今日はロッシーニの最後のオペラ、『ウイリアム・テル』を聴きに新国立劇場へ。
最近はこのオペラは『ギョーム・テル』というフランス語表記をよく見かけていたのですが、今回は英語表記の方を採用してました。そっちの方が有名だからチケットの売れ行き考えての採用かしらね。
今公演総じて良い公演でした。
演出・美術・衣裳を担当したヤニス・コックスにまず拍手。序曲の見せ方上手かった!!
「夜明け」「嵐」「静寂」「スイス軍行進」という4部構成で出来ているのですが、紗幕を使ってそれぞれの場面に合うように演出をつけていました。「嵐」の所では槍みたいな物が上からグッサグッサと刺さっていく様子とそれに慌てふためく人々の様子が描かれ、「静寂」では森の奥深くに佇む人々が薄っすら見えてくるのですが、音楽とのマッチ感がやばかった。マッチ感と言ってもギンギラギンにさりげなかったわけではないです。黒柳さーん…
舞台は基本的に八百屋スタイルで奥に行くと高くなっていくのと、段差がたくさんあったり、ルーフがあったりで、そこに所狭しと合唱が終始蠢いている感じ。で、その合唱を含めた人の動かし方が秀逸。音楽とマッチしていて、生き生きとしている。私の大好きなジャン・ピエール=ポネルにも通じるところがある。更に、こんなに合唱やバレエが配置されて動いていると、そっちに目がいってしまい、見にくかったり、本筋を邪魔したりということになりかねないのですが、それが全くない凄さ。これはほんとに凄いと思った。演出のみではなくて、美術も衣裳も自分でやっているから色彩的な部分の調和素晴らしくて、だからこそあっちゃこっちゃいかないまとまりのある舞台になっていたのではないでしょうか。
グレーを基調とした中で、赤が冴えてたなぁ。
ところで、序曲ですが、最後の「スイス軍行進」は特に有名ですよね。日本では『俺たちひょうきん族』で有名…だったのはもうかなり過去の話かな。まぁ運動会なんかで流れたりするんで聴けばすぐ分かるメロディで、オペラのメロディでは「カルメン序曲」や「ワルキューレの騎行」くらい有名ではないでしょうか。ちなみに、3部目の「静寂」はその昔東京ディズニーランドのショーベースでやっていた『ワンマンズ・ドリーム』の序盤で白黒の世界がミッキーのミニーへのキスでカラフルになる所で流れてました(マニアックですみません)。
ちなみにちなみに、1935年公開のディズニー映画『ミッキーの大演奏会』で演奏されているのが「ウイリアム・テル序曲」です。お暇な方ぜひ(お前はディズニーの回しもんか)
今回ソリストみんな良かったですけど、特筆すべきはギョーム・テル役のゲジム・ミシュケタと、アルノルド役のルネ・バルベラが素晴らしかったです。
ミシュケタは開演前に「体調不良ですが歌うのであたたかい声援を」的なアナウンスが入って会場がどよめいていたんですけど、どこが不調やねんとめちゃツッコミたい気分。確かに上の方の音になると辛そうな感じが無かったわけではないですけど、全然許容範囲内ですし、何よりわたしゃね、3幕のジェミーで泣いたわよ。テルのアリア「動いてはいけない」です。1幕の冒頭下手側で、テルが息子のジェミに弓の撃ち方を教えてる所が描かれていて、そこがフラッシュバックしたり、アリア前のジェミが「僕は自由だ、縛られない。お父さんが僕を撃つわけない」と兵士に意気込む所で、なんて良い親子関係なんだと思い、何故こんな辛いことをさせられなければならないのかとテルの気持ちを考えたら落涙でしたね。東名バスに乗ってる今思い出しても泣きそう。いや、ほんとどこが不調なんだよ(笑)逆に他の日もっと良かったんかい。
バルベラはほんとに悪いとこなかった。まず、私の好きな2重唱。1幕のテルとの2重唱では「マティルド〜」と入ってくるメロディが好きで、そこが来る度に「キター」ってなってましたが、テルのミシュケタと声の相性が良いんでしょうね。後半の圧政者やってやんよーと気持ちを1つにする所のハーモニーが心地良すぎでした。そしてもうこれは待ってましたってやつですけど、4幕のアリア、「先祖伝来の住処」からの「武器を取れ!」はガチ絶品でした!!長いこのアリアを変に調整することもなく、迫真の演技と声、4幕の冒頭は幕が開いておらず、序曲の1つ目「夜明け」の時と同じ状況。そこから前奏が始まり幕が開くとそこにはアルノルド。そして歌ということになっていくのですが、彼(等スイス)の新しい夜明けということなのかななんて思いつつ見てました。カバレッタ部分の「武器を取れ!」では、思ったよりはすこーしばかりゆっくりでずっしりとしたテンポで始まりました。急に高くなったり、にじり寄っていくかのように音程が上がっていったり、ほんとに難しいし、歌いきる喉と体力ないとキツイ曲だと思いますが、バルベラ余裕でした。最後の最後ほんとに少しお休みして、アクートをガツンと伸ばしてました。素晴らしかった!!これぞ世界を見せつけられたという感じ!!
ロッシーニの音楽って他にない凄さだと思うのは、歌詞変えれば悲劇的な部分も喜劇になれるってとこだと思っていて、この作品中にもそう感じる部分はいくつもあるけど、4幕フィナーレを聴いてしまうとそういうことも吹っ飛んで、なんと言って良いのか、状況とか感情を抜きにした、宇宙から大量の星が音楽になって降り注いでいるものを浴びているような気になる。人間を超越して宇宙の音楽にまで到達したのかロッシーニはという気になる。テルが「この場所ではすべてが変わり、成長する」と歌い、全員で「自由よ、天から降り来たれ」と唱和する。ただ只管美しい。涙が出てくる。
それはまるで、『ばらの騎士』の「マリー・テレーズ」の3重唱を聴いている時と似ているものを感じるが決してイコールではない。ロッシーニはもっと観念的で、人間讃歌のように感じる。このフィナーレはずるい(笑)そして毎回思ってしまうのが、ロッシーニがもっとオペラを書いていたらどうなってたんだろうということ。歴史にifは無いけれど、妄想は膨らむ。
他には、リュオディ役の山本康寛さんの冒頭のミニアリア的なやーつは山本さんにぴったり過ぎて、キャスティングした人天才と思いました(笑)山本さん上どんだけ出るのよ毎度思うけど。
エドヴイージュ役の齊藤純子さんも良かったね。時々メゾで声色で誤魔化す人がいるけど、全くそういうことはなくて、美しい声で悲しむ奥様を熱演。
マティルド役のオルガ・ペレチャッコは、アリアでの繊細な表現や、アジリタの技術、佇まいや所作の美しさなどさすがだなと思う所がたくさんあったのですが、ちょっと全体的に声が弱いかなって思ったのと、このマティルドという役自体があんまり好きじゃないというとこもあったりして…という感じ。
そしてそして、毎度素晴らしい合唱に多い拍手をです。このオペラは合唱がずっと出てるのでそこがダメだとかなりテンション下がっちゃうと思うんですけど、新国立劇場合唱団のおかげでテンション上がりまくり。合唱のおかげで今作品の質が底上げされまくっていたと思います。
そんなわけで、とても楽しませていただきました。日程的に無理してでも行って正解でした。4時間半全く長いと感じずに観賞出来たことは、ロッシーニの音楽もそうですが、演者の皆様の魅せる力に依るものかと思います。ありがとうございました。今日はこんなもんで失礼します。
最後はどうでもいい個人的な思ひ出。
朝起きて寝坊したと思ったらバスの時間勘違いしてて早くバス停着いちゃって、たけども乗った高速バスが結構遅延したおかげで、東京に13時過ぎに着いたおかげで猛ダッシュで新宿へ。南口出てから競歩。でもでも、絶対間に合わない時間帯入っちゃったので途中でタクシー拾ったのが開演18分前。そこからセブンでチケット発券して、会場に着いたのが開演10分前。ギリギリでした。いつも1時間前行動なのでこんなことないのでマジで焦りました。


























