藤岡幸夫&シティ・フィル 夜明け前の歌、テムズの霧 | 今夜、ホールの片隅で

今夜、ホールの片隅で

東京在住クラシックファンのコンサート備忘録です。

🔳東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第370回定期演奏会(5/11東京オペラシティコンサートホール)

 

[指揮]藤岡幸夫

[ピアノ]福間洸太朗*

 

ディーリアス/夜明け前の歌

リスト/ピアノ協奏曲第2番 イ長調*

(アンコール)フォーレ/3つの無言歌 作品17より 第3番*

ヴォーン・ウィリアムズ/交響曲第2番「ロンドン交響曲」

 

メインの「ロンドン交響曲」は、2020年6月に演奏予定だった曲。私が聴いた2022年2月の定期がその延期公演のはずだったが、未だコロナ禍が収束していなかった当時の時節柄、同じヴォーン・ウィリアムズの3番に差し替えられた経緯がある。そんな訳で三度目の正直となった今回、初めて実演でこの曲を聴くことができた。

 

印象としては、壮大なカンタータ風だった前作「海の交響曲」から一転、かなり俗っぽい音楽。作曲家本人は標題性を否定しているそうだが、ビッグ・ベンの鐘やテムズ河の霧を思わせる描写を初めとして、交響曲というより明らかに交響詩的であり、劇伴の元祖のような音楽でもある。第2楽章レントに現れるヴィオラ・ソロは、辻音楽師のヴァイオリン弾きを表しており、その後に聞こえてくる特徴的なフレーズはラベンダー売りの呼び声を模したものだという。

 

緩徐楽章ではなくアレグロ・ビバーチェのスケルツォを「ノクターン」としているのも珍しい。この第3楽章、解説には「夜の繁華街」とあるが、藤岡さんのプレトークでは「テムズ河の対岸にあるスラム街から聞こえてくるどんちゃん騒ぎ」とも。いずれにせよRVWらしい独創とダイナミズムが感じられる楽章で、個人的にはこの2つの中間楽章に聴き応えがあった。

 

リストのピアノ協奏曲第2番を聴くのはかなり久しぶり…と思ってブログ内検索すると、2014年7月に小菅優&ウィグルスワース&東響で聴いて以来約10年ぶり。冒頭に現れその後何度か顔を出す主題に独特の懐っこさがあるものの、改めて聴くと構成的には妙な造りだなぁ…。福間さんのタッチは真っ直ぐでシュアで、途中何度か挿入されるパウゼにも硬質な密度があり美しい。アンコールのフォーレの率直で簡素な響きもまた良き。

 

そして私にとってのこの日のメインは、例によって1曲目のディーリアス。初めて生音で聴く「夜明け前の歌」、CDではビーチャム&ロイヤル・フィル、マリナー&アカデミー室内管、ヒコックス&ノーザン・シンフォニア、サージェント&ロイヤル・フィル、小川典子&キャサリン・ストット(4手ピアノ版)の5種類が自宅にあり、それらを日替わりで聴きつつ本番の瞬間を待った。

 

待望の数分間は、写真や映像で何度も見て憧れた場所に、初めて実際に立った気分。音楽が五感に響き、細胞にまで沁み渡る。この場所に、生きているうちにまた来ることはできるだろうか? 今、日本でディーリアスを振ってくれそうなのは藤岡幸夫と尾高忠明ぐらいだが、尾高さんはほぼ「楽園への道」と「カッコー」だけだろうから、「新曲」への期待はひとえに藤岡さんに懸かっている。ありがとうサッチー、今後も頼みますよ。