森永卓郎さん、ご存じの方は多いと思いますが、日経平均が来年2000円になると言っていて、話題になっています。
これが罪だなあと思うのは、彼は昔から地上波にも多く出演しており知名度が高く、そんな人が新NISAによって初心者にも投資熱が高まっていること時期に、こんなトンデモ発言や、本まで出版してることです。
ほとんどの人は本気にして受け止めていないとは思いますが、投資初心者がこれから何か本で勉強を始めようとした際に、知名度の高い彼の本を最初に手に取ってしまうことも十分考えられますから、そんな人の人生を狂わせてしまう可能性だって十分あります。

多くのインフルエンサーが色んな媒体を通じて、反論しているのも見ますが、多くの場合(あまりにバカバカしいのか)「そんなわけあるか!」程度の反論になっていて、それに対して森永さんが淡々と粛々と持論を述べ続けるものですから、見る人によっては森永さんの意見に真実味があるように映ってしまうかもしれません。
ちょっと僕なりに、彼の意見の整理とその論法、そしてその反論を書いておこうと思います。
森永さんの2000円の根拠
■そもそも、今の株価というのはバブルである。
世界最初のバブルは、中世欧州で起きており、チューリップの球根が高値で取引されはじめ次第にバブル化。
元々タダ同然の植物の球根なわけですから、最後にバブルははじけてタダ同然の価格に戻った。
その後、世界恐慌、ITバブルなど幾度もバブルは起こってその都度はじけている。
つまり、バブルは必ずはじけることになっている。
そして、今現在、全ての物がバブル化している。
だから、過去のバブルで8割程度の暴落があったことを考えれば、今の株価も8割程度下がる。
■そもそも株というのは本来無価値である
株というのは、現在の企業の利益に、将来の利益までを先に織り込んで出している。
例えばPER10倍というのは、今の利益の10年先の利益まで織り込んでそれを株価にしていると言える。
そもそも今の商品の価値が本来無価値であって、それがバブル化して値がついているのなら、将来の利益も無価値なわけだから、ゼロにPER10倍をかけても、それはゼロ円にしかならない。

とまあこんなことを言っているようです。
で、8割下げたところに、円高でドルが半分になれば、資産価値は10%以下になる。
といった話の立て付け。
あれ、これじゃ日経平均の話じゃなくなって、米国株の話になっていますが、全体的な話のぶっ飛びすぎの中では些細なところなので、突っ込まないでおきます。
反論
彼の主張に対して、それは経済学ではなくて哲学だと言っている人がいましたが、僕もその通りだと思っています。
つまり、哲学というのは真実を語る必要はなく、相手に信じ込ませれば正義という学問です。
哲学的に整理すれば、バブルが過去に有って、それがはじけたという真実と、PERの計算方法は未来の利益を織り込んでいるという真実。
この二つは真実なので、これを先に話して聴衆を信じ込ませ、最後に嘘で結論付ける。
「間違った三段論法」
という詭弁にあたると思います。
真実を並べて信用させ、最後の肝の部分の嘘を信じ込ませるというのは、詐欺にも良く使われる手法ですから、どうぞお気を付けください。

さて、彼の言い分は、極論、企業の売る商品が本来無価値であり、なのでその企業の株価も本来無価値というものです。
これっていったいどういうことでしょう?
仮に自動車は、運転する方法、動かす方法が分からなければ、鉄鉱石の塊と何ら変わらない、鉄くずです。
本来価値が鉄くずと同程度の物に、移動手段という付加価値を見出し、そこに鉄くずとはかけ離れた値が付けられているのが自動車なんです。
現在の自動車はこの移動手段という付加価値に買い手の需要があるため、ずっと(彼のいう所の)バブルが続いています。
逆に言えば需要が無くなった瞬間に、このバブルははじけ、自動車は鉄くずと同じ価格に崩壊します。
これが彼の言い分であって、これだけでいえばある意味正しいと思います。
ですから、彼の言い分を「うんうん」と納得して聞いてしまう人もいるかもしれません。

しかし、自動車に対する付加価値が無くなる時って、一体どういう時でしょう?
仮に、どこでもドアとタケコプターが相次いで開発されたとします。
すると、わざわざ自動車を利用する意味は無くなります。
これによって自動車の価値は無くなり、自動車を製造する自動車メーカーの株価も価値は無くなります。
これも真実でしょうが、意図的なのかどうか知りませんが、彼の思考はココで止まっています。
実際には、企業は、今売っている商品の競争優位性が無くなれば、新たな商品を開発してシフトしていきます。
タケコプターのある世界で、トヨタがそれでもプリウスに固執して作り続ければ、トヨタの株価は次第にゼロに近づくでしょうが、実際そうはなりません。
むしろ、そんな世界ではトヨタは汎用型タケコプターの製造会社の急先鋒になっていくでしょう。
新たな商品が開発されれば、需要の低い事業は淘汰され、需要を見込める事業にシフトしていきます。
森永さんの考えにはこの基本的なことが欠落していて、彼が見えてる世界は、世界中の全ての人が、まるでお釈迦様のようにすべての煩悩を取り払い、全ての物欲が無くなった世界です。
そうなれば、全ての商品の価値は無価値になり、全ての企業の株価はゼロになるでしょう。
そんな世界は、宗教的に言うと、10万年後とかに起こりえるかもしれません。
そのための修行を現世で全ての人が行っているのかもしれません。
しかしながら、来年、全世界の70億人の煩悩が無くなり、物欲の存在しない世界が訪れるわけはありません。
森永さんは田舎に引っ越してある程度の自給自足の生活をしていて、そこの生きがいも感じているようですから、考え方がミニマリストになっていくのは理解できますが、それにしても話が飛びすぎなのです。
意図的なのかどうかは知りませんが。

整理
森永さんの意見を否定するにあたって、暴落そのものが永遠に来ないという人は、僕も含めていないでしょう。
暴落はいずれ来ます。
しかしそれは世界の終わりではなく、一年の間に、台風はいずれ来ます。
程度の、投資の世界では定期的なイベントのようなものです。
台風が来て被害が出ても、人類はちゃんと災害復旧をして元の生活に戻っているように、経済も元に戻ります。
時折、というか森永さんもですが、過去の暴落は元に戻ったかもしれないが、次の暴落は100年200年回復しない暴落かもしれないったことを言う人がいます。

しかしそんな世界は、もし来たとすると、ほとんどの株式会社が倒産し、それによって国の財源は無くなり警察、軍隊も予算が無くなって治安維持は出来なくなり、そんな中で核戦争が起きるのか、巨大隕石が落ちるのかわかりませんが、モヒカンの悪党が世にはびこり、北斗神拳伝承者が世界を救う、そんな地球でしょう。
株式から逃げて債券比率を高めようが、キャッシュ100%にしようが、そんな地球で一体なにか意味があるでしょうか?
こんな世界が来るとすれば、株が無価値なのと同様に、現金も無価値なのです。
つまり、投資を考える際に、あまりに極端な未来を予想することは意味のないことなんですね。
今の社会体制が維持されるなら、今の、現金、株、不動産、債券、コモディティといったアセットアロケーションの価値も維持されるはず。
そうであれば、という前提で、自身の資金をどこに入れておこうかを考えなければいけないんです。

犬伏の別れ
森永卓郎さんにはご子息がいて森永康平さんと言います。
康平さんも経済アナリストで、康平さんは至極普通な意見の持ち主で、親子で出演して議論をするYouTube動画なんかも多数上がっています。
まだまだ世間的認知は低いこの康平さんを立てるために、卓郎さんが無茶苦茶なことを言って、それに対して康平さんがまっとうな意見を言う。
息子のために卓郎さんが悪役になっているのでは?なんて意見もあり、僕もそれは少し考えたことがあります。
戦国時代、関ケ原の戦いが起こる前、真田氏が親子で東軍と西軍に分かれ、どちらが勝っても真田の血が断絶しないようにとの策略を立てた「犬伏の別れ」。
そんなことを連想してしまうんですよね。
ただ、情報発信をして利益を得ているのですから、それを信じて行動する可能性がある、視聴者や読者にも一定の責任を持たなければいけないと思います。
息子のために自分が悪役になるのも結構ですが。
森永卓郎さんは、是非ともご病気を克服されて、ご自身の現在の見解について、5年後、10年後にきちんと説明をしていただきたいと思います。

最後に
森永さんは、今に始まったことではなく何年もずっと、暴落暴落言ってきた人です。
そんな森永さん、現在のご病気の治療のため、持っていた株を最近売ったそうです。
・・・・・・・え????
つまりそれって・・・
暴落暴落何年も言っておいて、他人には売れ売れ言っておいて、自分はしっかり買ってたの?????
まあ・・・。
そういうことです。
もし皆さんや、皆さんの近しい人の中で、これから投資を考える人がいらっしゃいましたら、ぜひ予備知識として(森永さん個人ではなく)他人の意見とはこういうものということを伝えていただければと思います。




