時間は13:30.もう一歩も歩きたくないほど疲れている。多分、母も
そうなんだろう。娘の表情も冴えない。今日のお昼はルーブルから近い
「Fromagerie Hisada」(フロマージェリー・ヒサダ)の予定。うっかり
マップをスケジュール表に貼付けて来るのを忘れたので、行き方を知りた
くて電話してみた。すると「今日はどういうことか、3時まで予約でいっ
ぱいなんです。」と断られてしまった。その断り方が親しみのある感じで
気分は悪くない。ますます行ってみたいお店だなと思ったが、今夜はコン
サートが控えている。ホテルで一休みするとなれば、3時まで待つのは無
理な話だ。せっかく人気のあるチーズを買いつつ、サロンで美味しいお昼
をと思っていたが。
「どうする?」と娘に相談する。疲れているが、「予約なしで美味しい
お昼を食べるんだったら‟あそこ”しかないでしょ。」と言う。ここから
近いこともある。ただ、どれだけ並ぶことになるか分からない。前回は幸
運にも数分だった。あの程度だったら、まだ少しは待てる。結果、「Le
Comptoir du Relais」(ル・コントワール・デュ・ルレ)に向かうことに
決定となった。
そして、ルーブルを出て捉まえたタクシー。ずーっとトロトロ走り続け
、セーヌ河を挟んでほぼ斜め前に位置する「Bd. Saint-Germain」(サン
ジェルマン大通り)のメトロの駅「Odéon」(オデオン)まで18.60€。渋
滞があったとは言え、遠回りされたのではなかろうか。パリ市内での乗車
料金が今までで一番高い。
オデオン到着、14:15。早速ルレに向かう。やった!誰も並んでいない。
いきいなりお店に入らずに目印になっているパラソルの前で待つのが、こ
ういう所でのマナー。すぐにギャルソンがやって来て、案内してくれる。
今日は奥の小さな角っこに座ることになった。こじんまりとしていて落着
くが、手を振っても気が付いて貰えない位置。ちょっと焦る。こういう場
所に座ってしまうと、忘れられたように注文を取りに誰も来なかったりす
る。結果的にそれは杞憂だったようで、食事はほぼ順調に進んだ。
前菜に、娘がこのお店のエスカルゴを食べてみたいと言う。母は嫌な顔
をしている。分かっているんだが、私もこのお店のカルト(メニュー)を
いずれ制覇したいと思っているので頼むことにした。完全制覇は無理だと
しても、お気に入りを増やしたい。
母が嫌がるので6個注文。やっぱり美味しい!
もう一つの前菜は「Terrine Boudin」(テリーヌ・ブーダン)。ここで
私はまたうっかりをやった。前回来た時に隣の女性たちが頼んでいた、テ
リーヌを頼みたかったのだ。みっちりとテリーヌ型に詰まった、豚肉を中
心に色々な具材が入っているもの。私の大好きなタイプ。ところが、ブー
ダンの文字を読まないうちに「あった、テリーヌだ。」と注文してしまっ
た。
出て来たものを見て「あっ、ブーダン。」と心の中で呟く私。娘や母に
は黙っていた。この代物が、外国人にはなかなか難しい食材を使っている
ことを。完食は無理だなと密かに思う。ところが母も娘も「美味しいね。」
と、どんどん食べてしまう。母なんかは「食べやすいね。」と嬉しそうだ。
慌てて私も食べる。驚きだった。世に言われている、臭みが全く無い。豚
の血と脂で出来ているとはとても思えない。添えてある林檎のサラダはシ
ャキシャキとして更にさっぱりとした後味を添える。また頼みたいか?と
聞かれたら微妙だが、美味しかった。
これは‟黒ブーダン”と呼ばれているもの。
今まで絶対に食べないと思っていたのに、食べてしまった
メインは娘がまた食べたいと言う羊のロティ(ロースト)。確かにあれ
は美味しかった。肉の柔らかさといい、肉自体の旨味といい。それを頼み
つつ、私はここに来たら絶対!と考えていたものを注文する。
カルトの「18 NOS PLATS」(お勧めメイン料理 18番)にある「Faux
filet Normand」(フォー・フィレ ノルマン)だ。フォー・フィレとは
日本でいうところのサーロインのことらしい。フランスの北方に位置する
ノルマンディー産。でもそこが、わざわざ絶対と思うポイントじゃない。
この肉がパリで一番と言われている肉屋「Hugo Desnoyer」(ユーゴ・デノ
ワイエ)から仕入れたものだと分かったからだ。全く、ネットの力はすご
いなと思う。調べて行けば幾らでも新しい情報が増えてゆく。「この店の
肉を喰わずして・・・」という記事を今探すのは難しいが(どこかへ行っ
てしまったらしく、見つからない)、私の頭の中にルレに行ったら絶対コ
レ!と刻み込まれていた。いざ食してみると。
前回も食べた羊
これが期待のサーロイン350g
付合せのポテト。まろやかで母のお気に入り
ルレの塩の華
中はほとんどレア。350gをほぼ私と娘二人で食べた。母にも食べ易いよ
うに小さく切って渡したが、レア過ぎて途中から「いらない。」と言う。
見た目は日本のサーロインのような脂がほとんどない。牛を自然の中で育
てると無駄な脂は付かないのだろう。多分、ノルマンディーの草原で放し
飼いだろうから。サシと呼ばれる脂が入っていないのに、この旨さ。健康
的だし、感心すべきことだと思う。ただ柔らかさにおいては望むべくもな
いので、歯の悪い人は美味しさを感じる前にギブアップかも知れない。
最後のデザートは一人一つずつで。これまた外せないアップル・タルト
に、ルレのチョコレートはいかに?と頼んだ「Cremeux Chocolat」(ク
レムー・ショコラ)。そして最後はクレーム・ブリュレ。クレムー・ショ
コラは一番最初の日にミロワールで食べている。あれを思い出して「冒険
だからやめた方がいいんじゃない?」と私が言うと、「チョコ好きはチャ
ンレンジでしょ。」と頑張る娘。あーあ、知らないよ。また母に食べても
らう?
変わらぬ美味しさに、また感激
たっぷり大きいクレーム・ブリュレは案外普通
軽やかでクリミーで、流石の美味しさ
クレムー・ショコラさん、疑ってごめんなさい!と謝りたくなるほどの
美味しさだった。全く重さを感じさせないチョコレート・クリームには脱
帽。もっとも娘がほとんど食べたので、ちょっとだけ味見をした感想だ。
実際、チョコが特別好きじゃない私が間違ってこれを頼んでも完食出来る
と思った。
最後は娘が前回で懲りたのでカフェにせず、カフェオレを。私と母は
緑茶を頼んだ。小さなサブレ菓子付き。お茶は相変わらず、「DAMMANN
FRÈRES」(ダマン・フレール)だった。機会があれば、立ち寄ってみたいお
店の一つだが、果たしてその余裕はあるだろうか。今回ヴォージュ広場の
近辺に行く予定が全くない。肉屋のユーゴ・デノワイエにも行きたいが、
パリ14区。遠い。メトロ4号線「Alésia」(アレジア)の近くのビストロ、
「La Régalade」(ラ・レガラード)に行く時があれば、チャンス。だが今
回はまず無理だろう。いずれも来年の‟お楽しみ”になりそうだ。
こんどはたっぷり来たカフェオレ
「THE Vert」(テ・ヴェール)の‟Vert”は緑のこと
食べている間にまた行列が。
遅い昼食なのか、早い夕食なのか。時間は4時に近い。