Windows 8が採用した「Metro」スタイルの新しいスタートスクリーン
米カリフォルニア州アナハイムで行われているMicrosoftのソフトウェア開発者向け会議「BUILD」。Windows 8に対する開発者たちの関心を集め、彼らが用意した従来とは全く異なるプラットフォームにアプリケーションを書いてもらおうと、Microsoftは新しい時代に即したWindowsを「再考した」と話している。
【BUILD:“ARM Windows 8”はPC業界の何を変えるのか】 ●徐々に明らかになるARMサポートの意図
中でも注目されるのが、2011年1月のInternational CESで発表されたARMアーキテクチャへの対応だ。果たしてARMへの対応は、何をWindowsにもたらすのだろうか。
1月に発表されたとき、多くの人はWindowsがそのままARMに移植されるだけだと考えていた。かつてWindows NTがPowerPCやMIPS、Alphaといったアーキテクチャで動作していたのと同じようなものを想像し、x86アーキテクチャ向けのアプリケーションはどう動くのか? など、さまざまな想像を巡らせていた。
しかし、今ではそのような話は聞かれない。Microsoftが早々に、Windows 8が目指している世界観を公開したからだ。Zuneに始まり、Windows Phoneで発展させたユーザーインタフェース技術の「Metro」を採用し、全画面動作でタッチ操作を前提に設計される新しいアプリケーションを目指す。それは6月にMicrosoftが公開したデモビデオを見るだけで、誰もが理解したはずだ。
一方で、Microsoftがワークデスクの上での仕事をメタファーとする現在のデスクトップ型GUIを捨てることも考えにくい。とするなら、インターネットサービスとの接続性やコンテンツの閲覧、再生中心のアプリケーションに適したMetroスタイルを別に構築し、既存OSに統合するのだろう。
AppleとGoogleは、スマートフォンの世界を拡張し、タブレットの領域まで広げてきた。これに対してMicrosoftは、Windowsの領域をタブレットの領域にまで広げるため、Windows 8の軽量化を行うことでPCからタブレットまでを一貫したプラットフォームでサポートしようとしているのではないか。と、ここまでがBUILD前までに考えられた話だった。
そしていよいよWindows 8が公表され、PC USERでのニュースで紹介されているさまざまな情報が明らかになってくると、それまでの推測が徐々にリアリティを持つようになってきた。
Windowsを基礎に“下の方”へと広げていけば、本来的に備えているリッチなメディア機能、ネットワーク機能、グラフィックス機能、セキュリティ機能などを、ARMアーキテクチャのデバイスで構築したモバイル端末(ノート型もあれば、タブレット型もあるだろう)にそのまま引き継げる。各種サーバやクラウドのソリューション、企業向けアプリケーション開発基盤としての実績も考え合わせれば、タブレット以上をWindowsベースで統合する意味は小さくない。
こうしたWindowsが持つ得意分野は、一方でiOSやAndroidの不得手な領域とも言える。もし、本当にiOSやAndroidと同じぐらいモビリティの高い軽量なOSになるならば、ARM版Windowsは、たとえx86バイナリの従来型Windowsソフトウェアと互換性がなくとも魅力的な存在になる可能性がある。
●Windows搭載機がこれまでできなかった弱点の克服
Windowsはこの10年、徐々にモバイル機能を強化してきたものの、Windows搭載PCはスマートフォンに対して劣る点を克服できずにいた。携帯電話網などのWANに常時接続しながら節電モードに入ったり、必要なときにすぐ電源がオンにできたり、目的/コンテンツ指向で利用シナリオに応じた最小ステップで使えたり、などの点がそれに当たるだろうか。もちろん、PCにはありあまる汎用性とプロセッサパワー、自由度の高さなどがある。
とはいえ、クラウドの中へとアプリケーションが持つ価値が遷移していく中で、PCでなければならない領域は狭くなってきている。ARM版のWindows機は、従来の弱点を克服するための要素だ。
基調講演の中でQualcommのSnapDragonとLTE対応のGobiを搭載したタブレット型PCが、LTEネットワークに継続して接続しながら省電力モードで動作し、そこから一瞬で立ち上がった。これこそがWindows搭載機がこれまで得られなかったものだ。基調講演では他にTIのOMAP4、NVIDIAのTagra 3搭載のタブレットを紹介したが、いずれもSnapDragonと同様の振る舞いを期待できる。
長時間のバッテリー駆動も期待できるはずで、SnapDragon搭載の試作機は1Gバイトメモリと64GバイトのSSDを搭載し、10時間を超えるバッテリー駆動時間を現段階でも得ているという。一般的なCore i5搭載のタブレット型Windows PCに比べると、2倍以上の駆動時間になる。
しかし、一方でいくら軽量化が図られたとはいえ、WindowsがARMの上で快適に動くのだろうか? という疑問は、当然ながら出てくる。BUILDのショーケースには、ARM版Windowsタブレットが3種類並んだものの、いずれも実際に触るのはNG。Microsoftから、来場者に触らせることが禁じられているようだった。
唯一、Qualcommだけがこちらのリクエストに応じて、説明員が操作をしてくれたが、確かにまだ反応はよいとは言えない。画面描画が優先されるため、ある程度のレスポンスは得られているものの、アニメーションはややぎこちなくなる場面もあり、Core i5搭載機とは比べることはできない。
ただし、Qualcomm、TI、NVIDIAともに、さほどパフォーマンスの心配はしていない。Windows 8の投入を来年末(2012年末)と予想するならば、各社の作るARMベースのシステムチップは、CPU、GPUともに次世代のものにアップグレードされていると考えられるからだ。おそらくメモリも2倍にはなっているだろう。
さらにその後、数年の進歩を期待するならば、ひとまずMetroスタイルアプリケーションにおけるパフォーマンスの問題はないだろう。
●ARM版Windowsはx86の領域は侵さない?
Windows 8がユーザーに受け入れられれば、MicrosoftとしてはiOS、Androidからの侵食を防げるかもしれない。ではWindowsがARMに載るようになったとき、Intelアーキテクチャは、どのような影響を受けるのだろうか。
ARM版Windows 8にもデスクトップは存在する。この中で動くWin32アプリケーションはあるのか? といえば、Internet ExplorerなどWindows標準のアプリケーションや、CESでデモを行ったOfficeが登場するとしても、用途は限定的と考えるのが妥当だ(企業が自社向けに開発しているアプリケーションを動かすために、ARM版でリコンパイルして利用するといった用途はあるだろう)。
実際にARM版でのデスクトップアプリケーションの動作を見せてもらったが、決して快適とは言えない。将来、一部のソフトウェアがARMに対応するかもしれないが、例えばPhotoshopなどが快適に動作するかというと、あまり現実的な話ではないだろう。今後のトレンドを考えれば、ARMはMetroスタイル中心で使われるものだと割り切って考えるべきだろう。
Windows 8におけるデスクトップ環境(一部のMicrosoft幹部は、これを“Windows 7”と呼んでいた)と、Metroスタイルの実行環境は、そもそもの利用シナリオが異なる。このため、ARM版がx86(x64)版のWindows 8を次々に侵食していくことはないと、少なくとも私は思う。Windows 8の看板を掲げたとしても、ARM版とx86版は全く別のものだ。
しかしx86版の中でも、システム全体を1チップに収めるAtomプロセッサはどうだろうか? 次世代Atomが、将来のARM系システムチップに電力効率やワイヤレス機能との統合で、よりよい位置に来れるだろうか? そう考えると、WindowsのARMサポートは、IntelがかねてよりAtom投入で目指していた小型モバイルデバイス進出を阻むものになるだろう。
もともと、AtomはIntelが想定していたほどにはx86のビジネスを広げていない。Atom投入当初よりIntelは、PC以外の分野でのAtomの利点について、インターネット技術との親和性(プラグインやブラウザなど、最新のインターネットトレンドへの追従性)で有利だとの説明に終始していた。
ところがWindows 8の世代になれば、ARMの上でWindowsが動くのだから、その利点は失われる。そもそも、Metroスタイルアプリケーションの時代になれば、ブラウザプラグインへの依存度も下がる。IntelがどこまでAtomに力を入れていくかは、Intel Developers Forumに行っていない筆者には推察できない。しかし、Windows 8の動向がAtomの将来計画を決める大きなファクターであることは間違いない。
【本田雅一,ITmedia】
【関連記事】
BUILD:「Windows 7+WinRT=Windows 8」──明らかになるARMが動く“仕掛け” BUILD:クセのある操作! 快速挙動! 動画あり! ──Windows 8速攻レビュー BUILD:勝手に想像! 開催直前でWindows 8に期待すること COMPUTEX TAIPEI 2011:Windows 8がタイルUIを採用する意図、そして“面倒な制約”とは──ここまで判明、「Windows 8」詳報 COMPUTEX TAIPEI 2011:Microsoftが本気だ! Windows 8のユーザーインタフェースを公開 「この記事の著作権は+D PC USER に帰属します。」