崩壊しつつある海洋の「大海流」 影響は破滅的なものに | 市民自治ノート - NPOまちぽっとから

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崩壊しつつある海洋の「大海流」 影響は破滅的なものに

23年報告で「気候システムと人類にとって悪い知らせ」との指摘

 

「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その531

 └──── 島村英紀(地球物理学者)

 

 私たちが世界で初めて海底地震計のプロトタイプを作った半世紀前には、どの海洋学者に聞いても、「1000メートルを超える深海に流れはない」というものだった。私たちは実際、西太平洋の海底地震計観測からその事実を疑った。海流によるノイズが高かったのだ。

 

 実際には北大西洋からはじまって南へ一路、アフリカの南を回ってインド洋に入り、南極をかすめて太平洋に至る深海底に沿って進む大海流があった。冷たい沈む海水を北大西洋と南極から供給されている。

 この流速は2ノット(時速4キロ)に達する速いもので、なぜ、どのようにできたのかは分かっていない。

 

 大海流の継続的な観測が始まったのは2004年だ。ごく新しい。

 この海流は地球上のさまざまな地域に熱や栄養分を運んでいて、広い地域の気候を比較的温暖に保つうえで欠かせない役割を果たしている。

 ところで近年、この大海流が転換点に近づいている可能性を示す研究が増えている。

 

 21年の研究では、大海流が過去1000年で最も弱くなっていることが示された。

 昨年7月に公開された論文は、早ければ25年にも大海流が崩壊する可能性があると警鐘を鳴らし、議論を呼んだ。

 大海流は既に崩壊に向かっている可能性がという新たな報告が23年に発表された。これはモデル内で淡水の量を少しずつ増やしていくと、大海流は徐々に弱まり、やがて突然崩壊した。

 

 スーパーコンピューターを駆使して3カ月にわたり複雑な気候モデルを走らせ、シミュレーションの中で大海流に徐々に淡水を加えていった。

 こうした複雑なモデルで大海流の崩壊が確認されたのは初めてで、報告書は「気候システムと人類にとって悪い知らせ」だと指摘する。

 ただ、氷床コアや海洋堆積(たいせき)物のような手掛かりを使って過去を再現した結果、大海流が今から1万2000年以上前、氷河の急速な融解の後に真水が増え停止したことは分かっている。

 

 これと同じことが海氷が溶けて再び起きる可能性がないか、いま研究者は解明を急いでいる。海氷の融解以外でも、淡水の追加は氷の融解や降雨、流入する河川水を表している。これらは海水の塩分濃度が希薄化し、海流を弱体化させる原因となる可能性がある。

 

 他方、もしこの大循環が停止してしまえば、気候変動に伴う海洋温暖化や氷の融解により、海流の強さを決定する熱と塩のバランスが乱れる。

 大海流が崩壊する影響は破滅的なものになる可能性がある。

 欧州の一部地域では100年間で気温が30度C低下し、わずか10~20年の間にまったく別の気候に変化するかもしれない。

 

 (島村英紀さんのHP http://shima3.fc2web.com/

 「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より 2月16日の記事)

 (たんぽぽ舎メルマガより転載)