12月14日は赤穂浪士討ち入りの日。そんな忠臣蔵な日に、なんとまぁ全然それとはまったく何も関係のない、沼津で上演された『ヘンゼルとグレーテル』を聴きに行きました(笑)とってもちなみに父親の誕生日でもあります。
静岡県民としてはありがたや〜でした。
今回演出の田尾下さんは、このオペラの纏うクリスマス感を前面に押し出して、クリスマスプレゼントを待つ子供たちの物語として独自の世界観を作ることに成功していました。例えばお菓子の家はクリスマスツリー、魔女は悪いサンタクロース、お菓子にされる子供たちはプレゼントと読替えており、眠りの精/露の精はサンタクロースの手下(歩く時の動きからするともしかしたら魔法で操られていただけかもしれませんが)として設定されていた...と思います。違ったらすみません。また、通常であれば魔女は最後に窯に押し込まれてお菓子になるところが、今回は悪いサンタクロースが良いサンタクロースになって大団円を迎えるという作り。片方の押し付けられた正義や価値観ではなく、全ての人が一つになって平和を祈るように描いた最後のシーンは、そもそも音楽の持つ純粋さや崇高さ、それらの美しさと高揚感で、毎回聴くたびに感動するのですが、今回はそこにまた違ったメッセージも込められていたので、より胸にくるものがありましたし、ウルっと目頭が熱くなるのを感じました。とても素敵な読み替えだったと思います。
また、歌詞も田尾下さんのクリスマスバージョンの書き下ろしで、これを覚えるだけでも演者の方は大変そうだし、結構歌いづらそうな言葉のはめ方だなぁなと個人的には思いましたが、小島よしおです。そんなの関係ねぇと(ただ古いよね)。しっかりと言葉を噛んで発しておられました。更に演者の皆さんは更に舞台をところ狭しと動き回るし、こんなにやるのかと思うくらい踊るし、かなりハードだっただろうと思います。しかしそんなことをものとも感じさせないブレない歌唱。これはやっぱすごかったですね。さすがという感じ。私だったらぜえぜえしてもう歌どころじゃない。持久走の後みたいになっちゃうと思います。もしくはシャトルラン(マジどうでもいいわそこ)。兎にも角にも、オペラ歌手万歳という感じで、尊敬の眼差しで観賞致しました。
ヘンゼルもグレーテルも、本当の子供がやらない限り、大人が頑張って子供を演じてるみたいな感じになっちゃうのがとってもたくさんあるわけですが、今回ヘンゼルの石田 滉さんもグレーテルの宮地 江奈さんも、そういった印象は皆無。踊りやメタファ的なポーズがたくさん出てきたのもあって、既述したように舞台上をたくさん動き回っていましたが、どこも俊敏で所作が子供っぽかった。声も若々しくてどこを取っても瑞々しい。朝露のような透き通った声が実に役とマッチしていました。
ヘングレの好きなシーンは、まず、幕開き冒頭から「踊りましょうよ」までのシーンなのですが、今回日本語の言葉数が結構多かったので情報量が多かったのもあり結構集中して聴きました。これまで聴いていた日本語がまぁ観賞の邪魔をするする。で、言葉数が多かったのが功を奏したのか、結果的にのんびりした2人というよりは、やんちゃでおてんばな兄弟像がくっきりと見えました。
それと、実は私よく考えたら宮地江奈さん初めて聴きました。こんなに有名になられてるのに!聴いてみて思ったのは、オールマイティになんでもやれそうな声質でしたね。グレーテルにおいては、透き通っていて純粋さが感じられてぴったり。なんでもない時は お兄ちゃんの前では主導権握っちゃうんだけど、いざという時にはお兄ちゃんを頼っちゃうかわいい妹みたいな感じがしていてかわいかったですね。YAMAHAで有名になった?ソーファミソファミレのとこもめちゃくちゃ良かった。子供が一人で歌ってるみたいでした。なんかそういう時あるじゃないですか。子供が何かに集中していて、歌メインじゃないけど独り言のように歌ってるとき。あと起こされた後の「ディリリリリ~ン」のとこも明るくてとても良かったですね。宮地さんのヘンゼルはトトロのメイみたいなかわいさがありました。「お父さん、お花屋さんね」的な(どういうことやねん)。
滉さんは頼りないヘンゼルというよりは声がずっと男前な感じでかっこ良かった。序盤の最初に出した声がいきなり明瞭で、日本語が美しかったなぁ。凛としてる。日本語だけどベルカント。2人で歌う祈りの2重唱はもう絶品で素晴らしいのなんの。美しかったわぁ。立ち位置が前後になって「静」だけではく思ったより「動」がある中で歌っていましたが、わたしゃ歌唱で涙が出ましたよ。歌詞が、神様へ祈るというものではなく、サンタさんへのプレゼントを願うというものにはなっていましたが、ヘンゼルとグレーテル(さらには子供たち)にとってはもしかするとサンタクロースは神様と言っても過言ではないのかなと。願いを叶えてくれる存在ですものね。そういう意味ではまさにあのシーンで願う子供の気持ちとしてはマッチしていたと思いました。今回2人が主役だったのは大正解。推進力があって、グイグイ世界へ引き込まれていきました。
眠りの精・露の精を演じた鈴木 玲奈さんですが、「あれ、玲奈さんどこにいるの?」って思ってたら、いやあんたなんかーい!!という感じでミセスクロース?として舞台に乗ってました(笑)マジで気づかなかった。眠りの精も露の精も、悪サンタの手下的に思っていたのですが、明らかに人の好さが声に出ちゃってました。というか母なる安心感というか、特に眠りの精はお母さんが寝かしつけているかのような印象で、優しく優しく歌っていたので感動しました。もしかすると、妖精ってそもそも人間に悪戯したりするのが常なので、そういうレベルにおいて楽しんでいただけなのかもしれません。悪サンタに操られててあそこまで優しい歌にはならなそう。眠りの精に対して露の精は、視界がぶわ~と開けていくような爽快感。朝露にお日様の光が照らされてキラキラとダイヤのような輝きを見せるようなそんな瑞々しくも爽やかな歌唱。さすが腕がありますねぇ。全然違う2曲をしっかりと印象付けて歌ってくれました。
魔女の伊藤 達人さんは、席が遠かったのでしっかりと確認できませんでしたが、グリンチみたいな緑色の顔色で登場していた
…と思います。グリンチはクリスマスを盗むし、キャラクター設定は若干これも込みなのかななんて。但し、近くで見ていた後輩はジョーカーと言っていたので、そっちかもしれません。ツリーに押し込めた後の歌詞が確か「サンタの顔したジョーカー」って言ってたと思うので、ストレートにとジョーカーの設定(バットマンのリアルなジョーカーではなくこの場合悪役という比喩表現としての意味)かもです。ちょこっとしらべたところ、クリスマスツリーというものは古代のゲルマン民族が崇拝していた永遠の象徴で、更にキリスト教にとっては神が与える生命の象徴でもあるそうなんですね。なので、その中に入ることで魂が浄化されたのかもしれません。そしてまた外に出ることで生まれ変わったのかもしれません。肉体の死、そしてまた生まれるというその生命の神秘。そして善人としてのサンタクロースをまた生んだ、もしくは、「魔法が解けてサンタになった」と歌っていたので、元々の善良なサンタに戻った、そんな感じでしょうか。
伊藤さんの魔女...というか悪サンタは、否が応でもお客さんを楽しませちゃいましたね(笑)なんか常にロックでエンターテイナーでした。「イッツショータイム」って言ってましたもん。ずっとダイナミックで圧倒されました。サンタのクセと圧が凄いんじゃ、でした(笑)ヘンゼルに七面鳥を食べさせる理由が大きな箱にする為で、アリアで分かったのはこの悪サンタは世界征服が一番の目的だったんだなとわかったわけですが、なかなか面白い設定。最後はクリスマスツリーの中に入ることで浄化されて良いサンタになって出てきたのですが、このあたりのメッセージ性は優しくて、クリスマスに子供たちと観るには良いなと思えましたし、現代向きだなとも思えました。『魔笛』の夜の女王の扱い方みたいなものにも通じる。また、ずっとツリーが上下2本舞台に立っていて終盤にドーンと真ん中に大きなツリーが建立するのですが、ヘングレと森というのは切っても切れないもので、やはりドイツの森という要素が作品全体的に覆いかぶさっているように思うのですが、その象徴としてのツリーということも考えられるなと思い、だからこそあえてツリーを最初から据えておいてあったのかなと思いました。
そしてそして、最後のお父さんが出てきてからの音楽と流れが死ぬほど好きなのですが、ペーター役の野村さんと子供たちの合唱とても素敵でした!記述しましたが、ここでサンタとミセスクロースも出てきてみんなで「平和を祈る」と歌いましたが、感動しますね。音楽と子供たちの奇跡です。涙です。
全体的にとても良かったので、幕終わりと、マエストロ揃ってから特大のBraviを献上致しました。
こういう音楽的な活動を1950回もやってくれているトヨタはさすがですね。よ!日本の基幹産業!!です。
トヨタにも大きな声でBravoと言いたいです!!(多分それより車買ってくれって言う)
マエストロの初谷さんは初めましてでしたが、テンポ的にしんどいとこは無く、沼響を手堅くまとめておられたと思います。
こういう企画があると静岡県民としてはとても嬉しくなるのでぜひまたお願いします。
すべての関係者の方に敬意をこめて。
| 管弦楽:沼津交響楽団 指揮:初谷 敬史 演出家 田尾下 哲 音楽監督・お話 三枝成彰 コンサートミストレス:吉貝 多佳子 児童合唱:タンザワミュージックスクール ヘンゼル:石田 滉(メゾ・ソプラノ) グレーテル:宮地 江奈(ソプラノ) 父ペーター:野村 光洋(バリトン) 母ゲルトルート:鳥谷 尚子(メゾ・ソプラノ) 魔女:伊藤 達人(テノール) 眠りの精・露の精:鈴木 玲奈(ソプラノ) | |
























