原田慶太楼&東響 風光るシベリウス7番 | 今夜、ホールの片隅で

今夜、ホールの片隅で

東京在住クラシックファンのコンサート備忘録です。

🔳東京交響楽団 第718回定期演奏会(3/30サントリーホール)

 

[指揮]原田慶太楼

[ピアノ]オルガ・カーン*

 

藤倉 大/Wavering World

シベリウス/交響曲第7番 ハ長調

ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番 ハ短調*

(以下アンコール)

プロコフィエフ/4つの練習曲より 第4番*

ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番より 第3楽章フィナーレ*

 

1曲目の藤倉作品は、シベリウス7番と併せて演奏できる曲を、という依頼に応えたもの。編成はシベ7よりも大きく、シベ7には出てこない管・打楽器も多数使用されている。自作解説によれば、フィンランド神話とのつながりで、日本神話の「天地分離のイメージ」に想を得たとのこと。清水首席のティンパニが大活躍する16分ほどの曲で、シベリウスとの関連を意識して聴いてみたものの、個人的には今ひとつピンと来なかった。

 

そしてシベリウス7番。東響のサントリー定期の会員を四半世紀以上続けているけれど、秋山-スダーン-ノット時代を通じて、このオケはほとんどシベリウスをやらない。ようやくノット監督が採り上げた2021年7月の第5番が案外嵌っていなかったのも記憶に新しい。しかしこの日の第7番は、これまでのシベリウス不足を払拭するが如き快演。正指揮者の任期を2026年まで延長した原田氏だが、ほかの交響曲もぜひ振ってほしい。

 

何よりも音楽がしなやかで若々しい。変にストイックなところが無く、息遣いが自然で、これが最後の交響曲なのに、これから新しい季節が始まるかのような清々しい風が吹く。この曲の終盤、高音の弦がヒリヒリと響く部分を聴くたびに、蒼穹の奥処に吸い込まれそうな恐怖に似た感覚を覚えるのだが、この日はその部分さえも優しく、柔らかな陽光に包まれているように感じられる。峻厳さとはまた別の、ハ長調の終止が沁みる。

 

これがトリでもよかったが、当夜は後半にコンチェルト。ソロを弾くオルガ・カーンは初めて聴くピアニストだが、冒頭の鐘の音からくすんだ響きと打鍵の遅さが只者ではない。以降もかなりテンポを揺らし、原田さんの視線もほぼソリストに釘付けで、これではオケが引っ張られ過ぎではないかと心配になる。

 

ようやくオケの自主性が出てきた第2楽章も束の間、第3楽章はさらにクセの強い演奏で、アクロバチックな急加速とスローダウンの連続に思わず笑ってしまうほど。耳タコのこの曲をここまでスリリングに振り切ってしまうとは! 前半の藤倉&シベリウスが吹っ飛ぶ爆演で、なるほどこの曲順で正解だったと納得。アンコールにフィナーレをリピートする大サービスで、今シーズンの最後に素敵なサプライズが待っていた。

 

翌日、ニコ響の見逃し配信でもう一度聴いたが、やっぱりすごい演奏。カーンさん、笑いながら弾いたり、表情も豊かで目が離せません…。