5月30日に小説「逃避行」のビデオコンテを公開しました。
●町(夕方)
通りに面して10軒ほどの商店が並ぶ小さな町。ふたりが来る。馬を降りる。
●雑貨店
初老の店主「(男の差し出した砂金の一粒を見て)なんだいそりゃ」
男「砂金だ。金に換えてくれ。大きい町では高く売れる」
店主「あいにくここは小さな町でね。しかし困ってるなら、しょうがない。20で買おう」
男「(砂金を懐にしまって行こうとする)」
店主「あーいやわかった。40だ。40出そう」
男「むこうの店は50だった」
店主「わかった60。それしか出せんよ。手元にないんだ。釣銭がなきゃ商売できん」
男「いいだろう」
店主「ヘヘヘ、ちょっとお待ちなさいよ(と奥に行く)」
●店先
少女が馬と一緒にいる。一方を見ている。視線の先には井戸。若い女が3人話している。
男「(店から出てきて気づき)話したいのか(と手綱を取る)」
少女「(男を見るが目をそらす)」
男「好きにしろ(馬を連れていく)」
●井戸端
楽しげに話していた女たちが一方に気づく。少女がそばまで来ている。
女A「なんだい」
少女「(話そうと口をあけるが言葉が出ない)」
女B「うん?」
少女「(話せず涙を浮かべる)」
女C「何さ。用がないならあっち行きな」
●食品店
おもてに手綱を巻く杭がある。男と少女の馬がつながれている。少女が来て馬をなで、店に入る。
男「それとそれ(と女主人に言って買い物している。少女に気づき)話したのか」
少女「――(唇を噛む)」
男「欲しい物は」
少女「(馬用の乾草を指さす)」
男「それはいらん」
少女「(頑固に指さす)」
男「――」
女主人「どうするの」
男「それだけでいい(と女主人に言ってから)来い(と少女を見て表へ)」
つながれた馬の元に来て鞍の下の敷物をめくり、臀部の烙印を見せる。
男「おまえを追ってる男たちの馬って印だ。見つかれば盗んだのがわかる。ずっと乗ってるわけにいかん。次の町まで持てばいいんだ。新しいのを買う。こいつは着く手前で放す。それまでにはエサの草もあるだろう。買う必要はない」
少女「(唇を噛んで涙目で睨む)」
男「――わかったよ(ため息をつき店内へ)」
●洞穴
山の途中にある穴。わずかに明かりが見える。
たき火を囲んで男と少女と馬がいる。少女は馬に乾草を食べさせている。たき火で焼かれている野ウサギの肉。土鍋で焚かれている穀物。男は小さな鏡を見ながら小刀で髭を剃っている。意外に若い風貌。30歳くらい。
少女がエサをやり終えて戻り、男の顔に気づいて驚く。
男「(チラッと見るが髭剃りを続け)あの町で顔を見られたからな。念のためだ」
少女「(たき火の元に座る)」
その顔にフラッシュインサート。井戸端に近づいた少女に気づく3人の女。
男「なぁに、心配いらん。これから山に入るにはあそこに寄るしかなかった。山に入ればさすがに辿られん」
少女「(目を伏せる)」
男「身寄りはないのか。あるなら送り届ける」
少女「(目を伏せたまま首を振る)」
男「そうか(髭を剃り終え、鏡に着いた髭を払い、少女に鏡を差し出す)やろう。あの町で買った。女は鏡が好きだろ」
少女「(目の色を変えて受け取る。鏡の中の自分をまじまじ見る)」
男「(苦笑し)また剃る時は貸してくれ。さぁ食おう(と食事の用意。少女を見て)いつまで見てる」
●モンタージュ
夜明け。山から太陽が昇る。
森の中を男と少女の馬が行く。まだ雪が多い。
小川。春の陽射しの反射。
馬を降りて急坂を登る男と少女。
透き通る池のそばで休憩。ここには雪がない。花や虫たち。
空に暗雲。樹々の葉に落ちる雨滴。
夕闇のなか雨に濡れつつ進む2人と1頭。
雨を避けられる岩場で野営の準備をする。
たき火。夜。やまない雨を見ている男。その背中を見ている少女。F.O.
●山々(午後)
深い森が続く。道なき道を行く一行。滝の落ちる川のそばで休憩。野生動物や鳥。馬を降りて手綱を引き岩場を下りる。山道に出る。
●湿原
少しひらけた湿地帯。少女が馬を連れて草を食べさせている。男は草の上に転がり休んでいる。小鳥のさえずり。花と蝶。平和な時間。
馬が耳を動かし一方を見る。男も気づいて体を起こす。周囲を見まわす。静寂。
突然遠くでピーッと笛の音。男と少女がその方を振り向く。
男「来い(と少女に言う)急げ(馬に荷物を積みまたがる。少女を引き上げ一方へ)」
●山道
男と少女の馬が来る。疾走。
進行方向に現われる2頭の馬にまたがった男たち。山賊。
男と少女の馬は方向転換し引き返す。
しかし追いつかれ山賊は太刀を抜いて振り下ろす。
少女をかすめ鞍のふちに当たり、ふたりの荷物が落ちて山道に散らばる。
男は正面に気づく。進行方向で待ち伏せる1頭の馬と山賊。
男と少女は山道を逸れ、近くの川へ。浅瀬を走り対岸に渡ろうとするが、対岸の森から別の馬が2頭飛び出し川に飛び込む。
驚いて前足を上げる男と少女の馬。バランスを崩して男と少女は落馬。馬は川の浅瀬を逃走し、男は少女の手を取って逃げる。
山賊たち「馬を逃すな」「ひとりは女だぞ」「生け捕りにしろ」
男が短刀を抜いて振り向く。山賊の振り下ろした太刀を受け転がる。
山賊たち「歯向かう気だ」「殺せ」「女は捕まえろ」
囲まれる少女と男。倒れた男をかばって少女が覆いかぶさる。馬を降りた山賊が引き離し、別のひとりが短刀を持つ男の右手を踏みつけ刀を振り上げた時、