浮島は住居の小屋を中心に桟橋を十字と円状に組み、中心から放射状に養殖網を張っていた。船着場の筏は北側にあって円の内側には作業用の小舟、外側にはジマーの帆船を泊める。その筏の斜め先に2艘の船が見えた。
「隠れよう」とフィリーはマナンを見上げ、
「どこに。隠れても見つかるし荒らされるだけ」とマナンは首を振る。
「収穫ないよ。父さんが今朝持ってって」とフィリーは怯えた顔で、
「母さんが話す」とマナンはゆっくりうなずく。フィリーを怖がらせないために落ちついた声を出す。
しかし海賊が着くまでのあいだ、仕事で使う携帯ナイフを服の中に忍ばせた。夫のジマーが不在の時に海賊が来るのははじめて。話で済むかはわからない。何をされるか。フィリーを守るためなら刺し違える覚悟だった。
海賊たちはいつもの5人で筏に船を付けると我が物顔で来る。
「船はどうした。親父は」と言ったのは一番大きい男で、
「いません」とマナンは短く答える。
「どこ行った」
「南の町に」
「まさか収穫を? 持ってったのか?」
「残念でした」
「全部か」と男は浮島を見まわす。「なぜ残しておかない」とマナンの胸倉をつかむ。
「さわらないで」とマナンは抵抗する。「約束した覚えはありません」
「さわるな」とフィリーがマナンの後ろから飛び出して男の腕をつかむ。
「邪魔だ」と別の男がフィリーを突き飛ばし、
「あ」とフィリーは声を上げて桟橋に倒れた。
「子供にやめて」とマナンがさらに抵抗すると、
「生意気言うな」と大男は平手打ちする。
「あ」とマナンはフィリーと逆側に倒れた。
「この!」とフィリーが立って向かうと別の男が阻んで羽交い締めにする。
「ガキでも女だろ」と大男は倒れたマナンを押さえ込み覆いかぶさって顔を近づけた。「売り飛ばしてもいいんだぞ。それとも味見してやるか。あんたが先でもいい。どうする」
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