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『ロゴスドン』Web
連載小説「甦った三島由紀夫」
第51回
中国人留学生C(その一)
鈴木康央
今回からしばらく、中国から留学生として日本で生活している男性C氏(25歳)と話してみることにした。
M もう日本に来てどのくらいですか。
C 3年目に入りました。
M 今はどこで、何の勉強をしているんですか。
C 都内の某私立大学で日本文学を専攻しています。面白いですが、やはり難しいです。
M 日本語は来る前に、お国である程度は勉強していたんですか。
C はい、向こうの大学の日本語学科で。それで日本に来て、日本語学校で2年間勉強して、なんとかN1に合格できました。それで大学に入学しました。
M N1というと、日本語能力検定1級試験でしょう。先日過去問を見たけど、かなり難しいですよ。今の日本の中学生・・・いや、高校生でも不合格になるのがけっこういるんじゃないかな(笑)。大学生でも苦しむかもしれない。まあ、1級の免状を取るというのは、何であれかなり困難なことです。Cさん、よく頑張りました。それに流暢な日本語です。
C 有難うございます。でも発音がまだ不完全だと、時々指摘されます。
M いや、それも時間の問題でしょう。何しろ発音の種類にかけちゃ、「四声」を初め、中国語は頗る豊富ですからね。日本人が中国語を話すよりずっと楽だと思いますよ。それより平仮名やカタカナを覚えるのに苦労したんじゃないですか。
C いいえ、仮名を覚えるのはそんなに難しくなかったです。むしろ漢字の方が厄介でした。ええ、今でも一番困難なことかもしれません。今の中国では漢字はとても簡略化されていて、日本の漢字の方がずっと複雑です。また読み方を覚えるのも大変です。訓読、音読、重箱読み(苦笑)、それに意味も。中国語と同じ漢字で意味が違うのがあるし・・・例えば「手紙」は中国ではトイレットペーパーですし・・・そういうのは面白いけれど厄介なものです。ひょっとしたら漢字圏でない国の留学生、ベトナム人やスリランカ人の方がかえって素直に頭に入るかもしれませんね。
M なるほど、そんなもんですかな。しかし日本に漢字、仮名、それにローマ字表現があるってのは、あなた方留学生には大荷物でしょうが、これは非常に理にかなった、覚えてしまえば誠に秀でた書き習慣だと思いますよ。それに関して前から気になっていたんですが、中国では表記手段が漢字オンリーでしょう。では外来の固有名詞、例えば「トランプ大統領」の「トランプ」はどのように書くのですか。
C 「特朗普」と書きます。
M ほー、これで「トランプ」ですか。しかし、どうしてこう決定されるんですか。つまり、ラジオか何かで「トランプ」と発音された時、中国人は皆この「特朗普」という表記が頭に浮かぶわけですか? 中国内でも離れた地方の二人では、筆談はできても会話は困難だと聞いています。ということは「トランプ」・・・別に何でもいいんですが、要するに新しい外来語を表記する際に何かルールでもあるのですか。
C そうですね、面白い御指摘です。中国政府の、つまりは北京が発表する新聞やテレビ等の表記に従うのがルールと言えばルール、慣例ですね。あまり気にかけなかったことです。音で聞いても、すぐにそれを頭の中で文字化しようという作業はなかったですね。というより新聞ですぐ表記されたのを目にするので、そのまま何の抵抗もなく音と文字が結びついて記憶されていました。
M ということは、別の漢字による表記もあり得るわけですね。納得しました。でも日本ではカタカナのおかげで公共メディアに頼らずとも、全国いたる所の日本人が共通して文字化できます。この多種の文字を日常的に使いこなす日本人、これが即ち日本文化の基盤ともなるわけです。
(つづく)