コロナ禍で1年延期となった前回から4年、またショパン・コンクールの年が巡ってきた。それまでになく熱心に配信を視聴した前回(予選雑感/本選覚書)に比べ、今回はそれほど気持ちが盛り上がらないな…と思っていたけれど、いざ始まってみるとやっぱり観ちゃいますね。2次予選へ進んだ日本人5人(牛田智大・桑原志織・進藤実優・中川優芽花・山縣美季)が発表されたのを機に、1次予選から遡って配信をつまみ聴きしてみた。この5人のうち、実演で聴いたことがあるのは牛田さん、桑原さん、山縣さん。進藤さんは前回のショパン・コンクールの配信で聴いて以来で、中川さんは今回初めて聴くピアニスト。
結果的に牛田・桑原・進藤の3人が3次予選に進むことになるのだが、惜しくも2次で涙を呑んだ中川さん、山縣さんは共にカワイの楽器を使用(それ以外の3人はスタインウェイ勢)。連続する6曲が課題の「24の前奏曲」を共に全曲弾き、共に情感豊かで物語性のある演奏を聴かせてくれたが、3次進出には安定感と正確性がより重視された印象。特に山縣さんは昨年6月にもトッパンホールで「24の前奏曲」を聴いており、その時と同様に好印象を持ったが、コンクールを勝ち進むにはいささかナイーヴな演奏だったと言えなくもない。
対照的に抜群の安定感を発揮したのが桑原さん。1次予選ではテクニックが前面に出て、あまり良いとは思えなかったのだが、ラウンドが進むごとに演奏に説得力が増し、3次で披露したソナタ第3番には唸らされた。これまでに聴いた同曲中でもベスト級の名演。前回のコンクールでも3次まで進んだ進藤さんは、野趣さえ感じさせる情熱的なタッチで強い印象を残したが、あれから4年を経て、技術と情熱がハイレベルで拮抗する演奏へと深化。キーを押下した後、ハンコをぐりぐりするように念押しする独特の指使いにも目を奪われる。予選では1次で弾いたバラード第4番が素晴らしかった。
前回は2次予選で涙を呑んだ牛田さんも再挑戦組。各ラウンドでのプログラム構成が良く、2次ではソナタ第2番のフィナーレのプレストからプレリュード第19番のヴィヴァーチェへの流れが鮮やかで、3次では課題のマズルカとソナタに組み合わせた前奏曲(作品45)と幻想曲(作品49)が絶妙の配置(3次突破ならずは制限時間超過説は本当…?)。どの曲を弾いても気品を感じさせ、バランスに優れ弱点の少ない演奏だが、同時にそれが桑原・進藤ほどのストロング・ポイントを目立たなくさせていたと言えるのかも。惜しくも本選進出はならなかった。
ファイナルに進んだのは、桑原さん、進藤さんを含む11人。国籍別では中国3、日本2、アメリカ2、ポーランド、カナダ、ジョージア、マレーシアと一見多岐に渡るが、ポーランドとジョージアの2人以外はアジア人もしくはアジア系のようだ。使用楽器はスタインウェイ6、カワイ3、ファツィオリ2(ヤマハとベヒシュタインは0)。また今回の本選では協奏曲のほかに「幻想ポロネーズ」が課題に加えられた。オケがスタンバイした状態でコンテスタントが登場し、ソロで「幻想ポロネーズ」を弾いた後一旦退場し、再び指揮者と共に登場して協奏曲を演奏する。
11人11様の「幻想ポロネーズ」を聴き比べることになったが、シルキーなタッチで全編を織り上げたリュー・ティエンヤオの演奏がとりわけ印象的だった。協奏曲では共に第1番を弾いた桑原・進藤だが、第3楽章のクラコヴィアクの主題を、野に放たれた若駒のギャロップのような躍動感で駆け抜けた進藤さんに対し、桑原さんは最初の4音をテヌートでしっとりと歌ってみせた。今回の本選で選択された協奏曲は、第1番が7人、第2番が4人。そしてついにエリック・ルーが、師匠ダン・タイ・ソン(1980年)以来となる第2番を弾いての優勝者に輝いた。
第19回ショパン国際ピアノコンクール 最終結果
第1位 エリック・ルー(アメリカ)
第2位 ケヴィン・チェン(カナダ)
第3位 ワン・ズートン(中国)
第4位 リュー・ティエンヤオ(中国)/桑原志織(日本)
第5位 ピオトル・アレクセヴィチ(ポーランド)/ヴィンセント・オン(マレーシア)
第6位 ウィリアム・ヤン(アメリカ)

