このシナリオは小説の下書きとして書かれたものです。シナリオ全文はホームページでも公開中です。
●草原
陽が沈みかけている。歩いているサーナ。後ろから音もなく来た若者Aに猟銃を奪われる。すかさず若者Bがサーナを押し倒し両腕をつかんで自由を奪う。
サーナ「いや!」
若者B「おとなしくしろ!(馬乗りになって)叫んでも誰も来ない」
若者A「(離れた場所に銃を置いて戻り)すぐ済むよ(とサーナの耳元で言ったあと暴れる足をつかんで靴を脱がす)」
サーナ「やだ!(暴れる)」
若者B「(サーナの両腕を何度も地面に叩きつける)」
若者A「(サーナのズボンを脱がしにかかる。突然棒で殴られふっ飛ぶ)だぁ!」
若者B「(振り向く)」
テイル「(杖で殴る)」
若者B「うわ(ふっ飛ぶ)」
テイル、無言で容赦なく若者2人を杖で殴り、何度も蹴る。
サーナ「(這って逃げ距離を取る)」
若者Aが隙を見て逃げ、それを追いかけようとテイルが目を離した隙にBも逃げる。転がるように山を下りていく2人。
テイル「(見送って杖を捨てサーナの元に行き)怪我は(としゃがむ)」
サーナ「(テイルに抱きついて泣きだす)あー(と子供のように大声で)」
テイル「(背中をさすり)だいじょうぶ。もうだいじょうぶ」
●山あいの町・遠景
夜の闇の中にわずかな町の明かり。電灯はまだ普及してなく、街灯はガス灯。
サーナの声「汽車行っちゃったよ」
テイルの声「いいんだ」
●山道
ふたりが登っている。テイルがサーナの荷物を右肩にかけ、同じ右手で杖もつく。
サーナ「どうして戻ってきてくれた?」
テイル「あいつらを見かけて」
●テイルの回想・山あいの町・町中
遠くなるサーナの背中。テイル、駅の方に向かいかけ、またサーナを見る。
サーナとすれ違った若者AとBがコソコソ何か話したあと、サーナについていく。
サーナの声「ずっと?」
テイルの声「いや」
テイル、気になるが駅に向かう。
●テイルの回想・駅舎
テイルが切符を買うのに窓口に行きかけ、立ち止まる。振り向く。
テイルの声「でも、気になって」
●テイルの回想・町はずれ
テイルが急いで来ると、田舎道の遠くにサーナの背中。それを尾行する若者AとBが見える。
サーナの声「ありがとう」
●現実・山道
テイル「痛む?」
サーナ「うん(両手をさする)」
テイル「もう少しだ」
サーナ「うん」
●山小屋・表
ラスカス「(ドアをあけて驚き)どうした」
テイル「サーナが怪我して」
ラスカス「怪我? 行きに?」
テイル「いや――」
ラスカス「(サーナに)だいじょうぶか」
サーナ「うん(中へ)」
●山小屋・内
サーナがベッドで横になっている。地面に叩きつけられた両手に包帯代わりの布が巻かれている。アザがはみ出している。
ラスカスの声「そうか。ありがとう」
●山小屋・表
煮炊きの場所でラスカスとテイルが話している。
ラスカス「どこにもクズはいるもんだ(と吐き捨てる)」
テイル「うん」
ラスカス「あの子が目を惹くのもあるだろうが――並より綺麗で、それに自分で気づいてない」
テイル「――」
ラスカス「(真顔で)親馬鹿じゃないぞ? 死んだ妻と瓜二つ、最近ますます似てきた」
テイル「――(うなずく)」
ラスカス「(真顔のまま)今のは少しノロケだ」
テイル「(苦笑)」
ラスカス「あんたは誰かいるのか、相手が」
テイル「――いや」
ラスカス「娘をどう思う?」
テイル「どうって」
ラスカス「嫌いか?」
テイル「――そんなわけない」
ラスカス「好きか?」
テイル「――何を言って」
ラスカス「まぁ子供だからな、まだ」
テイル「――俺にはもったいないよ」
ラスカス「――」
テイル「俺はそんな場合でも――」
ラスカス「(口調を変え)町と往復は疲れたろ。ゆっくりしてくれ。さぁ食おう(と火から鍋を下ろす)」
サランの声「(先行して)あの子が心配」
●ラスカスの回想・山小屋
ベッドにラスカスの妻、サラン。その横にラスカスがいる。椅子に座っている。
サラン「町でよく見られるの、男の人に」
ラスカス「――そうか」
サラン「若くて、綺麗で」
ラスカス「うん――」
サラン「見られるのが普通と思ってるのか、あの子は気にしなくて」
ラスカス「若い頃の君と、似てきたもんな」
サラン「――(苦笑)」
ラスカス「確かに心配だ」
サラン「――ごめんなさい」
ラスカス「ん?」
サラン「ごめんなさい(涙ぐむ)」
ラスカス「なに言ってる。心配なら、元気になるんだ。ずっと見守らないと。元気になろう」
●現実・山小屋・内(深夜)
ラスカスがベッドで目をあいている。
●山々(早朝)
霧の深い未明。
●山小屋・内
ベッドで眠るテイルが冷気を感じて目を覚ます。見まわす。サーナはベッドにいる。ラスカスのベッドが空。テイルが起き上がってさらに見まわすと、外に続くドアが少し開いている。
●山小屋・表
テイルがゆっくり出てくる。昨日の疲労と筋肉痛で素早く動けない。ドアを閉めて見まわし、離れた場所に気づく。霧の奥にラスカスがうずくまっている。
テイル「(駆け寄ろうとするがつまずいたりする)」
ラスカス「(吐血していて物音に気づき、振り向く)」
テイル「どうしたんです(とそばまで来て、地面の血に驚く)」
ラスカス「(手で口元を拭い)だいじょうぶ」
テイル「だいじょうぶって」
ラスカス「吐けばスッキリする」
テイル「――いつから」
ラスカス「娘には内緒だ(立つ)心配する」
テイル「そんなわけいかないでしょ」
ラスカス「去年の秋から時々。娘にはこのまえ、はじめて見られた。詳しくは言ってない」
テイル「なぜ」
ラスカス「病院に行けるわけじゃなし」
テイル「――どうして」
ラスカス「もう長くないんだ(一方に行く)」
テイル「(続く)」
●山小屋・内
ベッドのサーナが目を覚ます。一方を見る。
ラスカスとテイルが朝食を準備していて、
ラスカス「休んでればいい」
テイル「でも」
ラスカス「寝てるのが一番だ」
テイル「はぁ(疲れと筋肉痛の足を引きながら自分のベッドに向かい、サーナに気づいて)おはよう」
ラスカス「(サーナを振り向き)おはよう」
サーナ「(体を半分起こしていて)おはよう」
ラスカス「いいよ寝てろ。父さんやる」
サーナ「でも」
ラスカス「やりたいんだ」
テイル「――(ベッドに座る)」
サーナ「ありがと(父に言ってからテイルに)痛い?」
テイル「ああ(足のふくらはぎを右手で揉む)サーナは?」
サーナ「(両手の掌を開け閉めして)まだちょっと」
ラスカス「俺が一番元気だ。元気なもんが作ればいい(と準備を続ける)」
サーナ「(微笑。テイルを見る)」
テイル「(苦笑)」
●山あいの町・遠景(午後)
男の声「(先行して)その顔はどうした」
●町中・路地
しゃがんでいた若者AとB、ひどいアザのある顔を上げると、警官が2人いる。
警官A「仲よしのおまえら同士で喧嘩じゃないよな。今度は何をした」
若者A「なんもしてねぇよ(立って行こうとするが)」
警官B「(立ちふさがり)なぜ逃げる。署でゆっくり聞こう」
●山小屋・遠景
雨が降っている。
●山小屋・内
暖炉の前に3人が座り、ラスカスが革細工をしている。見ているテイルとサーナ。テイルが質問し、サーナが答える。
●山あいの町・警察署内
テイルの顔写真が印刷された紙を、署員が壁に貼る。証明写真風。印刷は低質でやっとわかる程度。
若者Aの声「こいつだ、俺たちを殴ったの」
取り調べ中の若者AとBが壁を指さし、
若者B「そうだ、こいつだ」
警官A「うん?(席を立って貼紙を読む。若者2人に振り向き)どこにいた」
若者B「昨日町と、それと――(言い淀み目が泳ぐ)」
若者A「女といた。間違いない」
警官A「なぜ殴られた」
若者A「いや――(目をそらす)」
警官A「何をした(若者Bを見る)」
若者B「いや――(目を合わせない)」
警官A「見たのは本当か」
●暖炉の炎
サーナの声「ひどい目に遭ったけど」
●山小屋・内(夜)
サーナとテイルが暖炉の前にいる。
テイル「ん?」
サーナ「(アザの残る手をさすりながら)こうしてるの嬉しい」
テイル「――」
サーナ「ずっと続くといい」
テイル「――」
ラスカス「(トイレから出てきてふたりを見て)ちょっと早かったか(ブツブツ)」
サーナ「なに言ってんの(照れてふくれる。しかし顔をそむけると頬が緩む)」
テイル「――(暖炉を見る)」
●テイルの回想・住宅地
角を曲がるとクエント家が火災。猛火に包まれ近所の人たちが消火しようと慌てている。
テイルが駆け寄るが熱で近づけない。
●現実・山小屋・内
ベッドのテイルが眠れずに天井を見ている。
●山々(翌日・昼前)
猟銃を肩にかけたサーナ、そして杖を持ったテイルが森の中を歩いている。
怪我や疲労でまだ猟のつもりはなく、銃は護身用。楽しげな笑顔のサーナ。テイルも笑顔を見せる。春の花や鳥や虫たち。
サーナが町の方を見て顔色を変える。
サーナ「テイル(と呼んで指さす)」
テイル「(その方を見る)」
サーナ「おとといのあいつら」
テイル「え?(とサーナを見て、もう一度下方を見る。目を凝らすがよく見えない)」
山道を若者AとB、警官3人、海軍の軍服を着た男2人が来る。
サーナの声「ほかに警官3人と、あと2人、違う服を着た男たち。こっちに来る」
テイル「こっちに?」
サーナ「ほかに何もないもの。私たちの家以外」
テイル「――戻ろう(下方を見つつ行く)」
サーナ「(続く)」
●山小屋・内
ラスカス「なぜこの場所が(ベッドから立つ)」
テイル「(サーナと共に戻ってきていて)つけられたのかもしれない」
●テイルの空想・夜の山道
テイルがサーナの荷物を右肩に持ち、杖をついて山道を登る。
その背後。距離を取って若者AとBが尾行する。テイルに殴られたアザが顔にある。
●現実・山小屋・内
サーナ「それでなんで警官が? 悪いことしたのあいつらなのに」
テイル「いや、たぶん別の件だ。僕を追ってきた」
サーナ「――」
テイル「山を2つ越えると、別の町があると言ったね?(一方を指さす)」
サーナ「(別の方を指さし)どうするの」
テイル「僕は行く。どこに行ったかは知らないと、聞かれたらそう言って」
サーナ「無理よその体で、山越えなんて」
テイル「(ラスカスに)迷惑かけます。誰かは知らないと、それで通せばきっと、だいじょうぶ。じゃあ(ドアへ)」
サーナ「待って」
ラスカス「一緒に行きなさい」
サーナ「え?」
テイル「(立ち止まる)」
ラスカス「父さんひとりでなんとか誤魔化す。彼と一緒に――戻って来なくていい」
サーナ「――そんな」
テイル「(振り向く)」
ラスカス「ずっと言おうと思ってた。好きなように、自分のしたいようにしないと。もう大人だ。父さんが甘えてた」
サーナ「だって(病気なのに)」
ラスカス「いま別れたら二度と会えないよ(と言い聞かせてからテイルを見て)頼む」
サーナ「(テイルを見る)」
テイル「――」
ラスカス「(サーナに)さぁ早く。準備を」
●山道
崖に面した狭い道。進む警察たち一行。見上げるが山小屋はまだ見えない。
●山小屋・表
ラスカス「持っていけ(と猟銃を渡す)」
テイル「(ラスカスからもらった防寒着を持っていて銃を受け取るが)でも、必要じゃ」
ラスカス「もういらん。そっちの方が必要だ。なにしてる(と小屋を振り向き、中へ)」
●山小屋・内
サーナが荷物と上着を手に立っている。
ラスカス「急げ。どうした」
サーナ「行けるわけない」
ラスカス「(近づいて静かに)行かないと後悔する」
サーナ「行ったって(後悔する)」
ラスカス「父さんはだいじょうぶ(サーナを抱き寄せ)今まで幸せだった。十分だ。母さんとサーナと、恵まれ過ぎだ」
サーナ「なんでそんなこと(言うの? と泣く)」
ラスカス「サーナにはいっぱい我慢させた」
サーナ「(首を振る)」
ラスカス「行こう。ほら」
●山小屋・表
ラスカス「(サーナを促しながら来て)頼むよ」
テイル「(うなずく)」
ラスカス「(サーナに)気をつけて」
サーナ「戻るから。すぐ」
ラスカス「(うなずき)早く」
テイル「(一礼して山へ)」
サーナ「(ついて行く)」
ラスカス「(見送る)」
サーナが立ち止まり、テイルが気づいて振り向く。
サーナが振り向くと、ラスカスが手をあげる。
サーナとテイル、再び山へ。
ラスカスは決心したように山小屋内へ。
●墓地
ラスカスが来る。墓標の前に立つ。
●ラスカスの回想・山小屋
サラン「(ベッドにいて)ごめんなさい(涙ぐむ)」
●現実・墓地
ラスカスが墓前にひざまずく。
●山中
サーナが先導し道なき道を行く。森の隙間から山小屋が見えると立ち止まってしまう。山小屋に動きはまだない。
●山小屋の近く
警官たち一行が来る。
●墓地
ラスカスが墓標を見ている。男の声が遠くから「誰かいないか」
ラスカス、声の方を見る。立つ。
●山中
登るサーナとテイル。山小屋はもう見えない。
●山小屋・表
ラスカスの声「なんだね」
たむろしていた一行が振り向く。ラスカスが墓地の方から来る。
警官C「(山小屋から出てきて)ここの者か」
ラスカス「勝手に入ってなんだ?」
警官C「他の者は。家族は」
ラスカス「いない。ひとりだ」
警官D「嘘つけ。娘がいるだろ。若い男も来たはずだ」
ラスカス「なんのこと」
警官C「(若者2人を見る)」
若者AとB「(ラスカスを見るがラスカスに睨まれ目をそらす)」
警官E「名前は」
ラスカス「(若者2人を睨んでいる)」
警官E「名前を言え」
●山中
先導するサーナが足をとめ、後ろのテイルを制する。ふたりの視線の先に大きな熊。遠くでふたりに気づき、足をとめる。
サーナ、ゆっくり銃を構えて狙う。
睨み合う熊とサーナ。熊が一方に歩きだす。サーナはホッとして銃を下ろし、テイルにうなずいて別方向へ。
●山小屋・内
警官E「なぜ名前を言わん」
ラスカス「(家探しをされた室内を見まわし)こんな風にされて言うと?」
警官C「命令だ。言え」
ラスカス「――」
警官D「ベッドが3つあっておまえひとりのはずない」
ラスカス「家族のだ。すいぶん前に死んだ」
警官E「革細工を作って暮らしてるのか?」
ラスカス「食うのはそこの畑と、山の物と」
警官E「趣味で作ってるわけじゃないだろ。町に売りに来たのを見たことないな」
ラスカス「――」
警官C「銃は。銃の許可証は」
ラスカス「銃なんてない」
警官C「嘘つくな」
ラスカス「探せばいい」
警官D「こんな山奥にいてないわけないだろ。狩りはしなくても護身に要るはずだ」
ラスカス「――」
警官E「若い娘と男が来たのは、わかってる。かくまったのか? 逃がしたのか?」
ラスカス「――」
警官E「どこに向かった」
●山中
険しい上り坂をサーナとテイルが行く。助け合いながら。
●山道
前出の崖に面した狭い道。ラスカスが山あいの町に連行されている。先頭に警官2人。次にラスカス。その後ろに警官1人と軍人2人。最後に若者2人。
ラスカスの後ろの警官が「グズグズするな。日が暮れる」と叱る。
ラスカスはその夕空を見上げ、目に焼きつけるよう周囲を見まわし、決心して逃げ出す。先頭2人を突き飛ばし山道をくだる。
「わあ!」と警官2人がよろけて崖を落ちそうになり、もう1人の警官が銃を抜いて「待て! 止まれ! 撃つぞ!」と構える。
軍人が「撃つな!」と叫ぶが銃声。
●山中
サーナが銃声のこだまに足をとめる。振り向く。
山々の眺望。響くこだま。
テイルも見ている。心配。サーナは心配をねじ伏せるように目を伏せ、再び歩きだす。
●残照の中の山々
●山中
雨風をしのげる洞窟にサーナとテイル。焚き火の前に座り、持ってきた芋などを焼いている。
サーナは父が心配で泣いてしまう。テイルはかける言葉が見つからない。F.O.
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