■紀尾井ホール室内管弦楽団 第144回定期演奏会(25/9/15東京オペラシティコンサートホール)
[指揮]阪 哲朗
[ピアノ]阪田知樹*
[ソプラノ]三宅理恵、山下裕賀**
[合唱]TOKYO FM少年合唱団**
ヴェーバー/歌劇「オベロン」序曲
コルンゴルト/左手のためのピアノ協奏曲 嬰ハ調*
(アンコール)シューベルト(リスト&ヴィトゲンシュタイン編)/君はわが憩い*
メンデルスゾーン/劇付随音楽「夏の夜の夢」(ナレーション部分:No.2の一部、4、6、8を除く)**
(アンコール)ヨハン・シュトラウス2世/喜歌劇「こうもり」序曲
紀尾井ホールが改修工事中のため、オペラシティに出張してのKCO定期。解説によれば、コルンゴルトは1935年にアメリカ映画「真夏の夜の夢」の音楽を担当し、メンデルスゾーンの作品(夏の夜の夢だけでなく、スコットランドやイタリア交響曲も)を大規模に編曲して全編に織り込んだという(観てみたい!)。そんな、3人の作曲家が「夏の夜の夢」でつながるプログラム。個人的には、カンブルラン&読響、沖澤&SKOと続いた今夏の「夏の夜の夢」特集の完結編でもある。
ヴェーバーの歌劇「オベロン」は、今まで気にしたことがなかったけれど、シェイクスピアではなくヴィーラントの叙事詩「オベロン」が原作なんですね。初演地のロンドンでは大当たりだったらしいが、台本にはかなり問題があるようで、今では全曲上演の機会も稀。限りなく魅惑的な序曲を聴きながら、いつかオペラそのものを鑑賞する機会があるのだろうかと、未知の本編に想いを馳せてしまう。
続いて珍しいコルンゴルトの左手協奏曲。著名なラヴェルの同名曲と同じくパウル・ヴィトゲンシュタインによる委嘱で、ラヴェル作品に先んじて完成された。30分超を要する単一楽章には、一筋縄ではいかない大胆で斬新な展開の中に、コルンゴルトらしい親しみ易く夢幻的な楽想が散りばめられており、未知の映画のサウンドトラックのよう。そしてラヴェルの左手が本質的に「陰」なら、こちらは「陽」だと思う。独奏ピアノはもちろん、オケの各パートの個人技も光るアクロバチックな逸品。
危なげなくパワフルに難曲を攻略してみせた阪田さん、アンコールもまた左手で弾き始めた。本編の興奮をクールダウンするように穏やかに紡がれた小品は、ヴィトゲンシュタイン編曲のシューベルトだった。
休憩を挟み、メンデルスゾーン「夏の夜の夢」。抜粋ではない劇付随音楽版を聴くのは初めてで、てっきり通しでやってくれるのかと思っていたら、実際には「ナレーション部分を除く」演奏。序曲・スケルツォ・妖精の行進・合唱・間奏曲・夜想曲・結婚行進曲・葬送行進曲・舞曲・終曲の順で演奏された。ソプラノと合唱が加わるのは「合唱」と「終曲」。これらの各曲が原作の流れとどう結び付くのかはよく分からなかったが、歌詞対訳を読むと声楽部分のドイツ語は原作のテキストに対応しているようだ。
何よりメンデルスゾーンの音楽そのものが雄弁で多くを語っている。これを聴いたら、たとえシェイクスピアの元ネタを知らなくても、コルンゴルト同様、未知のドラマを想像せずにはいられないだろう。今回、合唱には一般的な女声合唱ではなく児童合唱が起用され、「妖精の行進」の演奏中に並んで登場(全員男の子)。終曲の「妖精の合唱」はまさに嵌り役で、聴きながら松本で聴いたブリテンの妖精たちを思い出したりして、「夏の夜の夢」に親しんだ夏も終わるのかと、ちょっとしんみり…。
でも、これで終わりではなく、「こうもり」序曲のアンコール付き。水を得た魚の如く躍動する阪さんに煽られて、オケが恐るべき解像度とグルーヴ感でうねり、クライバー&バイエルン国立管以来かというキレキレの爆演に。このホールで聴くKCO、もしかして今、都内最強のオケでは。