2019.09.06 藤原歌劇団公演 ロッシーニ作曲 歌劇『ランスへの旅』 | たっぴーのムジカしくない日記 "Incominciate!!"

たっぴーのムジカしくない日記 "Incominciate!!"

主にオペラの感想等を亡備録として書き連ねていこうかなと思ってます。
その時感じたことをそのまま書くようにしてますので、文筆がおかしいことは多々ありますが、良ければご覧下さい。

本日は昨日に続けて、『ランスへの旅』の2日目に行って来ました。
金の百合亭二泊目です。
昨日の出演者よりも比較的若い世代が多かったように思いますが、どの方も非常に素晴らしく、卓越したロッシーニの歌唱を披露してくれました。
いやぁ、なんとも感動の嵐でしたね。
後述しますが、泣きましたからね私。
ランスへの旅って見てても泣く様なシーンはー各々感じ方は違うでしょうがーまぁ一般的にはないオペラだと思うんですけど、なんでだろう。なんでだろう。ななななんでだろう。泣いちゃったんですよね。気付いたら。音楽の力ってほんとすごいよね。これが感動なんだろうなぁ。

ではここからは、僕が独断と偏見によって良かった出演者の方々の感想を述べて参ります。長くなるかもしれないのですみません。最初に謝っておきましたから読んだ結果すげーなげーじゃねーか!!というクレームは受付ません(笑)

まずは、マエストロ園田隆一郎さん。昨日よりややリラックスした雰囲気で、音楽がなんとなーくニコニコ微笑んでいたような印象。人が違えばオケも変わるんだということがよくわかりました。比べるようなものではないけど、アンサンブルで言うと今日の方が良かったかな。特に顕著だったのが14声の大コンチェルタートと最後のViva la franciaのとこ。音楽がロッシーニクレッシェンドと共にこっちにおいでよ!!ってぐわーっと感性に迫ってきたんですよ。一緒に楽しもうよ、君も行こうよって。思わずAndiamって心で言いたくなるようなそんな感じ。ツェルリーナなら一発やで。すぐほいほい行っちゃうよ。楽しそうだもの。そう思えたのは、やはり指揮棒を握る園田さんの妙技ということなのでしょう。当然ソリストの力が
一定以上あってのことですが、それを生かすも殺すも指揮者次第。音楽の印象は指揮者の力量で如何様にも変わりますからね。いやぁ尊敬しかない。親しみを込めてロッシー兄さんと呼びますね。もしくは、りゅう兄ちゃん。どっちがいいですか?園田さん、とりあえずこのあたりは流してください(読んでないだろ 笑)

ここからは、配役表順にみていきますが、いきなりの本日のMVPの登場!!光岡暁恵さんのコリンナです。ほっとにうまいよねぇ。うむ、うますぎ。冒頭に泣いてしまったと書きましたが、それはこの方の登場によってでした。出て来てすぐのアリア、「なんて美しい声なんだ」と思ってそのあまりにも神がかった声に陶酔してたら、なんだか泣けてきたんです。殺伐とした雰囲気の5人(5ヵ国)も芸術の前では全てを脱ぎ捨て仲良くなっちゃうみたいな情景も輪をかけて感動させてくれました。光岡さんの歌唱にやはり技術に裏付けされた様式美、そしてそれによる説得力があったからそう思えたのでしょう。
ラーメン屋行って、ラーメン注文しようとしたらメニューがパスタしかなかったら、え?ってなりますよね。あの看板なんやねんみたいな。ラーメン食べたいから来てるのに、同じ麺だしこれはこれで旨いからええやろ?みたいなことはありえないわけです。光岡さんのすごいところは、そこに更にチャーシューとメンマと海苔、それから味卵までトッピングしてくれたんですよ。だからスゴいんです。何のこと?え?光岡さんラーメン屋やってんの?そういう話じゃないですからね。要するに、正統派で聴かせてくれて、その路線で更なる感動を与えてくれたと。何それをラーメンで例えてくれてんねんとお叱りを受けそうですが、ラーメン大好きな筆者ならではということでご勘弁のほどを。『オリィ伯爵』の頃から大好きなソプラノ歌手です。こんなにも歌えるのに、いつお会いしても腰も低く素敵ですし、人間的な魅力も事欠かない。更に、静岡県民としては、わが県のオペラコンクールで受賞して下さったことを誇りに思います。光岡さんについてダラダラ書きまくってしまった。しかし、それほど感動したし、素晴らしかった!!!!!

続けて、富岡明子さん。今や日本を代表するロッシーニメゾと言っても過言ではない彼女のメリベーア侯爵夫人。圧巻や。圧巻。見事な職人芸、そんな印象。しかしまぁ転がるよね。コロコロコロコロ。おむすびでもそこまで転がらないで。ほんまに。リーベンスコフ伯爵との二重唱では沸き上がるロッシーニ愛を感じましたし、聴かせ方をよく熟知されてるなと思いました。また、歌合戦での半ば何となく過ぎていくポロネーズでも存在感をはっきりと示していて見事でした。

お次は横前奈緒さんのフォルヴィル伯爵夫人。昨年かな。カルッツ川崎で一足お先に「私出発したいの」のアリアは聴いており、その時も素晴らしかったですが、そこから更に進化した横前さんにBravaでした。この役はなかなかシビアな面があるなぁと思うのは、「モデスティーナアァァ」と出てきて、少しレチを挟み、いきなり超絶技巧の長大なアリアを歌わねばならなく、しかもその出来不出来が評価の大半を占めるからです。伸るか反るかみたいな話ですが、今回しっかり伸ってくれました。横前さんは、声がもうイタリア人。発音も綺麗だし、声は一点の曇りも無い青空のよう。アジリタもお手の物。この役は、まさに今歌うのに適した役なんだろうと思いました。ただ、まだ進化出来るなと思うところもあったので、今後も目が離せないです。

まだいきます。糸賀修平さんのベルフィオーレ。役に声がぴったりでした。甘い。ハンバーーグ!!…ではなく、あまーーい!!ボイスがグーググーググー(自分令和なうやで)。
どこか悪戯っぽいベルフィオーレがはまってました。コリンナとの二重唱は燃えました。そして萌えました。あの空気感は糸賀さんだから出せる色だったのかなと思います。チャラいとはまた違う、少年のような可愛さみたいな物もちらほら見えたのが良かった。コリンナの潔癖さみたいなものと、もしかしたらそれを壊してしまうかもしれないベルフィオーレの対比がとても面白くて、ワクワクさせてくれました。アクートも申し分なく楽しめました。

次もテノール。山本康寛さんのリーベンスコフ伯爵。彼の同役は以前の日生でも聴きましたが、その時よりも安定感が増していて、アクートは伸びやかで、マシンガンのようなアジリタはとっても刺激的でした。ヴァリエーションもしっかりと作られていて流石だなと思わされました。素晴らしかった。山本さんは現在の日本における主要なロッシーニテノールです。別日の小堀勇介さんとダブルキャストになることが多く、ROFのアカデミーでも2人はダブルキャストとして、このリーベンスコフ伯爵を歌っています。ロッシーニテノールと一口に言っても色々なタイプがいるわけですが、僕が思う山本さんのイメージは、アメリカを代表するロッシーニテノール、ロックウェル・ブレイク。「嘘やん、そこからまだアクートそんないっちゃうの?」「息長すぎ長すぎ長すぎ」「いやいや、アジリタ鬼やろ」みたいなあのブレイクです。小堀さんとはタイプは違いますが、これからも日本におけるロッシーニを牽引してくれることはもはや自明の理でしょう。

どんどんいきましょう。小野寺光さんのシドニー卿。彼はベルカント・オペラ・フェスティバルの『フランチェスカ・ダ・リミニ』以来でしたが、声に艶が増していたような印象。まず彼は身長もあるし立ち振舞いがかっこいい。そして深みのあるバスだけど明るさが感じられる声が良いですね。シドニー卿のアリアは非常に難曲だと思いますが、少し大変そうな部分は見え隠れしつつも、若手でこれだけ歌える人が出てきてるのはやはり時代なんだなと感心しました。ベルカントの時代に日本もしっかりと入ってきてるんですよね。うむうむ。

だんだん少なくなってきました。次はドン・プロフォンド役の押川浩士さん。えー、楽しかった(笑)押川さんって、いつもお客さんを楽しませようとするサービス精神が旺盛ですよね。終盤のコルテーゼ夫人との二重唱はそれが顕著に表れていたと思います。それと、この役はやはりアリアの「類のないメダル」がどうだったかでしょう。これまで生で見たどのドン・プロフォンドよりも良かったです。声質はもう少し軽めな方が僕の趣味ですが、最初の「スペイン人」のスペイン語風のイタリア語からそれっぽかったのが僕の心を惹き付けました(笑)そのあともそれぞれの言語に寄せながら歌い繋いでいき、最後も"balzando vaaaaaaaaaaaaaa"と引っ張って伸ばしてくれました。やはりサービス精神が旺盛。素敵。

あと2人。折江忠道さんのトロムボノク男爵。もう理由なんていらないというか、折江さんが出て歌ってるだけで面白い。いや、もちろん歌も上手いし、イタオペに向きな明るめなバリトンボイスを未だにしっかり保ってるのも素晴らしいんですよ。しかし、もうそういうことを超越した楽しさを感じましたね。「モーツァルト、ハイドン、ベートーベン、バック!
!」あたしゃここで既に結構笑ってました(笑)
真面目な話をすると、若手が多い中に大ベテランの折江さんがいたおかげで、舞台が締まって、全体的なまとまりが出せたのではないかと感じています。まとまりが出てる舞台は総合的な満足度に繋がるし、出演者も集中力高く演じてくれるので本当に楽しい。折江さん最高でした(笑)なんだろ、もう、エンツォ・ダーラみたいなものです。オリエンツォ・タダーラミチです。もう一度言います。オリエンツォ・タダーラミチです。

最後は、ドン・アルヴァーロの上江隼人さん。もう数年前になってしまいますが、二期会の『リゴレット』以来の上江さんでした。上江さんほどバリトンでイタリア語が美しい人はいません。発声も素晴らしい。非常に正統派。世界の上江ですよ。ほんと。そんな彼がこの役をやってくれるとは思ってもいませんでした。もしかして、ヌッチもやってるから自分もやってみたかったのかな。しかし、贅沢なアルヴァーロだったなぁ。この役はなかなか目立たないのですが、登場からのコリンナのアリアを経て、5重唱に至るシーンの表現が素晴らしかったです。終盤のスペイン風カンツォーネも、まさにスペイン風な動きを交えながらアクートも決めて素晴らしかったです。上江さんの声の魅力を感じることが出来て幸せでした。

ね?長くなったでしょ?(笑)
そういうわけで、とてもとてもとても楽めましたよ(淀川長治)。単純に『ランスへの旅』が好きなんですけど、今日のこの公演を体験して更に『ランスへの旅』が好きになりました。

2日公演を観て様々感じることはありましたが、両日違う楽しみ方が出来たことは、マエストロ園田さん尽力によるものでしょう。ありがとうございました。これだけの個性の塊のような歌手とオケをまとめあげ、違う色彩で魅せてくれたのは感服致しました。
そして、日本もベルカントオペラを歌える人材が育ってきてるんだなということは如実に感じました。嬉しい限りですね。
これからもこういう心の弾む素敵な公演を楽しみにしています。藤原歌劇団をはじめとする、二期会と新国立劇場に感謝。

ロッシーニと共にあらんことを。