第三章 | 蔵人的駄文小説劇場

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The Beat NatureのMC担当・蔵人 THE S.T.R.F.S.が織り成す小説劇場。過度な期待はしないで下さい。

楽しみにしてくださっている方は少ないと思いますが、久し振りの更新です。


「夢と現実の世界」の第三章です。







そうして、シズカやユイさんと他愛のない会話を続けていた。その一瞬がどうにも幸せに感じられたのは僕だけだろうか?

夜になり、僕とシズカは同じ部屋だと言うことに気付いた。姉弟なのだから当たり前である。

その後もシズカと一緒に下らない会話を2人でずっと話していて、「もうこのまま朝が来なくてもいい」そんな感覚を覚えた。それ位、シズカと一緒にいて落ち着くのだ。

その後も、シズカは僕の言う下らない冗談に沢山笑ってくれた。

その時シズカは「やっぱり…響は優しいのね。こんな私を笑わせようとしてくれるだなんて、私は本当にいい弟ね」

「ついでに言うと」シズカは続けた。「あなたが弟じゃなければ恋愛対象にもなっていたかもしれないし、響は自分に自信がなさ過ぎるのが欠点なんだけどね。少なからず、もうちょっとポジティブに考えたら?」

シズカの言っていることの意味が分からなかった。しかし別に悪意のあるような発言ではなかった。

シズカはそれに気付いたようで「何てね。要するに自分で自分に信じてあげなさいと言う話!今の響は自分に自信がなさ過ぎるのよ!」

何だ、そう言う意味か…。でも、昔から僕の記憶では自分に自信を持てたことは1度たりともなかった。

シズカはそれに気付いたように微笑む。

「父親から私が乱暴を受けていた時に、人が変わったように助けてくれたのは、さっきも言ったけれど響自身なのよ?だから、もっと自分に自信を持って欲しいなぁって」

そうは言われても、今では自分で自分が何を考えているか分からない。それをシズカは見透かした様に。

「最初はそうなのよね。私も、この病院に運ばれてきた来た時は自分が間違っているから乱暴を受けていたんだ思い込んでいたし、特に響達同様に夢を見ていたわけではなかったから、余計にね」

素朴な疑問が頭に浮かんだ。

「姉さんは何故夢を見なかったの?」

「私が夢を見てしまっては響はどうなる?って思ったからかな?」

どこまでも嘘がない声と瞳である。

僕はシズカのことを信じることにした。

その後は色々なことを話したお陰で眠れなかったけれど…。

それでも、充実した時間に感じた。シズカも一時はどうなるかと思ったけれども、元に…僕が知るシズカに戻ってくれたような気がした。

シズカのゆっくりしたリラックスをしたような寝顔を見た瞬間、「これが夢じゃありませんように」とただただ願った。

その時、部屋を見回してみた。

知らない天井…

知らないベッド…

知らない箪笥…

そんな僕の知らない物がそこかしこに存在した。

「本当に、夢じゃないよね…?」

自然とそう呟き、突如としての不安に駆られた。

翌朝…。

目が覚めた昨日から今日にかけてあまり眠れなかったけれど、学校と呼ばれる場所に行くことになった。

やはり寝坊気味でユイさんにたたき起こされたけれど、それもいつもと同じ日常だった。

2人で制服に着替えている時、シズカも僕もお互い後ろを向いていたけれど、自然とシズカが除いてきたりもした。

「いつの間にか大人になったのねぇ~響~」などと言ってからかってきたが僕は少し動揺しながらも「もう。からかわないでよ!」と反論するのが精一杯だった。別に上半身の裸を見られて困ることはないけれど、さすがに、パンツまで見られたりしたら少し恥ずかしいかな…。

そこで着替え終わった後ユイさんが迎えに来て、学校に案内してくれた。

周囲を見渡すと、病室の数は少ない。本当にこの病棟に学校なるところはあるのだろうか?

そう不安になっていると、それはまるで教室のような佇まいで待っていた。

これがどうやら学校のようだ。

中に入ると、いつもの友達、名前の割りに太い体型をした細井、そして僕と同じくらい無口の佐々木が座っていた。

教室に入るなり、細井と佐々木は「音成くん、もう体調の方は大丈夫なの?」と心配してくれた。

この2人は心置きなく何でも話せる親友である。

僕は笑顔で答えた。

「うん。心配してくれてありがとう。もう大丈夫だから、安心して?別に伝染病とかじゃないみたいだから」

僕は嘘をついた。本当は夢から覚めただけなのに。

そして、この2人も、いずれ夢から覚めるかも知れない。その時は僕達がこの2人を最悪の事態から救わないと…。

「ところで…」普段無口に近い細井が口を開いた。

「昨日、変な夢を見たんだ。知らない部屋で寝ていて、そこでドアから出ようとしていたら先生が入ってきて、再び眠らされるって言う夢なんだけど…。それがどうしても現実味が溢れていて…。そう言う夢って見たことあるかな?」

僕は「ユイさんがやったことだろう」と思いつつ、「いや、ないよ。でも、リアルな夢ってたまに見るじゃない?多分、それだと思うよ?」

細井は納得したようなそうではないような顔をして「うん…夢だよね。きっと…」と答えた。

佐々木は不思議な顔をして聞いていた。

そして、ユイさんが入ってきて、そこで、突然僕は色々な記憶が蘇って来てその情報量に圧倒されて倒れた。

そこで意識は消失する。