2基あるパンタグラフは常に反対方向を向いているので、舟体の方向自体が逆でも空力的な問題はないことになりますね。
ここで問題にすべきは無理に装着したため正常な取り付け状態ではなく、3mmも浮いていたということ。当然架線にかかる負担は大きくなり、異常摩耗を引き起こしますので、好ましくないことは確かです。
でも一番驚くべきところは「下りの「のぞみ111号」が新横浜駅に到着する際、架線が通常より揺れているのに駅員が気付き、指令所に連絡。翌日の点検で、十二号車の舟体が傾き、左右逆だったことが判明した」ということ。
異常を発見したのは駅員なのか!
すげぇ!!
さすが世界に誇れる新幹線は駅員の練度もすごいですね。