鉄道の車両限界(在来線編) | はやこま すていしょん!

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更新頻度は遅めですが、日々の出来事や趣味的なことを書いていこうかなと思っています。若干鉄分は濃い目の予定(笑

日本にはいろいろな鉄道車両が存在しますが、もちろんデタラメな設計ではなく、車両限界という寸法規定に抵触しないようにサイズを決めて設計しています。
この車両限界ですが、国鉄では全幅3,000mm×全高4,100mm以内と規定していました。また屋根は最大半径1,850mm以内のカーブとなっているため、当然ながら車体側面の高さはさらに低く制限されることになります。
例えば初代ブルートレイン20系は全幅2,950mm×全高4,090mmで、車両限界ギリギリのサイズとなっているのがわかります。

(ナハネフ22 1007・貝塚公園・2013年9月13日)
寝台車は2段もしくは3段ベッドを配置する関係上客室空間を最大限に取る必要があるわけです。

もっとも車両限界内に納めなければならないのは冷房装置なども同様。ですので、例えば211系の集中クーラーの頂点は地上から4,086mmの高さにあり、結局最近の座席車も車両限界ギリギリで設計されています。

(クハ210-2017・早川~根府川・2006年5月13日)
平屋車両のクーラーキセの高さとくらべると、2階建て車両の屋根高さが4,070mmで実は低いです。

一方床下の車両限界は高さ85mm部分の幅が2,420mm以内、375mmの位置以上で幅3,000mmとなります。この国鉄規定した車両限界が、現在の普通鉄道車両限界とされていますが、鉄道事業者によって微妙に異なる車両限界を規定していることもあるようです。なお実際にはこの車両限界いっぱいの台車から屋根まで幅をとることは困難です。その理由は建築限界にあります。

建築限界はトンネル、鉄橋の鉄骨、駅の建物や電柱が抵触してはいけない限界で、原則として車両限界との間に左右それぞれ400mmの余裕を持たせています。 すなわち、車体部分の幅3,800mm、屋根部分は300mmの余裕を持たせた高さ 4,300mm、半径2,150mmとされています。
JR九州が「ななつ星in九州」の試運転の際に、電柱が車体と接触した事故がありましたが、それは電柱が建築限界にに建っていたということを意味していて、結構重大な問題です。

なお建築限界の特例として駅のプラットホームがあり、車両の出入り口に近づけて設定することができます。
直線区間ではプラットホームと車両の隙間の限界値は60mmとされています。実際にはカーブなどがあるのでこれより隙間は大きくなることもあります。

客車時代のいわゆる客車専用プラットホームの高さ760mmで、レール中心より1,400mmの位置に設置することができました。国鉄の連結器中心高さは800mmで、車体はホームの上に被さることになり、車体自体は建築限界に抵触しません。

(「マリンライナー」クハ711-901・1989年8月・小樽)
たしかにホーム上に車体が被さっているように見えますね。
当然台車や床下機器類はホームに抵触しないよう全幅2,680mm以内にする必要があります。ちなみにDT32形台車の全幅は2,650mmで、ちゃんとこの基準を満たしています。

一方電車客車共用ホームの高さは920mmです。

(クハ455-57・金沢・2009年6月25日)
また電車専用ホームの高さは1,100mmとされ、ほぼ車体というか台枠部分の高さになっています。

(クハ103-9・今宮・2007年2月11日)
ホーム設置位置はレール中心から1,485mmと客車専用ホームよりも離されましたが、それでも台枠部分の幅は2,850mmに制限されることになりました。国鉄の通勤形電車の全幅が2,800mmとなった理由はここにあります。

(クハ200-122・吹田総合車両所・2012年10月27日)
なお、客車専用ホームに乗り入れなければこのようにスカートの幅も最大限確保することも可能です。

2,800mmを超える全幅の車両の裾が絞られている理由もこれです。

(クハ115-325・下関総合車両センター・2009年11月7日)
国鉄近郊形電車と急行形電車はこの断面形状ですね。

また特急形電車は着席したときの肩の位置の幅を2,949.2mmとして居住性を最大限確保。

(クロ481-2001・吹田総合車両所・2012年10月27日)
その結果裾だけではなく、屋根方向も絞られた形状をしています。

振り子装置や車体傾斜装置を搭載した車両は車体傾斜時でも車両限界内に納めるため、裾と天井がさらに絞り込まれています。

(モハ381-55・吹田総合車両所・2012年10月27日)
381系は最大5度車体が傾斜するため、特に車体上方の絞り込みの角度が3.5度と大きく取られました。

高さについては車両限界を超えている例もあります。たとえば583系は空調部分を含むと全高は4,235mmです。

(クハネ581-33・吹田総合車両所・2012年10月27日)
ちなみに屋根高さは3,945mmです。

また、151・161・181系や485・489系ボンネット車の運転台までの屋根高さは3,880mmですが屋上前照灯があり、この部分の300mmを足すと4,180mmとなります。

(クハ181-1・川崎重工業・2009年10月11日)
また485・489系の貫通形、非貫通形では屋根高さが3,945mmとなり、屋上前照灯部分の高さは4,245mmとなっています。

(「雷鳥」クハ481-228・山崎~高槻・2009年3月16日)
これらは電車だから許容された面もあるのかもしれません。それはパンタグラフ部分の車両限界を別に設定し、パンタグラフの支柱部分は最大1,900mm以内、架線と接する部分の幅は1,400mm以内、そしてパンタグラフの高さは最大5,650mmとされ、建築限界もパンタグラフ部分の幅2,700mm、パンタグラフの上部は5,700mmとされたからです。

(クモハ42001・長門本山・2002年2月26日)
架線との空間やパンタグラフの折りたたみ高さなどもありますから電化区間は上方向の余裕がアルというわけです。

もちろんこれにも例外があります。中央東線や身延線などなどトンネル断面が小さい路線では建築限界が小さくなり、前照灯と架線が死傷する恐れがありました。その結果同線向けに新製された181系100番代は屋上前照灯を撤去して運転台部分の屋根高さである3,880mmとしました。

(「とき」クハ181-109・長岡・1982年)
上越・中央・信越線を走る元151系の0番代、元161系の40番代も後に屋上前照灯が撤去されました。

同様の理由で183・189・381系では最初から屋上前照灯を設置せず、運転台部分の屋根高さも3,945mmとされました。

(「新雪」クハ183-11・石打・1981年3月)
このスタイルが直流特急形電車の基本スタイルになりましたね。

狭小トンネル区間で屋根と架線の高さに余裕がないと、もうひとつの問題が発生します。それは電車用のバネ上昇式パンタグラフでは狭小トンネル区間でパンタグラフが折りたたまれてしまうことが懸念されました。そこでパンタグラフ取り付け部分の屋根を低くした車両も登場しました。

後に対策を講じたPS23形パンタグラフが登場して低屋根は解消。現在のシングルアームパンタグラフは狭小トンネル区間に対応しています。

なお全幅については カーブ区間で建築限界に抵触しないことを考慮して決める必要があり、そこには車体長、台車中心間距離、オーバーハングが関係してきます。
例えば20系は車体長20,000mmm、台車中心距離14,150mm、オーバーハング2,925mmで全幅2,950mm。

(ナロネ22 153・旧新内駅・2009年6月14日)
そして全幅は2,950mm
14系、24系では車体長20,800mm、台 車中心間距離14,300mm、そしてオーバーハングは3,250mmそれぞれ長くなっています。

(オロネ15-3001・下関・2008年10月24日)
この結果14系、24系の全幅は20系より50mm狭い2,900mmとなりました。

このほか地下鉄乗り入れなどでは乗り入れ先の車両限界に合わせている場合もあり、なかなか奥深いのが車両限界と建築限界の世界ですね。