このシナリオは小説の下書きとして書かれたものです。シナリオ全文はホームページでも公開中です。
●街路樹のある道(午後)
英司の車が走ってくる。11月。樹々が色づいている。
●英司の車・車内
英司が運転し渚が助手席。ふたりとも緊張した顔。
●大橋不動産
大橋勝枝「(老眼鏡をして書類を見ている。来客に)いらっしゃ(と顔を上げて気づき)英司さん(と席を立つ)」
英司「(来店し)こんちは。ご無沙汰してます」
渚「(あとから来て)こんにちは」
勝枝「あ、水谷さんとこの、渚さんね」
渚「ええ、ご無沙汰して」
勝枝「聞いた聞いた、英司さんのお母さんから。『ホント?!』って私驚いて、でも嬉しくて嬉しくて。渚さんのお母さんとも話して」
英司「ヘヘヘ、そんなわけで、これお詫びと言っちゃなんですが(と菓子折りを渡す)」
勝枝「いいのにそんな気ぃつかわなくて。まぁ座って、座って」
●英司の実家前
英司の車が来る。停車して英司が降り、続いて降りた渚に「ここ」と教える。
渚「へぇ(と見上げる。ドアのあく音で玄関を見る)」
英司の母「(笑顔で)いらっしゃい。車の音したから来たかって」
英司「ああ、ただいま」
渚「ご無沙汰してます」
母「いらっしゃい。遠いとこ疲れたでしょう」
渚「いいえ」
母「入って入って(英司に)お昼ご飯は食べた?」
英司「ああ、いらないよ(と入る)」
●玄関内
母「(中に向かって)お父さん、お父さん来た。なんで出迎えないんだろ」
英司「足は? 治ったの」
母「とっくよとっく。あ、このスリッパね」
渚「ありがとうございます」
母「あと鍵カチャッと。お父さん(と上がっていく)」
●リビング
母「(入ってきて)ほら来た。なに突っ立ってんの」
父「(ただ立っていて)ああ」
英司「ただいま(と来る)」
父「おお」
英司「足もう全然?」
父「ああ、治った」
英司「そう(振り向いて)こちら水谷さん(父に紹介)水谷渚さん」
渚「(来て父に)水谷です。はじめまして(一礼)」
父「ああ、英司の父です(一礼)」
渚「お休みのところすみません。お邪魔して」
父「いやぁ、どうぞどうぞ」
英司「見合いの写真は前に見たよね。座って(と渚を見る)」
渚「あ、これ、つまらないものですが(と紙袋から土産を出す)」
英司「ああそうだ、忘れてた」
父「ありがとう(受け取る)」
母「(キッチンでお茶の用意をしていて)いいのに手ぶらで。どうぞ座って」
渚「はい」
テーブルにお茶が置かれる。時間経過。4人が座っている。
母「最初はどうかって思ったの。こんな綺麗な人ウソでしょって」
渚「いいえ(謙遜)」
母「英司に釣り合わない。でも大橋さんがとにかく一度って猛プッシュだったから。そこまで言うならって。会ってみたら全然気取らない人で」
渚「はぁ(苦笑)」
母「すぐ気に入っちゃった。なのにこの子が気に入らないようなこと言うでしょう。私粘ったの。でもま、並んだらコンプレックス感じちゃうのはわかるし、諦めて。結局それがよかったのかな。時間置いてまた会えて。結婚式の二次会だっけ。いつの話?」
英司「えーと(渚を見る)」
渚「9月」
英司「そう9月。9月に」
母「じゃあまだ2ヶ月?」
英司「あぁ、まぁ」
母「ずいぶん急ね」
英司「いや、何度も会ったよ、そのあいだ何度も。話が超合ってね」
母「お見合いじゃそうでもなかったのに?」
英司「だから違うじゃない、ああいう場所とふたりで会うんじゃ」
母「そお?」
渚「違いました。すごく弾んで」
母「でも2ヶ月で、家まで来てくれるなんて」
英司「そりゃ黙ってるのは心苦しいからさ、報告だけはって、わかるでしょ。とりあえずの報告よ」
母「ふーん」
渚「はい」
母「父さん聞きたいことは? ないの? いつもおしゃべりなのにずっと黙って」
父「しゃべり過ぎなんだよ母さんが」
母「あら私のせい? じゃあ黙るけど。どうぞ。聞きたいこと聞いて」
父「そんなン言われたら聞きにくくなんだろ」
母「どっちにしたって文句言う」
英司「やめてくんないかな喧嘩。みっともない(と苦笑)」
●英司の実家前
英司「(玄関のドアをあけ出てくる)」
母の声「まだ全然話し足りないんだけど」
渚「(出てきて後ろに)すみません」
英司「また今度ね」
母「(出てきて)今度っていつ」
英司「彼女の両親待ってるから」
母「何も今日じゃなくたって」
英司「こっちが先ってだけで、なんか言われるかもしれないし」
母「そお?」
渚「そんなことないけど」
英司「こういう時間差はなるべくね、ない方があとあと」
母「そうかな」
英司「じゃあ父さん、また」
父「(最後に出てきていて)ああ、わざわざありがとう。渚さんも」
渚「いいえ、今後もよろしくお願いいたします」
母「ほんとほんと、英司のことよろしくね」
●街路樹のある道
英司の車が走ってくる。
睦美の声「(先行して)やさしそうなお父さん」
●英司の車・車内
英司「(運転しつつ)あぁ、あれ美人で緊張してたんじゃないかな」
渚「まさか(苦笑)」
英司「でもちょっとあせったね。危ないとこあった」
渚「うん――」
英司「これは外せないってことは、グイグイ来て。困ったり迷った時は、お互い目で合図して」
渚「わかった」
●渚の実家・水谷家
両親が玄関から出てきて笑顔で「いらっしゃい」
前の道路に車を停めて降りた英司が「はじめまして、杉浦です」と父に挨拶する。母には「ご無沙汰してます。その節は」と挨拶。両親が「いいえ」「どうぞ」と招き入れる。
●水谷家内
テーブルに紅茶とケーキ。4人が座っている。英司は固くなっている。
父「そう、優秀なんだな」
英司「いいえ」
母「お仕事安定してるのはいいけど、英司さんご長男でしょう」
英司「はい」
母「渚はひとりっ子だし、どうだろって最初はね。でも大橋さんがぜひぜひって」
英司「あぁ、そうですか」
母「杉浦さんのお宅、ご実家が隣りの市だって言うから。大橋さんのお店がある駅ね」
英司「ええ、それで母とは、昔から知り合いで」
母「近いからいいかって。ついでにご挨拶してきたら? 杉浦さんのお宅(と渚を見る)」
渚「あ(英司を見る)」
英司「いや、実はさっき、こちらの前に寄ってきて」
母「そうなの?」
渚「うん」
父「先に?」
渚「いいじゃないどっちが先でも」
英司「あ、うちの方がこれから、夕方なんか用事があるらしく、それずらせないってんで仕方なく、ささっと切り上げて」
父「そう」
渚「そう(うなずく)」
母「一度両家で集まらないと」
渚「まだ早いよそんな」
母「(英司に)そうなの? 結婚とかってあれじゃない?」
英司「あ、いえ、勿論真剣なおつき合いのつもりですけど」
母「でしょう? 相手の親に挨拶するってのは。具体的にいつの予定? 式とか入籍」
渚「やめてよ。そんな圧かけないで。黙ってるのがやで言いに来ただけなんだから」
父「そうだよ。はじめて来てくれたんじゃないか」
母「でも早い方がいいでしょう。この子35よ。子供だって早い方がいいし」
父「よせって」
母「自分がいつも言ってるんじゃない。他人の孫がうらやましいって」
父「いま言うことじゃないだろ」
母「ずるいのよ私に嫌なことばっかり言わせて」
渚「もうやめて。みっともないと呆れちゃうよ英司さん」
母「そお? やんなっちゃう?」
英司「いいえー」
渚「なるなる。結婚なんてどんどん遠くなる。油断しないで」
●夜道
英司の車が走ってくる。
●英司の車・車内
運転している英司。助手席の渚。ふたりとも疲れてぐったりしている。これからを思って憂鬱。
渚「ごめんね、なんか」
英司「いやぁ、思ったより話すお父さんで、ほっとした」
渚「しんどくなったんじゃない?」
英司「初日はこんなもんでしょ。だいじょうぶ、想定内」
渚「うん――」
睦美の声「(先行して)おかえり」
●渚と睦美のマンション・玄関
渚「(帰ってきたところで微笑し)ただいま」
睦美「お疲れさま。どうだった?」
渚「ま、なんとかかんとか」
睦美「そう」
渚「心配ないよ(微笑で部屋へ)」
睦美「(見送る顔に)」
明の声「(先行して)うまくいったのそれで」
●英司のアパート
英司「(スーツの上着をハンガーにかけつつ)いったさそりゃ。誰だと思ってんの」
明「(テレビゲームの手をとめていて)誰よ」
英司「余裕に決まってんじゃん。任せとけ」
明「へぇ(ゲームを再開)」
ジングルベルが先行し、
●夜の街・情景
クリスマスに彩られた街。ツリーやイルミネーション。
●渚と睦美のマンションの最寄駅
改札そばに英司と明がいる。睦美が来て合流する。
●渚と睦美のマンション・通路
睦美を先頭に明と英司が来る。ケーキの箱や買い物袋を持っている。睦美が「ここ」とドアを指さす。
●渚と睦美のマンション・室内
リビングに飾られた小さなツリー。
キッチンで3人が料理をつくっている。パーティーの準備。
玄関のドアがあいて渚が帰ってくる。明が気づいて「おかえんなさい。お邪魔してます」
ロウソクに火が灯されたケーキ。
「メリークリスマース」の掛け声でシャンパンを抜く4人の笑顔。
料理を食べる。プレゼントを渡し合う。
●町の夜景
ジングルベルが遠のき、
●渚と睦美のマンション
明が窓から外を見ている。
睦美「(そばに来て)英司さん寝ちゃった」
明「ああ、ジジイだから、すぐ疲れんだ」
睦美「ひどーい(苦笑)」
ソファーで英司が眠っている。
明「仕事どうした?」
睦美「年内のつもりだったけど、引きとめられて。来年の2月、遅くとも3月いっぱいで」
明「そう。次の予定は?」
睦美「全然。しばらく休んだらって渚は」
明「渚さんの店、手伝うってのはナシなの?」
睦美「いつでも来てとは言われてるけど、さすがにここと仕事と一緒はね」
明「まぁね」
睦美「実際そうなったら彼女もやりづらいだろうし。お店が不景気とかなったら、勿論手伝うつもりだけど」
明「そう」
渚がキッチンで食器を洗っている。
明「いいマンションだね」
睦美「家賃はそれなりに」
明「折半?」
睦美「うん――渚の方がちょっと多め」
明「なるほど。これから平気?」
睦美「これから?」
明「あのふたりが結婚したら、睦美ちゃんはここでひとり暮らしってテイ?」
睦美「あぁ――」
明「高いのにって親に心配されたり」
睦美「確かに」
明「いや俺も、ひとり暮らしのテイなのに新居に越すと、もし親が来たいなんて言った時――そんなこと今までなかったけど、社会人になってからは」
睦美「うん」
明「物がふたり分あるのにひとり暮らしって通用するか」
睦美「うん――」
明「そのとき英司は退避するにしても、結婚したら簡単に実家ってわけいかない。まえ話したみたいにビジネスホテルとか」
睦美「ここに来ればいい」
明「迷惑かける」
睦美「それは誰の場合もそう。私の親が来てもそうだし、ふたりのどっちかの親が新居に来ても」
明「迷惑で済めばいいけど――」
睦美「うん?」
明「急な病気とか怪我とか、あり得るでしょ。事故とか。今までもそうだけど、これからも」
睦美「まぁ」
明「独身じゃまず親に連絡が行く。それきっかけでひとり暮らしの嘘も、それ以上もバレないかって」
睦美「うん――」
明「考えといた方がいいんじゃって」
睦美「どうする?」
明「だから、その――」
睦美「結婚?」
明「俺らもやっぱ進めた方が――どうかな?」
睦美「うん――」
明「そうすっと睦美ちゃんたちは、ここじゃなく新しい部屋を探すってことになるんだろうけど」
睦美「そうね、明君とここで住むってのは」
明「不自然。転がり込むみたいで」
睦美「でも結婚して、新居に越すなら」
明「睦美ちゃんは家賃の心配されない」
睦美「何かあっても」
明「まずは自分らで動ける」
睦美「うん――」
明「いかにも同居してる風に、荷物とか着替えとか、ふたりもそうだね、細かいとこは詰めるにしても、なるべくふたりと同時進行の方がいいんじゃって。前向きに、考えてもいいんじゃって」
睦美「――わかった」
このシナリオは小説の下書きとして書かれたものです。シナリオ全文はホームページでも公開中です。