免疫チェックポイント阻害薬 | ある脳外科医のぼやき

ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」

オブジーボ(一般名:二ボルマブ)という薬をご存知でしょうか?

小野薬品とブリストルマイヤーズが発売した抗がん剤です。
免疫チェックポイント阻害薬という部類の薬剤です。

この薬のことはもう至る所で話題になって久しく、
知っている方も多いでしょう。

皮膚がんや肺がん、腎臓がんに適応が拡大され、
そういった病気で苦しんでいる方にとっては希望の薬でもあると思います。

インターネットで「オブジーボ」と検索すると、
非常にたくさんの記事がヒットすると思います。

詳しくはそれらの記事を読んでほしいのですが、
かいつまんでポイントを2つ挙げると

これが日本で生まれたといってもいい治療薬であるということと、
その機序が人間の免疫を生かした画期的なものであるということです。


Programmed Deathの略として、
PD-1と名付けられた遺伝子、タンパク質がこの治療薬のターゲットです。

これを最初に見つけたのは当時京都大学の大学院生だった石田先生であり、
そのPD-1が免疫の働きをつかさどることを発見したのが京都大学名誉教授の本庶先生です。

このPD-1は免疫細胞(T細胞)が体内で敵を攻撃する際に、
その働きが強すぎることがないように抑える役割をもっているのですが、

がん細胞はこのPD-1を悪用して、自らがT細胞の攻撃を逃れようとします。

そこで、このPD-1の機能を抑えることで、T細胞ががん細胞を攻撃しやすくしたのが、
抗PD-1抗体、オブジーボです。

もちろん、
誰にでも効くわけではなく、逆に免疫反応による副作用もあるなど、
夢の治療薬というわけにはいきませんが、

これまでの抗がん剤とは全く異なる、免疫を利用するという作用機序であることから、
第三の選択肢として大きく期待が寄せられています。


オブジーボ以外にも、
現在多くのPD-1阻害薬が研究されていますし、

少し作用機序は異なりますが同様に免疫を利用する、
ヤーボイ(CTLA-4阻害薬)という薬も既にあります。

他のアプローチからの免疫療法という意味では、
これも聞きなれない言葉になるかもしれませんが、
樹状細胞ワクチンや、ペプチドワクチン、キメラ抗原受容体発現T細胞(CAR-T)など、
今回取り上げた免疫チェックポイント阻害薬の他の治療法も研究されています。

がん治療はますます今後も進化していくでしょう。

国民の3人に1人ががんになると言われていますので、
これは心強いかぎりです。

しかしながら、
問題もあります。


それはこれらの治療法がまだ未完で、
効果が一定しない、というようなことだけではなく、

費用の問題です。

たとえばオブジーボ、
この抗がん剤の値段は毎月あたりいくらくらいと思いますか?

有名な話ですが、
メラノーマに対する治療の場合で、100万円をこえます。

年間で1500万円程度の費用が、
オブジーボだけでかかるのです。


年間の治療にそんな金額払えるわけがないと思いますよね。

しかし、日本には国民皆保険と、
高額医療費制度があるので、

平均的な収入の人でも月に10万円+α程度の負担で、この治療をうけることができます。

つまり、
この治療ををに加えて、がん治療に関連するどんな治療を受けたとしても、
患者の負担は一定になるということですね。

10万円+αであれば、オブジーボの薬代だけを考えたとしても10分の1以下になります。

なーんだ、ならよかった!
とも思うでしょうが、そう手放しで喜んでいいというわけでもありません。

なぜなら、残りの額は税金から支払われるわけで、
つまりは国民全員で負担することになるからです。

ものすごく乱暴な計算でわかりやすく説明すると、

たとえばこの薬が全てのがんに使えるとした場合、
3人に1人ががんになるとすると、

1人が1年間分のオブジーボ治療(1500万円としたとき)を受ける費用をまかなうには、
1人あたり500万円を負担するということです。

がんになった人が1年間分必ずオブジーボを使うとすると、
国民全員が500万円を支払う、というわけです。

この薬の治療だけで全員が医療費500万円なんて支払えますかね?
おそらく、無理でしょう。。。

まあ、この計算は乱暴すぎますよね。

実際に有識者の検討としてはどうなのかというと

現在日本では適応はメラノーマという悪性の皮膚がんと肺がんなのですが、
統計を調べてみると、肺がんだけで全がんの1/7程度の数になります。

そうすると、
肺がん患者約5万人がこのオブジーボを使うと見込む試算があります。

しかも、肺がんについてはメラノーマよりも多くの薬の量が必要になりますから、
1人あたり、年間3000万円強の費用を要します。

その結果どうなるかというと、
このオブジーボ1剤だけで1兆7500億円が必要になるとされています。


年間でおおよそ、納税義務のある国民1人あたりにすると2万円程度でしょうか?

肺がん治療という医療の一部、
さらにそのうちの抗がん剤の一剤だけでこの金額というのは、
異例中の異例のようです。

すでに限界一杯の医療費を、
一剤だけで2兆弱も増やしてしまっては、
日本の医療制度が危うくなるという議論がおきるのは当然ですね。

それでも、今回のこのオブジーボの薬価をみていると、
今後こういった新規の薬剤が日本の医療費と、そのシステムに限界を突きつけるのではないか?
と思ってしまいます。

こういった高価で新しい治療薬というのは今後も増え続けると思いますが、
それを保険適応のある患者さん全員に使う、というのは難しいのかもしれません。

日本の薬価制度の仕組み自体が、
効果が高く価格も極めて高い薬に対応できていないという話もあります。

世界では、
当然のようにお金のある人しか受けられない治療なのですが、

日本もそうならざるをえないのかどうか、
今後の動向が気になります


一部の医師にこういった薬剤を処方する権限を与えるというような意見もありますが、
そういったシステムにすれば、
製薬会社との癒着、医師への患者からの賄賂などが横行するのは目に見えています。

なかなか、難しいものですね。


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