東京春祭 都響ヴィオラ・アンサンブルの卒業式 | 今夜、ホールの片隅で

今夜、ホールの片隅で

東京在住クラシックファンのコンサート備忘録です。

🔳都響メンバーによる室内楽 ヴィオラ・アンサンブル(3/28東京文化会館小ホール)

 

[ヴィオラ]店村眞積、鈴木 学、篠﨑友美、石田紗樹、村田恵子、小島綾子、デイヴィッド・メイソン、冨永悠紀子、萩谷金太郎、林 康夫、樋口雅世

 

モーツァルト(對馬時男編)/歌劇「魔笛」より(ヴィオラ四重奏版)[篠﨑・萩谷・村田・林]

ボウエン/4つのヴィオラのためのファンタジー ホ短調 作品41-1[鈴木・村田・樋口・メイソン]

A.ロッラ/ディヴェルティメント[店村・石田・冨永・小島・萩谷]

野平一郎/4つのヴィオラのためのシャコンヌ[全員]

(アンコール)J.シュトラウス2世/ポルカ「雷鳴と稲妻」[全員]

 

例年ならもう満開でもおかしくない桜の便りは随分遅れているが(東京の開花宣言は翌29日)、今年も東京・春・音楽祭が始まっている。20周年を迎えたこの音楽祭、私が聴き始めたのは2015年からだから、約半分を見聞きしてきたことになる。これまで聴いた中で最も印象に残るのは、加藤昌則プロデュースの「ブリテン・シリーズ」、そして最も印象的な出演者はエリーザベト・レオンスカヤ。華やかなオペラ公演を尻目に、今年も小ホールの地味なプログラムを中心にいくつか聴くつもり。

 

この日は都響のヴィオラ・セクション11人によるアンサンブルで、休憩無し・約70分のプログラム。まずモーツァルト「魔笛」から、序曲やアリアの一部を抜粋しヴィオラ四重奏版に仕立てたもの。「私は鳥刺し」ではパンフルートが一瞬だけ聞こえる演出も。続くヨーク・ボウエン(1884-1961)「ファンタジー」が当夜の聴きもの。4つのヴィオラのためのオリジナル作品で、十数分ほどの短編ながら、「浄夜」を思わせる濃密な情感がドラマチックに香り立つ。

 

次のアレッサンドロ・ロッラ(1757-1841)「ディヴェルティメント」は5人での演奏。4人のアンサンブルに支えられ、店村氏が存在感たっぷりのソロを披露する。先日マーラー10番でオケのラスト出演を果たした店村氏だが、この日はヴィオラ・セクションだけの卒業式のよう。最後に野平一郎編曲版のバッハ「シャコンヌ」。「4つのヴィオラのための」とあるが、11人全員による合奏。4つの声部の絡み合いと、各声部内で同調する響きが交錯し、最後に単音のユニゾンに帰結するアンサンブルの妙。

 

どの曲も、ヴァイオリンのみで演奏したらいささか腰が高すぎるし、逆にチェロのみだったら腰が重くなるだろうから、ヴィオラというのはつくづくアンサンブル楽器なのだな…と思う。アンコールも全員演奏で「雷鳴と稲妻」。弓の動きが1つ1つ違っているように見えたけれど、この特殊編成のために編曲したのだろうか? ともあれこのアイデア、すこぶる愉しい。