5月30日に小説「逃避行」のビデオコンテを公開しました。
山賊の首領の声「待て」
山賊たちが見る。大男の首領が馬で来る。少女を見ていて馬を降り、
首領「姫か? ノア様では?」
少女「(見る)」
首領「私です。お父様に仕えていたカイ」
少女「(そうだと気づく)」
カイ「やはりそうか。よかった! てっきり我々は――(気づいて手下に)離せ。姫だぞ」
手下「は(と少女を放す)」
カイ「あれからどうされて?」
ノア「(話そうとするが言葉は出ず、踏みつけられている男に駆け寄り手下の足をどかす)」
カイ「その者は」
ノア「(説明しようとするが言えず、首を振って目で訴える)」
カイ「口がきけないのですか」
男「(山賊たちを見て少女を見る)」
手下のひとり「(馬でやってきて)馬は逃げられました」
カイ「(手下たちに)隠れ家だ。お連れするぞ」
●山道
男と少女がそれぞれ別の馬に乗せられ、手下たちが手綱を引いて進む。
カイの声「なんとか逃げ延びた者たちが潜んでいます。年寄りや女子供。食いつなぐために我々は――仕方ない。商人や運び屋から金品を奪い――しかし復讐のためです。生き延びるためではない」
先頭のカイが少女を振り向き、一方を指さす。
●隠れ家(夕方)
切り立った岩肌に屋根を設けて壁で仕切り、住めるようにした場所。
知らせを受けた老若男女が30人ほど中央の広場にいて、ノアを歓迎する。無事をよろこぶ。ノアも手を差し伸べうなずいて応える。
カイの声「あなたの名は」
男の声「サク」
カイの声「サク様か。姫とはどんな風に」
歓迎の中でノアがサクを見る。
サクの声「隠れ家に突然来た。そこに追手がまた来て」
●隠れ家(夜)
中央の広場で火が焚かれ、ささやかな宴がひらかれている。
カイの声「逃げて下さったのか。ありがとう。どうお礼をすればいいか」
サクの声「いや」
●広場を見おろせる部屋
ノアとサク、カイと給仕の娘キナがいる。宴を見ている。
カイ「お付きの者たちはどうされました」
ノア「――(目を伏せて首を振る)」
カイ「全員? ニナも?」
キナ「(給仕の手をとめてノアを見る)」
ノア「(目を伏せたままうなずく)」
喧騒が先行し、
●記憶・森
追手たちが「この辺だ」「探せ探せ」「むこうに回れ。逃がすな」と大声を立てている中、ノアを連れて走るニナ。キナの姉で瓜二つ。そしてカイの妻。ノアを抱いて身を隠し、
ニナ「姫様、このまままっすぐ行って。私が囮になります」
ノア「ダメ(と首を振る)」
ニナ「だいじょうぶ。捕まりません。もし捕まっても身重です(とふくらんだ腹に手をあてる)何もされやしません」
ノア「ダメ(と首を振る)」
ニナ「逃げて。だいじょうぶだから。逃げて」
ノア「――」
ニナ「ほら(と背中を押す。そして戻っていく)」
●岩場
ノアが逃げ下りてくる。ニナの悲鳴に足をとめる。振り向く。
再びニナの悲鳴。ノア、たまらず引き返す。
●森
衣服の乱れたニナが逃げる。それを追う男たち。ニナは捕まり抵抗するが雪の上で凌辱される。
それを離れて目にするノア。物陰に隠れる。勇気が出ず助けに行けない。ニナの悲鳴に背を向け耳をふさぎ目をつぶる。
●現実・隠れ家の一室
カイ「どんな最期でした」
ノア「――(涙が落ちる)」
キナ「(口元を覆って泣く)」
カイ「(歯を食いしばって涙をこらえる)」
サク「――」
カイ「(ノアへ)仇を討ちましょう。お父様たちの、仕えた者たちの。ここで力を蓄え、奪われた土地を取り返すんです。そして我々が再び治める。姫様がいればみんなまとまります。このままでは死んだ者たちが浮かばれない」
ノア「――」
雷鳴が先行し、
●山々(朝)
強雨。空に稲妻が走る。