リープライヒ&日フィル 翻るシューマン先生3番 | 今夜、ホールの片隅で

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東京在住クラシックファンのコンサート備忘録です。

🔳日本フィルハーモニー交響楽団 第758回東京定期演奏会(3/23サントリーホール)

 

[指揮]アレクサンダー・リープライヒ

[ヴァイオリン]辻 彩奈*

 

三善 晃/魁響の譜

シマノフスキ/ヴァイオリン協奏曲第1番*

シューマン/交響曲第3番 変ホ長調「ライン」

 

アレクサンダー・リープライヒは初めて聴く指揮者。プロフィールを見ると日本のほか韓国、台湾、シンガポール等、アジア各国で振っているようだ。現在のポストはプラハ放送響首席指揮者、バレンシア管首席指揮者兼芸術監督。1曲目の三善作品はマニアックな選曲だが、これは日フィルからの提案とのこと。

 

お目当ては2曲目のシマノフスキ。この曲の実演は、イザベル・ファウスト(N響)と弓新(東響)で聴いた2021年以来。その時かなり聴き込んだので、細部は忘れても大枠は刷り込まれている。初挑戦のレパートリーだったという辻さんだが、全編艶やかな美音で、一筋縄ではいかない難曲にもかかわらず、技術的にも精神的にも余裕が感じられる。オケも含めさらに神秘的な妖しさが加われば…とも思うが、それは望み過ぎというものだろう。

 

後半のメインはシューマンの「ライン」。これはマエストロ意中の作品のようで、日フィルから滔々たる流れを引き出した好演。リープライヒはタクトを持たず、長い両腕をダイナミックに使って指揮する。その上着の裏地が真紅で、指揮台の上で躍動するたびに、翻った赤がちらちらと見える。それがいかにも嬉々として振っているようで印象的だった。

 

ところで「ライン」と言えば、先日最終回を迎えたドラマ「さよならマエストロ」でも重要な意味を持つ曲だった。このドラマ、始まった時は、1年前に放送されたばかりの「リバーサルオーケストラ」と設定が似すぎでは(存亡の危機に瀕した地方オケ、ヴァイオリンにトラウマのあるヒロイン等々)と思ったけれど、より人間ドラマに重点を置いた脚本で、これはこれで楽しめた。監修が広上淳一氏だけに、「ベートーヴェン先生」「シューマン先生」と「先生呼び」が頻出したのはご愛敬。

 

このドラマで最も印象に残ったのは、芦田愛菜と西島秀俊の父娘和解シーンもさることながら、指揮者見習いだった女子高生(當真あみ)が最終回で「皇帝円舞曲」を振ったシーン。晴見フィルが、ドイツに戻るマエストロの後を託す人材として、素人同然だった彼女を抜擢するのだが(コンマスも芦田愛菜に)、あぁこうして音楽は新しい世代に受け継がれてゆくんだな…ということを端的に表現した名場面で、何だかじーんときてしまった。