シナリオ【逃避行】 7 | Novel & Scenario (小説と脚本)

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5月30日にビデオコンテを公開しました。第二回は7月29日に配信します。

 

 


 

●隠れ家・広場(夜)

 

宴。酒に酔っている男たち。

 

 

 

 

●ノアの部屋

 

ノアが窓から宴を見ている。別の一方を見る。サクのいる部屋で、サクがやはり宴を見ている。

 

 

 

 

●サクのいる部屋

 

カイ「(酒の入ったひょうたんを手に入口に来て)酒はお嫌いか」

 

サク「(振り返り)あまり」

 

カイ「1杯ぐらいいいでしょう(と椀を差し出す)」

 

インサート。広場の宴。

 

カイとサクが座って飲んでいる。

 

カイ「姫がまた厄介をかけたそうで」

 

サク「いや」

 

カイ「今日はどちらへ」

 

サク「――うん」

 

カイ「姫はあなたを慕ってる。どうです。これからも我々の力になってくれませんか」

 

サク「やめとこう」

 

カイ「――」

 

サク「安全なところまで送り届けて、役目は終わった」

 

カイ「――そうですか」

 

サク「やはりいくさを?」

 

カイ「――いずれ」

 

サク「憎しみは計り知れない。だが戦えば、また憎しみを増やす。やまない」

 

カイ「――」

 

サク「せっかく生き延びられたのに」

 

カイ「生き延びればいいってものじゃありません」

 

サク「――」

 

カイ「恨みを忘れて生きたところで――死者に顔向けできない」

 

サク「しかし」

 

カイ「あなたにはわからない」

 

サク「――」

 

カイ「愛する者を殺された気持ちは」

 

サク「しかしあの子を助けた。助けた命がなくなるのは――」

 

カイ「――」

 

サク「それもあの子次第、諦めるしかないが」

 

カイ「姫は両親と兄上の3人を殺された」

 

サク「――」

 

カイ「お礼は十分します。ただ1つ、この場所は伏せて願います」

 

サク「――ああ」

 

 

 

 

●ノアの部屋

 

ノアが窓からサクのいる部屋を見ている。

 

キナの声「姫様」

 

ノア「(扉を見る)」

 

キナが扉をあけ、わきによけるとカイが入ってくる。

 

カイ「急な話ですが、サク様が明朝発たれるそうです」

 

ノア「――」

 

 

 

 

●通路

 

ノアの足が走る。

 

 

 

 

●サクのいる部屋

 

ノアが来る。

 

サク「(荷物を整理していて)ああ、お姫さんか」

 

ノア「(そばに座り両手でサクの手を押さえる。涙を浮かべる)」

 

サク「ああ、明日発つよ」

 

ノア「(首を振る)」

 

サク「ここにはいられない」

 

ノア「?」

 

サク「俺は農家の生まれだ。あんたぐらいの頃に不作が続いた。雨が降らない年と、陽の照らない年が交互に続いて、たくさんの人が死んだ。弱っているところを狙って周りの国が攻め込んで、兵糧が必要だったんだろう。農家はほとんどの収穫を持ってかれ――俺の両親は飢えて死んだ。妹も病気で死んだ」

 

ノア「――」

 

サク「ひとりじゃ土地は耕せない。それからは盗みを繰り返して、ここのみんなと変わらない。ヘマをして捕まってからは、城壁や堀を造る奴隷だ。ろくに食う物も与えられず、死んでいく奴らが大勢いた。耐えかねて暴動を起こし、監視を殺してからはお尋ね者。人の住まないあの土地まで逃げて、それからはひとり。ひとりでよかった。人間は懲り懲りだ」

 

ノア「(首を振る)」

 

サク「国を治めていたのはあんたの父親だ」

 

ノア「――」

 

サク「もう恨んではない。天災や外敵、悪いことが重なったんだろう。仕方なかったんだろう。しかしあんたを追ってた奴らのことも、わからなくはない。あんたの一族を追い落としたこと――俺だって同じになったかもしれない」

 

ノア「――」

 

サク「ただ――わかるが関わりたくない。あんたらにも。ひとりがいい。ひとりにしてくれ」

 

ノア「(涙が落ちる)」

 

サク「もうお役御免に(ノアに握られた手をほどく。背を向けて準備を続ける)」

 

ノア「――(へたり込んだまま泣く)」

 

 

 

 

●朝陽

 

 

 

 

●隠れ家

 

サクがカイから馬をもらい、またがる。森に行く。隠れ家の老若男女が見送り、その中にノア。たまらず追いかける。

 

キナ「姫!(と呼びとめるがノアはとまらない。カイを見る)」

 

カイ「(目でうなずく)」

 

キナ「(ノアのあとを追う)」

 

 

 

 

●森

 

山道をサクの乗る馬が来る。ついてくるノアには気づいている。そのあとをまた少し離れてキナが来る。

 

下り坂になるキリのいい場所。サクが馬をとめて振り返る。

 

サク「ここでいい。急がないと夜まで着けない」

 

ノア「――」

 

サク「(遠くのキナを見て)心配してる」

 

ノア「――(サクを凝視)」

 

サク「(馬を降りて)俺は心配ない。なんとか――なんとかやっていく」

 

ノア「(一歩近づく。涙目)」

 

サク「姫を助けるなんてそうそうあることじゃない。その思い出だけでなんとか」

 

ノア「(サクの胸にしがみつき泣く)」

 

サク「達者で」

 

ノア「あ、ありがとう」

 

サク「――」

 

ノア「(サクを見上げかすれ声で)ごめんなさい」

 

サク「なんのなんの(と微笑し、ノアから離れて馬にまたがる。馬の脇腹を蹴り進める)」

 

ノア「(追って行きかけるがとまる)」

 

サク、スピードを上げて坂道を下り森の中に消える。

 

見送るノアの元にキナが来る。

 

 

 

 

●森の中

 

サクの馬が走る。走っていく。

 

 

 

 


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