2023.02.17 新国立劇場オペラ研修所修了公演 モーツァルト作曲『コジ・ファン・トゥッテ』 | たっぴーのムジカしくない日記 "Incominciate!!"

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主にオペラの感想等を亡備録として書き連ねていこうかなと思ってます。
その時感じたことをそのまま書くようにしてますので、文筆がおかしいことは多々ありますが、良ければご覧下さい。

今日は新国立劇場オペラ研修所の修了公演に行ってきました。 

今回卒業されるのはこちらの方々。


23期はソプラノ2人、メゾソプラノ1人、バリトン1人の計4人しかいないんです。1年目の時に「すくな」って思ったのを思い出しました。
でも、同期の数が少ないってむしろ良いような気はする。みんな仲良くなれそうじゃないですかね。勝手なイメージかもですが。で、同期って何事でも大事ですよね。心の支えになるというか。同じ苦労を同じ時にした仲間ってすごく大事だよなって思います。

そんなことは置いておきまして、今回演目がモーツァルトの『コジ・ファン・トゥッテ』でした。「女はみなこうしたもの」なんて副題が付いていますが、これを今新作でやろうとしたらコンプライアンスや色んな方面からお叱りが来そうでやれないよななんて思っちゃいますね。女は浮気するかしないかを確かめる為に恋人入れ替えてドッキリ仕掛けて、その結果に金賭けようってんだから。なかなかエグい。ま、コンプライアンスとか言い始めたらほとんどのオペラ上演不可なんじゃないかという気もしますが。


そんなコジの音楽は内容とは裏腹に、オペラ・ブッファとして書かれてるので、音楽はとっても楽しいんですよね。アンサンブルオペラといった感じで重唱もたくさんあって、自分はかなり好きなオペラです。

今回の研修生達、とっても良かったと思います。非常に高い水準のコジが聴けました。熱量も凄くあるように感じて、役にかける思いみたいなものが音楽と一緒に乗ってきたように感じました。うまかったねみんな。

特筆すべきは、ドラベッラ役の杉山沙織さん、フィオルディリージ役の内山歌寿美さんの姉妹。この二人が出てくると空気感が変わる。例えば、1幕最初の2重唱はもうそれは絶品でした。様式的な美しさもさることながら、2人がそのシーンやってて楽しいという感じが音に現れていて、それが実際の姉妹のシーンとめちゃめちゃ呼応していた(と勝手に思ってる)ので気持ちが超絶高揚しました。「私はブルネットをとるわ」の2重唱も良くて、姉妹のワチャワチャ感の中に確かな歌唱力が見えると感動するのですが、ガッツリそのパターン。素晴らしかった。

私は、杉山沙織さんを学生の頃から応援しているのですが、今日聴いてどんどん上手くなっていくなぁと感心。最近特に発声が良くなったのか、ピッチも良いし、言葉の粒も揃っていて、(元々うまいんだけども更に)以前よりも聴きやすくなっていました。ドラベッラの2幕のアリアはCDだとほぼ飛ばすんですけど、彼女が歌うともっと聴きたくなってしまい、結局集中して全部最後まで聴いてしまいましたよね。このオペラでドラベッラって何となく、フィオルディリージとデスピーナよりは影薄い感じがしてましたが、薄いどころか全くその逆で、杉山沙織のドラベッラはこれだかんな覚えとけよ的な言葉すら聴こえてくるくらいの素晴らしい歌唱と演技でした。心技体、全部が揃うとああいう感じで舞台に立てるんだなぁと。あとは、細かいとこだと2幕フィナーレとかの細かい転がるとことかうますぎて笑ってしまいました。1つ残念なのはロッシーニで終わってほしかったということ。まぁこれは私のただの希望(笑)だってさ、杉山・ジョアキーノ・サオリッシーニやで。このあとペーザロのアカデミー行くんやで。そら行く前と行った後で聴きたいやんか。本人もロッシーニ好きだそうですし。

内山歌寿美さんもほんと上手かったね。尻上がりに良くなっていった印象。杉山沙織さんは出た瞬間からアクセル全快だったのでそれはそれで凄いんですけど、徐々に彼女の色を出していって、フィオルディリージ2幕のアリアでお客さんの心を鷲掴みした感じありました。そこからお客さんの聴く耳がより内山歌寿美さんの声を求めていたような感じがしました。2幕のフェランドとの2重唱は、2階席みんな固唾を呑んで聴いてましたよ。しかも完全にフェランドを圧倒してましたし、どちらが賛助なのか分からないくらいでした。もはや大御所感すらありましたよ。歌にブレがない。つまり心にもブレがない。故に確信に満ちた歌唱。今後も楽しみです。

その他、ドン・アルフォンソ役の大久保惇史さんはプロフィール見るとバリトンなんですね。バスかと思ってました。イタリア語が明瞭で明るい響きの為聴きやすかったです。あと、レチタティーヴォがめちゃめちゃ上手くて楽しかったです。ほんとはもっと早く歌いたいだろうもころをぐっと堪えてマエストロに合わせているのが凄かった。僕ならどんどん前に滑っていっちゃうと思う。
グリエルモ役の長冨将士さんはドイツリートが似合いそうなお声で、それこそドイツリートを歌う人がオペラをやったらこういうモーツァルトになるよねみたいな感じの優しい声。そういえば2年前のマゼットであまりこういう声いないなって思ったのを思い出しました。好き嫌い分かれそうですが、僕はとりわけモーツァルトだったら大歓迎な声です。らぶです。1幕のアリアや2幕のドラベッラとの2重唱なんか最高でした。

で、ここで、マエストロの星出豊さんななんですけど、どえらい遅いテンポで終始一貫してやってくれました。なので、音楽死んでませんかねってなったとこは結構な箇所あって、いかがなものかと思いましたね。まぁでも、歌唱をしっかりゆっくりと聴かせて終了公演とする、みたいな名目があったりするのかなとか思って、一人で何とか納得しようと試みてはおります(笑)
まぁ好き嫌いかもしれないですけど、僕は序曲からしてもっとグイグイいってほしかったなぁとは思います。前半ゆったりにして後半早くするんだねって思ってたら全部ゆっくりかーいみたいなのがめちゃあったのよね。

演出は粟国さん。いつも保守的というか、変に音楽をぶち壊すようなレジーテアターみたいなものをやらないので心からあざーすと感謝したいです。さすがに研修所でそういうのは出来ないかもしれませんが、外でも見たことない。基本的に粟国さんの舞台は美しいので大好き。