シナリオ【遥か彼方へ】 2 | Novel & Scenario (小説と脚本)

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このシナリオは小説の下書きとして書かれたものです。シナリオ全文はホームページでも公開中です。


 

●山々(朝)

 

朝陽が昇る。

 

 

 

 

●山小屋・内

 

サーナがテイルの傷を診ている。包帯代わりの布を替える。今までより口数が少ない。

 

ラスカスがベッドにいる。まだ体調が悪い。サーナとテイルのふたりを見る。

 

 

 

 

●畑

 

サーナが耕している。一方に気づく。

 

テイルが杖をついて山の方に行く。

 

サーナ、畑作業に戻る。

 

ラスカスの声「(先行して)撃たれてるな」

 

 

 

 

●サーナの記憶・山小屋・内

 

テイルが来た夜の回想。ラスカスとサーナが治療している。テイルはベッドで眠っている。左肩の銃創からラスカスが弾を抜き、

 

ラスカス「追われて逃げてるのか」

 

サーナ「何があったんだろう」

 

ラスカス「だいたいこんな山奥におかしい。厄介者かもしれん」

 

 

 

 

●山小屋・内

 

ラスカスがベッドで天井を見ている。

 

 

 

 

●山中

 

日当たりがよくそこだけ雪が解けた岩場に、テイルが来てしゃがむ。ひと休み。山々のあいだから町が見える。小さな町。かなり遠い。

 

そのテイルを離れた場所の樹の陰から、サーナが見ている。別方向に気づく。

 

冬眠から覚めたらしい熊の親子が森の中にいる。サーナにもテイルにも気づかず、しかしテイルの方に行く。

 

テイル、町を見て物思いにふけっていると銃声。驚いて見まわし、一方の物音で走り去る熊の親子に気づく。

 

サーナの声「こんなとこまで危ない」

 

テイル「(声の方を見る)」

 

サーナ「(上空に発砲した猟銃を持って森から来る)このまえの狼だっているかもしれない」

 

テイル「ああ、ありがとう(立つ)」

 

サーナ「あれが町(テイルと並んで見下ろす)遠いでしょ」

 

テイル「うん」

 

サーナ「だいぶ鍛えないと、下りる途中でバテちゃうんじゃないかな」

 

テイル「――」

 

サーナ「テイルの暮らす町はどんな? 汽車に乗ったことある?」

 

テイル「ああ」

 

サーナ「へぇ」

 

テイル「毎日乗ってた」

 

サーナ「そうなんだ――どんな風? 揺れる?」

 

テイル「場所によっては」

 

サーナ「へぇ」

 

テイル「乗りたい?」

 

サーナ「一度はね」

 

テイル「――そう」

 

サーナ「遠いところに――テイルの町は遠い?」

 

テイル「ああ」

 

サーナ「便利で、おいしいものも、楽しいこともいっぱい?」

 

テイル「どうかな――嫌なことも、悪いことも、我慢することも多い」

 

サーナ「ふーん」

 

テイル「ここの方がずっと――大変でも、穏やかに暮らせそうだ」

 

サーナ「でも行くんでしょ?(森に戻る)」

 

テイル「――(ついていく)」

 

 

 

 

●森の中を歩くふたり

 

小川を飛び越えたり、滝のある場所をサーナが案内したりのスケッチに声がのる。

 

テイルの声「山あいの町には、たまに?」

 

サーナの声「うん。狩りで獲った毛皮を持っていって、売って、そのお金でナメした革を仕入れて。それで革細工を作って、また売りに行って、必要な物を買って」

 

テイルの声「そう」

 

サーナの声「4年前までは母さんと行ってたけど、母さん死んでからは、私ひとりで。父さんは行かない」

 

テイルの声「行かない?」

 

サーナの声「行きたくないみたいで、ずっと山にいる」

 

テイルの声「そう」

 

サーナの声「私もたぶん――ずっとここに、父さんと一緒に」

 

テイルが歩きつつサーナの背中を見る。

 

サーナ「(振り向いて笑顔で)こっちに綺麗な場所あるの。来て(と行く)」

 

 

 

 

●森の中の泉

 

澄んだ地下水がこんこんと湧いている。

 

サーナ「(来て)どお?」

 

テイル「ああ、綺麗だ」

 

サーナ「でしょ? たまにひとりで来るの」

 

テイル「そう」

 

サーナ「テイルの町にもこんなとこある?」

 

テイル「いや、ないよ。ない」

 

サーナ「へぇ」

 

テイル「いい場所だ」

 

サーナ「うん(座る)」

 

泉に映る陽光。野花のまわりを飛んでいる蝶。

 

サーナの声「忘れない?」

 

座っているふたり。泉を見ている。

 

テイル「ああ、覚えておく」

 

サーナ「私のことも?」

 

テイル「――命の恩人だからね、忘れようがない」

 

サーナ「ヘヘヘ」

 

テイル「今日も助けてもらった」

 

サーナ「(笑顔を消し)嫌な子ね」

 

テイル「ん?」

 

サーナ「(自己嫌悪で)恩に着せて、嫌な子。最近どんどんなる」

 

テイル「――僕は、悪い人間でね」

 

サーナ「え」

 

テイル「悪いことをした。これからもする」

 

サーナ「――何を? どんな?」

 

テイル「言わずに良く見せて、そんなズルイ人間、実は」

 

サーナ「――まさか」

 

テイル「忘れてほしい。いや――忘れるよ」

 

サーナ「――」

 

テイル「サーナには、幸せになってほしい」

 

サーナ「なんでそんなこと言うの?」

 

テイル「(苦笑し)お節介だったね」

 

サーナ「忘れるわけないじゃない(怒った顔で立つ。森へ)」

 

テイル「――(立って続く)」

 

 

 

 

●山小屋・表(夜)

 

窓に明かり。

 

 

 

 

●山小屋・内

 

3人の最後の夕食。無言。

 

 

 

 

●暖炉

 

火が消えそうに小さくなっている。

 

 

 

 

●山小屋・内

 

3人がそれぞれベッドにいる。

 

眠るラスカス。眠れずにサーナを見るテイル。背を向けるサーナも眠れず、最後の夜がただ過ぎるのに涙を流す。

 

 

 

 

●山々(朝)

 

朝陽が昇る。

 

ラスカスの声「何か必要なものはないか」

 

 

 

 

●山小屋・表(昼前)

 

テイル「(杖をついていて)ええ、これだけあれば」

 

ラスカス「(壁に手をついていて)そう(うなずき)気をつけて」

 

テイル「はい」

 

ラスカス「元気で」

 

テイル「――あなたも」

 

ラスカス「そうだな、それが一番だ」

 

テイル「(微笑)」

 

ラスカス「(小屋の中を向いて)遅いな。どうしたサーナ(と呼ぶ)なにしてる」

 

サーナ「(猟銃と2つの袋を肩から下げてきて)いろいろ準備あるでしょ」

 

ラスカス「ああ、頼むよ」

 

サーナ「いってきます(と行く)」

 

テイル「(ラスカスに)じゃあ」

 

ラスカス「ああ」

 

テイル「(一礼してサーナのあとに続く)」

 

ラスカス「(見送る)」

 

 

 

 

●山道

 

山を下りるふたり。サーナが先を歩き、テイルが続く。

 

テイル「1つ持とうか」

 

サーナ「いい」

 

テイル「重そうだ」

 

サーナ「持てっこないでしょ。杖ついて、まだ怪我は治ってないのに(不機嫌に言う)」

 

テイル「うん――」

 

サーナ「(立ち止まる)」

 

テイル「ん?(背中を見る)」

 

サーナ「(口調を改め)ごめんなさい、お別れなのに」

 

テイル「いいんだ」

 

サーナ「(また歩きだし)ゆっくり行こう」

 

テイル「うん」

 

サーナ「テイルはどんな悪いことした?」

 

テイル「うん――」

 

サーナ「お別れなんだし、いいじゃない。誰にも言わない。秘密にする」

 

テイル「――」

 

サーナ「そんな簡単じゃないか。そうね――父さんも何か、悪いことを昔したのかもしれない」

 

テイル「――そうなの?」

 

サーナ「あんな風に人を避けるのは――母さん死んだ時もね、体が弱って、山を下りられなくなって、お医者を呼ぼうって私は言ったの」

 

 

 

 

●サーナの記憶・山小屋内

 

14歳のサーナがラスカスと言い合っている。

 

サーナの声「父さんは『無理だ』って。『ここまで来てもらえない』って。行こうともしないから、『私が行く』って。『父さん行かないなら私が呼びに行く』」

 

 

 

 

●現実・山道

 

サーナ「それで父さんは向かったけど――お医者は来なかった。ほかの診察とぶつかって、『遠いし来てもらえなかった』って」

 

 

 

 

●サーナの記憶・山小屋内

 

ラスカスが目を伏せて首を振る。サーナが悔し涙でベッド横の椅子に座る。サーナの母でラスカスの妻、サラン(35)がベッドで横になったまま娘の手をさすり、微笑で慰める。

 

サラン「いいのよ。ふたりがそばにいてくれればいい」

 

 

 

 

●現実・山道

 

サーナ「母さんはそのまま死んで――悔しかった。5日後町に行った時」

 

 

 

 

●サーナの記憶・山あいの町

 

大きな荷物を持った14歳のサーナが立ち止まって一方を睨んでいる。白衣の老医師が往診帰りで歩いている。看護師がついている。老医師がサーナに気づき、近づいて「何か困ってるかな?」と聞く。

 

サーナ「母さんは死にました。なんで来てくれなかったんですか」

 

老医師「死んだ? いつ」

 

サーナ「5日前。父さん呼びに行ったのに――いくら遠いからって、断わるなんて」

 

老医師「はて? 5日前に誰か来たかな?(看護師に聞く)」

 

看護師「いいえ、最近そんな急ぎのは」

 

サーナ「ウソ!」

 

老医師「この町に医者はワシだけだが(考え込む。嘘をついてるようには見えない)」

 

サーナ「――」

 

 

 

 

●現実・山道

 

テイル「――」

 

サーナ「父さんはたぶん、行かなかったんだと思う。行ったふりだけ」

 

 

 

 

●山小屋・内

 

ラスカスがベッドにいて虚空を見つめる。

 

テイルの声「それお父さんに聞いた?」

 

 

 

 

●山道

 

サーナ「(首を振る)」

 

テイル「なら、違うかもしれない。どこかに誤解があるのかも」

 

サーナ「(うなずく)答えを聞くのが怖くて。もしそうだったら許せないって、なりそうで」

 

テイル「――」

 

サーナ「もう父さんしかいないのに」

 

テイル「――うん」

 

サーナ「ずっと一緒にいるのに、聞かない、聞けない。おかしいよね(自嘲)」

 

テイル「――いや」

 

サーナ「歩くの速い? 平気?」

 

テイル「ああ」

 

サーナ「もうちょっとしたら休もう」

 

テイル「うん」

 

 

 

 

●小川

 

サーナとテイルが渡っている。

 

テイルの声「友だち作るといいな」

 

 

 

 

●草原

 

森のあいだにある隙間のような場所。ふたりが休んでいる。

 

サーナ「友だち?」

 

テイル「町に知り合いは? 全然?」

 

サーナ「いつも行くお店の人は、知ってるけど。顔だけ。名前は(首を振る)」

 

テイル「話したりは?」

 

サーナ「あんまり」

 

テイル「(うなずく)話すといい。なんでも話せる人が、見つかると」

 

サーナ「それが友だち?」

 

テイル「心が軽くなる」

 

サーナ「テイルは友だちいるんだ?(寂しい)たくさん?」

 

テイル「いや――そんないないけど」

 

サーナ「そお?」

 

テイル「本当に信頼できる人は」

 

 

 

 

●フラッシュインサート・クエント

 

 

 

 

●草原

 

テイル「でも、ひとりでもいい。いれば強くなれる」

 

サーナ「いるよ、じゃあ友だち」

 

テイル「そお?」

 

サーナ「テイル。信頼できる」

 

テイル「僕は――」

 

サーナ「悪い人なんかじゃ絶対ない」

 

テイル「――知らないだけだ」

 

サーナ「でも言ってくれないんでしょ? 相手にならない? 私なんか」

 

テイル「――」

 

サーナ「それとも、私を思って? だから言わない?」

 

テイル「――」

 

サーナ「考えすぎね。バカみたい(また自嘲して立つ)どんどん嫌われちゃう(下山を再開)」

 

テイル「――(立ち上がって続く)」

 

 

 

 

●町に近い森

 

サーナが樹の陰に猟銃を隠し、テイルの待っている山道に戻る。テイルが杖を捨てる。その映像に声がのる。

 

サーナの声「いつもここに隠すの。町には持ってけないから」

 

テイルの声「そう」

 

サーナの声「ここまで来れば熊も狼も出ないし」

 

 

 

 

●山あいの町・スケッチ

 

周辺に農地があって、その田舎道をサーナとテイルが来る。

 

サーナの声「汽車は夕方だから、買い物つき合って。いろいろ買わないと」

 

テイルの声「ああ」

 

町は小さいが中心に駅がある。街路は石畳。人通りはそれほどない。

 

ある店でサーナが毛皮と革細工を渡している。店主が金を渡す。それを見ているテイル。店主はテイルが気になってチラチラ見る。サーナが革細工の元になるナメした革を選ぶ。

 

次の店でサーナがマッチ、洗濯石鹸、トイレ用の紙、猟銃の弾などを買う。テイルは新聞が売ってる場所で手に取りめくって目を走らせる。自分の事件が記事になってないことを確認。買い物を終えたサーナが「お待たせ」と来る。「ああ」とテイルがうなずき、サーナと共に店を出ていく。

 

そのふたりを物陰から窺う町の若者2人。何かを話す。

 

サーナの声「テイルは字が読める?」

 

テイルの声「ああ」

 

サーナの声「へぇ、すごい。当然か。私は数字だけ。買い物できるように」

 

テイルの声「そう」

 

 

 

 

●食料品店

 

サーナが店内をまわって食材をあれこれ指さしテイルに質問している。「これおいしい?」「どんな味?」「テイルは好き?」「どんな料理にするの?」

 

「買ってあげようか」とテイルが言うと、サーナは苦笑し「いい」と首を振る。

 

テイルの声「お父さんにはああ言われたけど、何かお礼したいな。欲しい物あれば」

 

サーナの声「うん――」

 

テイルの声「お父さんに見つかると、なんか言われるかな」

 

サーナの声「いいの。悪い」

 

テイルの声「悪くはないよ」

 

 

 

 

●町中

 

階段にふたりが座っている。

 

サーナ「でも、いいの。夢がかなったし」

 

テイル「夢?」

 

サーナ「男の人と買い物したら、どんなかって」

 

テイル「――」

 

サーナ「楽しかった。いっぱい歩かせてごめんね。疲れたでしょ」

 

テイル「いや」

 

サーナ「じゃあ、もう行く(立つ)遅くなるから」

 

テイル「ああ(立つ)」

 

サーナ「気をつけて。元気で(笑顔)」

 

テイル「ありがとう。サーナも」

 

サーナ「(うなずく。急に笑顔が歪んでうつむき)さよなら(背を向けて歩きだす)」

 

テイル「さよなら」

 

サーナ「(振り向かずに行く)」

 

テイル「(見送る)」

 

遠くなるサーナの背中。テイル、駅の方に向かいかけ、またサーナを見る。

 

 

 

 

●町はずれの田舎道

 

サーナがうつむいて歩いてくる。陽が傾き影が長い。

 

そのあとを尾行する町の若者AとB。サーナは気づかない。

 

 

 

 

●山道(夕方)

 

サーナが隠した猟銃を持って森から出てくる。山あいの町を見下ろせる場所で、サーナが町を見る。

 

汽車が着いたところで煙が見える。汽笛。

 

サーナの目から涙が落ちる。また山道を登りだす。

 

背を向けた下方、樹の陰から、町の若者AとBが現われる。サーナを追っていく。

 

 

 

 


このシナリオは小説の下書きとして書かれたものです。シナリオ全文はホームページでも公開中です。


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