お昼ご飯で考える旅のスタイル | 私的パリ案内

私的パリ案内

大好きなパリ!美術館も音楽もいいけれど
美味しいものもチョコッと食べてみたい
そんなおばさんの旅レポートです

 パリ散歩第1日目の昼食は、この小さな2つの島のど

ちらかで食べようと計画していました。参考にしたのは

当時のご飯情報を載せていた「ご馳走の手帳 秋・冬号

1992年」です。(「暮らしの手帖」別冊)当時「パリの

味」(文芸春秋社 1985年刊)と言う本を書いた増井和

子さんが記事を寄せていたのです。

 サン・ルイ島では「Restaurant au Pont Marie」、

シテ島では「Paul」が紹介されていました。この日、残

念なことにサン・ルイ島のお店はお休み。そこで、私た

ちは少し戻ってシテ島に向かいました。

 お店に着いた私たちを、「Paul」の体格の良いマダム

が笑顔でテラス席に通してくれました。青空の広がるパ

リの下。気持ち良い風が吹いてゆきます。席に着いてカ

ルトをみると・・・。

 まず、お得なお昼のムニュが無い。そして、メイン、

デザート、お茶で250フラン以上。約5,000円です。もち

ろん英語の表記は無く、私はもとよりフランス語をちょ

っと齧った友人の文子さんでさえ前菜のEntré(アン

トレ)、魚料理の「Poissons」(ポワッソン)、肉料理の

Viandes」(ヴィアンド)、デザートの「Dessert

(デセール)ぐらいしか分かりません。細かな調理法は

さっぱり。さぁ、どうしましょと顔を見合わせて、やめ

ることにしました。5,000円で冒険はしたくなかったの

です。

 今回のパリ行きでも、私はわざわざ星付きのレストラ

ンに行く時以外は、昼食に5,000円は出さないつもり。色

々調べた結果、東京と比較するとパリはちょっと高め。

そこで、3,000円前後で美味しくて満足の行くものを出す

お店。その辺りを集中的に探すことにしました。

 長い間東京で勤め人をしていた私は、普段の昼食には

1,000円前後をメドにしていました。たまの友人とのフレ

ンチはランチで、3,000円ぐらい。家族とのクリスマスや

誕生会のビストロでのディナーは6,0008,000円程度で

しょうか。

 1回の食事で1万円を超える場合は、そのお店がその

値段に相応しいと分かっている、もしくは相応しいと評

判の時だけです。沢山お金を出せば、美味しいものが出

てきて当たり前。たまには、いいでしょう。奮発して美

味しいものを食べましょう!でも普段は納得の行く値段

で美味しいものを探す。それが私の食のスタイルです。

旅先でもそれは変わりません。

 その原点は一人旅で「Avignon」(アヴィニョン)か

ら「Pont du Gard」(ポン・デュ・ガール)へ行った時

の出来事にあります。古代ローマ時代に建造されたと言

う世界遺産の橋へ行くにはバスしかありませんでした。

往復の時間をきっちり確かめて行った、帰りのこと。バ

ス停で待っていると、アメリカのシカゴから来たと言う

ご夫婦が近寄ってきました。お年は65歳ぐらいでしょう

か。少し緊張した顔で奥さんが聞きます。

 「バス時間が過ぎているんだけれど、ちょっとこの時

刻表を見てくれない?」彼女たちは私と違い「Nîmes

(ニーム)へ戻るらしいのです。

 「どれどれ、」と、見てみるとバスの時刻表には「16

20 Samdi」と書いてあります。つまり、土曜日だけ

の便。その時点では私は“曜日”もフランス語で分かる

ようになっていました。今、時間は1650。私のアヴィ

ニョン行は45分。もうバスが来ても良い頃です。ちょっ

と気が気じゃありません。で、

 「タクシーを使われたらどうですか?ここからニーム

までだったら、きっと300フランぐらいですよ。」と、

それに対する返事は、

 「とんでもない!そんなお金はありません。」そして

彼女はバス停に貼ってある時刻表を見て、気が付いたの

です。次の停留所でアヴィニョン行とニーム行きがクロ

スすることを!!

 60代の年齢で、冷静に最善策を見つけ出すことを諦め

ない。実際に自分が60代になって出来るだろうか?言葉

の分からないフランスで?

 その後、本当に本当に拙い私のフランス語でバスの運

転手さんに説明。事情を察した彼は猛スピードで次のバ

ス停へ。今まさに出発しようとしていたバスに、彼らは

乗ることが出来たのでした。二人は口々に言いました。

 「あなたに逢って良かった!本当にあなたのおかげだ

わ!」と。この言葉、私の方から言う事はあっても、言

われたのはこの時が初めてでした。そして安易にお金を

出して解決しようとせずに、自分の普段の生活と同じ感

覚で旅をしなくてはいけないのだと、気が付きました。

ポン・デュ・ガールへ行くためには、バス停から

この道を歩きます。約10分程度だったでしょうか。



私達の世代で、TVのCMに映し出された風景を

覚えている人は多いことでしょう。その壮大さ

に感歎した私は、必ず訪れてみたいと思って

いたのです。




 それは“食”についても同じだと思うのです。40代の

私はスケジュールにいっぱい星付きのレストランを入れ

ていました。でもです、無理なんです。そんなに毎日た

っぷりとしたフランス料理を食べるのは。日本人にとっ

ては、量的にとっても無理。食べることが職業の方は別

でしょうが。フランス人だって、普通の人々は毎日フル

コースを食べたりはしません。よほどのお金持ちだった

ら別でしょうけれど。でも、出会ったアメリカのご夫婦

のように普段の生活の延線上に旅がある。その方が私の

旅のスタイルにぴったりなのでした。

 今回の旅で星付きのお店は2つ程度にするつもり。食

べることが好きな人の旅ですから、楽しみは必要だと思

うのです。でもこの程度にして、安くて美味しいお得な

レストランの開発に頑張ってみようと考えているのです。

 日本で調べた資料を元に昼食と取ろうとした、あの時

のお店は現在のパリには2店とも存在しないようです。

レストランも浮き沈みが激しい世界のようですね。美味

しいものを食べようとして振られてしまった私たちは、

何度か足を運んだことがある日本人シェフのお店に行く

ことにしました。ところがそのお店までありません。

 “呉屋哲”さんがシェフを務める、「Capeline」(カ

プリーヌ)は17区に引っ越したとのこと。なんと!「EP

ICURE 108」(エピキュール 108)と名前を変え、20

年過ぎた現在も健在でした。ランチで28.5€、ディナー

34€です。もちろん日本語のカルトあり。ランチの予算

としてはギリギリですが、星一つ。ネットでの評判は上

々です。私も是非、また伺う事にいたしましょう。ちな

みに、エピキュールとは“美食家”のことなんだそうで

す。今回のレストランが一つ決まりました。


1990年に訪れた「Capeline」(カプリーヌ)時代の

領収書。3人で約756フラン(約15,120円)一人当たり、

約5,000円のディナーでした。