このシナリオは小説の下書きとして書かれたものです。シナリオ全文はホームページでも公開中です。
●ショッピングセンター
様々な店のスケッチ。客や店員。
旅行会社のカウンターがある。睦美が働いている。
少し離れた場所に明が来る。会社帰りの服装。
睦美「(明に気づいて驚く。小さく一礼)」
睦美の声「さっきなんか照れちゃった。知り合い来るなんてはじめてだから」
●ショッピングセンター内のベンチ
明が座ってスマートフォンを見ている。仕事を終えた睦美が来て声をかけ、明が立つ。連れ立って一方へ。
明の声「そお?」
睦美の声「待ち合わせ駅って言ったのに」
●夜道
ふたりが歩いている。
明の声「だいぶ早く終わったから、見てみようかって」
睦美の声「趣味わるー」
●走る電車内
ふたりが乗っている。
明の声「悪気は一切ないけど」
睦美の声「でもあるじゃん、使い分けてる顔見られたくないって」
●ある駅前
明の声「ふーん。ちょっとよくわかんない」
睦美の声「サンドウィッチマン? ちょっとなに言ってるかわかんないスけど」
明の声「好きだな、お笑い」
睦美の声「ヘヘヘ」
プレジールの最寄駅。待ち合わせに都合のいい場所に明と睦美がいる。改札の方から英司が来て手をあげる。
●プレジール・出入口
渚「(店内の奥から来て)いらっしゃい」
睦美、英司、明が来店したところで「どうも」と挨拶。
●プレジール・個室
3人がディナーを食べている。渚が接客。全員笑顔。
●プレジール・おもて
3人が立ち話をしている。
渚「(帰りの服装で従業員用の出入口から出てくる。店内に向かって)じゃお先に。あとよろしく(とドアを閉め3人に)お待たせ」
3人「お疲れさま」
渚「ごめんね遅くなって(と来る)」
睦美「ううん」
英司「さっきも言ったけど、すごくおいしかった」
渚「そお? よかった」
英司「ごちそうさま(一礼)」
明「ごちそうさま(一礼)」
渚「ううん」
睦美「(渚の後ろを見て)だれ?」
渚「え?(振り向く)」
従業員用口の前に丸山悟(38)がいる。出てきてドアを閉め4人を見ていたところ。
渚「あ、お疲れさま」
丸山「どうも(目をそらして一礼し)お先に(駅の方へ)」
渚「気をつけて(見送ってから睦美に)うちのシェフ。チーフ」
睦美「そう」
渚「行こうか(と駅とは別方向へ)」
●居酒屋・店内
暗めの店内のスケッチがいくつかあって、
●居酒屋・個室
4人が飲んでいる。
渚「実は母から、新しいお見合いの話あって」
英司「また?」
渚「あの大橋さんから」
見合いの時の大橋勝枝が短くインサート。
英司「そう。お母さんと同級生でしたっけ?」
渚「うん、中学時代の。今はちょっと忙しいって、なんとか断ったけど」
英司「そう」
渚「でもそれじゃ、いずれまた来るし」
睦美「時間稼ぎにしか」
渚「うん――で、英司さんさえよければ、話を進められたらって」
英司「あぁ――」
明「――」
渚「断り続けるのは、どんどん難しくなるし、いずれその線で行くなら」
英司「早い方がいいか」
明「――」
渚「ごめんなさい、私の都合で」
英司「いやぁ、僕も似たようなもんで。縁談は来てないけど心配されてる。いつまた来るか。落ちつかない。プレッシャー」
明「――」
渚「急には決めたり無理でしょうけど、私の方は進めても、進められたらって、そういう気持ちなので、それを伝えたくて」
英司「わかりました。考えます」
渚「ありがとう」
英司「いいえ」
渚「驚かれるだろうけど。実はつき合ってたって言ったら」
睦美「平気だよ。偶然再会したって言えば。実際そうなんでしょ」
渚「まぁ」
睦美「時期はついこのまえとか、再会したら意気投合とか、なんとでも」
渚「うん」
睦美「私は賛成したんです。ふたりが結婚しても、何も変わらない。今のマンションに私は住んで、彼女も住んで、形だけの新居には、そちらふたりが住んで、そこが変わるだけ」
明「――」
渚「お互いの家族が来るような時は、勿論私は行って、そこに住んでるふりします」
英司「そのとき明は(と明を見る)」
明「なんとでもするよ。何週間もいないだろ。ビジネスホテルに泊まるんでもいいし」
英司「うん――」
睦美「私たちの家に来ても(渚を見て)私はいい」
渚「(うなずき)明君さえよければ」
睦美「緊急事態はそれでOK(明と英司に笑顔)」
●駅構内
渚と睦美、英司と明の二組に分かれて「さよなら」を言い合う。
英司の声「どう思う? 正直なとこ」
●夜道
英司と明の最寄駅からの道。ふたりが歩いている。
明「どうって――英司が決めたの尊重するよ」
英司「明の気持ちは」
明「――親をだますんだし」
英司「うん――」
明「家族を、世間を、一生――一生かはわかんないけど、とにかく」
英司「うん」
明「覚悟あるならいいと思うよ。英司の人生だし。今のプレッシャー、いろいろ言われて気まずいのとか、俺は代われない」
英司「――」
明「だいじょぶかって心配はあるけど、できるフォローはする」
英司「ありがと」
明「だますしか、それしかないんだよな? 方法」
英司「家は保守的だし、両親も親戚も」
明「俺んちもさ」
英司「本当のことなんて、言えば傷つく」
明「縁切る覚悟だよな」
英司「どうせ覚悟いるなら、なるべく喜ばれる方、悲しませない方がいい」
明「――なら決まりじゃん」
英司「――」
明「いいと思うよ」
●英司の実家・おもて(休日・午後)
英司の車が来て停車。英司が降りてトランクから梨のダンボールを出す。
●英司の実家・玄関
英司「(ダンボールを抱えて入り)ただいま。どこー」
父の声「こっちだ」
英司「何よ玄関あけっぱなしで(ダンボールを置いて鍵を締め、またダンボールを抱えて上がる)」
●ダイニング
英司の父「(右足にギプスをして椅子に座りテレビを見ていて)おお、どうした突然」
英司「なんそれ、怪我?」
父「ああ、ちょっとな」
英司「骨折?」
父「たいしたことねぇ。卓球の時ひねって」
英司「いつ。言わなかったじゃん電話で」
父「みっともねぇし。なんだそれ」
英司「梨。うちの方で安くて。好きでしょ父さん(邪魔にならない場所にダンボールを置く)」
父「いくら」
英司「いいじゃない。箱で買ったけどやっぱ無理で、全部は」
父「こっちだって売ってるよ梨なんか。いくら」
英司「だからいいじゃない。母さんは?(探す)」
父「卓球の大会。言ったろ」
英司「初耳だよ」
父「急に抜けらんない。こっちもスケジュールあんだ」
英司「いいさ抜けなくて。これ届けに来ただけだし」
父「亭主放っといて楽しんでやがる」
英司「母さん?」
父「ヒマか? おまえは」
英司「うん?」
父「梨届けに実家に。宅配だってあるのに」
英司「ヒマでもないよ」
父「母さん戻る前に帰れ。よいしょ(と立つ)」
英司「なに」
父「うるせーぞまた。休みに行くとこもない、誰も相手いない、いい人いないか、あの大橋のカミさんと組んで」
英司「あぁ」
父「もう懲りたろ(ゆっくり歩く)」
英司「どこ、トイレ?」
父「お茶だよ」
英司「飲みたい? やるよ」
父「俺はもう飲んでる(テーブルを指さす)」
英司「俺に?」
父「どこに何あるかわかんないだろ。涼んでろそっちで」
英司「ありがと(父を見て)どんくらいかかるの、足」
父「なぁに、ギプスは1ヶ月だ。なんでもない(お茶の準備)」
●走る英司の車・車内
英司が運転している。
●渚と睦美のマンション近くの道
軽井沢の帰りに送り届けた場所。渚が日傘をさして待っている。英司の車が来るのに気づく。
●ファミリーレストラン・店内
端の席に英司と渚がいる。スイーツとドリンク。
渚「へぇ、そんなにしゃべるお父さんなんだ」
英司「早口で」
渚「私の父は無口だから、ちょっと想像できない」
英司「今日は特別あせってたのかもしんないけど。母親帰ってくる前にって、僕を帰そうって次から次に」
渚「あぁ――やさしい」
英司「その怪我でヨタヨタで」
渚「心配ね」
英司「妹夫婦が近くに住んでるから、老後の世話ってなっても、僕まで。渚さんに迷惑はかけない」
渚「え?」
英司「店が忙しいって口実にすればいい。だから、結婚のこと、進めましょう。もし気持ちが変わってなければ」
渚「あぁ――」
英司「だますのは胸痛いけど、隠すしかない」
渚「うん、よろしくお願いします(一礼)」
英司「こちらこそ(一礼のあと、苦笑して見まわし)なんか、もっといい場所にすればよかったな」
渚「え?」
英司「一応プロポーズなのに、ここじゃ」
渚「ううん、私が近くのここでって言ったんだし」
英司「気が利かなくて(お辞儀)」
渚「いい。ロマンチックな場所とかにしたら、なんなのってふたりに言われる。睦美と明君に」
英司「ああ、だね」
渚「フフフ」
●明の部屋(夜)
明と英司が弁当を食べ缶ビールを飲んでいて、
明「実家の帰りに?」
英司「ああ、進めることにした」
明「そう――じゃあ、記念日か」
英司「(苦笑し)そんなンじゃないけど」
明「もっといいもん買って来いよ、なら。こんな弁当」
英司「リクエストしたのそっちだろ」
明「俺はいいよ。唐揚げ好きだし。そっちのコロッケって」
英司「食いたかったんだ」
明「もっとステーキとか豚カツとかさ、食えよこういう日は景気づけに」
英司「どんなコメントだよ」
明「エヘヘ」
●渚と睦美のマンション
仕事から帰宅した睦美と渚が夕飯。
睦美「(手がとまっていて)そう――」
渚「(目を伏せ)うん」
睦美「こういう時どう言うの? おめでとう?」
渚「やめてよ(と苦笑し)これから大変。応援して」
睦美「してるじゃない。ずっとしてる」
渚「そうね」
睦美「がんばれ。がんばろ」
渚「ありがと」
●寝室
渚と睦美が裸で抱き合っている。
渚「(攻められ)ダメ、やめて、お願い」
睦美「(しつこくやめない)」
渚「もう許して、ごめん、ああ」
●墓地(午後)
彼岸花。墓参りの人々。そのなかに渚と両親がいる。墓に手を合わせる。
渚の声「(先行して)お盆に帰らなかったし、断れなくて」
●渚と睦美のマンション(夜)
渚「(リビングで電話していて)それで帰ったら母がまたしつこくて。誰もいないわけじゃないってちょっと言ったの」
●英司のアパート
英司「(キッチンで電話に出ていて)そう」
●電話のやりとり・カットバック
渚「詳しくは言ってないけど。ついこの前お見合い断って、すぐは不自然かって」
英司「それでいいんじゃないかな」
渚「でも母はどんな人どんな人って(廊下との境のドアを振り向く。仕事から帰宅した睦美が顔を出す)」
英司「渚さんのいいタイミングで、動きましょう」
英司のアパートでは明が鍋料理をつついている。英司は夕飯を中断して電話に出ている。明は待たされて少しイライラ。
●ショッピングセンターのベンチ(夜)
明が仕事帰りの服装で座っている。スマートフォンを見ている。
睦美がやはり仕事帰りで来る。ふたり連れ立って一方へ。
明の声「少ししばらくだね。元気だった?」
睦美の声「うん、明君は?」
●パスタの店
明と睦美が座っている。
明「それなりに。仕事は忙しい?」
睦美「まぁまぁ。そろそろ転職しようかって」
明「転職? なんで? 忙しすぎ?」
睦美「向いてないかって前から思ってて」
明「そうなの?」
睦美「普通の事務とかだと社員同士のやりとり多いでしょ。それよりは接客の方がいいかって選んできたけど、あそこはワガママなお客さん多いし、上司はグイグイ行けって煽るし」
明「そう」
睦美「ホントは仕事好きじゃない。渚みたいの信じらんなくて。専業主婦でいいって彼女には言われるけど、自分の分ぐらい稼がないとね、いつ嫌われるかわかんないし」
明「前からっていつから?」
睦美「春あたりかな」
明「言わなかったじゃんそんな」
睦美「うん――」
明「軽井沢の時だってそのあとだって、話せたじゃん」
睦美「でも愚痴になるし。しんどい話は聞くのもしんどいでしょ」
明「俺らの仲じゃない」
睦美「――そうか」
明「なに遠慮してんの」
睦美「そうね。もっと腹割れよね(と微笑)」
店員「お待たせしました(と料理を持ってくる)」
ふたりの注文した料理のインサートなどあって、時間経過。
明「(食べつつ)渚さんはどお? 様子。変わんない?」
睦美「(食べつつ)うん――仕事はずっと忙しいけど、家がね、大変そう」
明「あぁ――睦美ちゃんはどうなの」
睦美「どう?」
明「見ててなんか思ったり」
睦美「うーん、明君は?」
明「うん――」
睦美「嫉妬? 寂しい?」
明「モヤモヤはするね。ふたりが結婚してもそんな変わんないっつっても」
睦美「うん」
明「自分らの結婚のために、俺ら会わせて、今はまぁまぁ放置で」
睦美「任せてんじゃない? あとは私ら次第って」
明「――なのかな?」
睦美「どうすんだどうすんだって、ふたりは今までさんざん言われてきたんだろうし。言いたくないんでしょ」
明「うん――」
睦美「私は別に、まだふたりみたいに切羽詰まってないし、いいけど。明君はどうなの? したいの結婚」
明「どうかな」
睦美「ならいいじゃない」
明「英司見てっと大変そうで」
睦美「親に挨拶とか?」
明「式とか」
睦美「挙げたくない人? 明君て」
明「想像したことない」
睦美「ふーん」
明「女の人のためにするもんだろうし」
睦美「人によるよ。私なんて友達いないから、いーいーってタイプ」
明「そっか」
睦美「幸せを披露するってのもどうなの? とか。形だけの結婚ならなお」
明「うんうん」
睦美「ま、面倒は増えるよね。つき合い増えるんだし、当然」
明「うん」
睦美「でも結婚て、大人になるってそういうことなんでしょ。自分のことばっかなのは子供で」
明「うん――」
睦美「もういい加減それやめよう、終わりにしよって、決めたんだと思うよ、ふたりは」
●プレジール・店内
渚がスマートフォンで電話しながら戸締りを見てまわっている。
渚「だから(と不機嫌)」
厨房に渚が入ってきて火の元を確認する。
渚「それはわかるけど」
片づけをしていた丸山悟が不機嫌な渚を見る。
渚「やめてよもう(厨房を出ていく)」
●プレジール・事務室
渚「(入ってきて椅子に座り、デスクに肘をついて額を押さえ)母さんの知ってる人よ(誰だ誰だと聞かれてため息をつき)杉浦さん。3月のお見合いで会った」
●英司のアパート
英司「(洗濯物をたたんでいる途中で電話に出たところで)そう、お母さんに」
●夜道
渚「(マンションへの帰り道を歩いている)詳しく話せない程度のつき合いなら、また縁談探すって言われて」
●電話のやりとり・カットバック
英司「仕方なかったんじゃないかな」
渚「ごめんなさい。母興奮しちゃって、口止めしたけど大橋さんに連絡した方がいいかとか、ちょっとどう動くかわかんない」
英司「いや、気持ちの準備はしてたから、だいじょうぶ。僕も母に伝えます」
●英司の実家・リビング
英司の母の「え?!」という大声にソファーでうたた寝していた父がビクッと目を覚ます。
母「(電話に出ていて)そうなの?!」
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