第四章 | 蔵人的駄文小説劇場

蔵人的駄文小説劇場

The Beat NatureのMC担当・蔵人 THE S.T.R.F.S.が織り成す小説劇場。過度な期待はしないで下さい。

連続投稿失礼!


意識が戻ると再び知らない天井が目の前にあった。

その部屋はまるで病院の診察室のようで学校の保健室のようでもあったが、何故、僕はここにいるのだろうか?

その時声が聞こえてきた。

「響!」

シズカとユイさんの声だった。僕は段々思い出してきた。

何故倒れたのか?何があったのか?

「姉さん…ユイさん…すいませんでした…ご心配をおかけして…」

僕は先に謝り、こう続けた。

「実は、記憶が全部戻ってきたんです。子供の頃の記憶、それから、ここに来てからの記憶と…」

シズカとユイさんは驚いた顔をして、ユイさんがこう答えた。

「それはね…響…トラウマが脳内の情報をパンクさせてしまったからなの」

「脳内の情報を…ですか?」

「正確に言うと、脳内の情報の許容キャパシティをね。夢から覚めたと思ったけれど、まだ覚めきってなかったんだわ…」

どうやら、僕はそれで倒れたらしい。情けない。

「分かりました。急いで教室に戻りましょう」

ユイさんは首を横に振った。

「いいのよ。今日はもう自分の部屋に戻ってゆっくり休みなさい。そうしないとまた今度はいつ脳内のキャパシティがオーバーするか分からないもの。だから、今日明日は学校を休んでいいわ」

僕は正直その方が怪しまれるんじゃないか?と不安にもなったが、それでまた倒れたら…と言うことを考えたら休むことを選択した。

「シズカ!お願い、響を自分達の部屋まで連れて行って」

シズカは頷きながら「分かったわ。響、行きましょう」

そうしてシズカに連れられて自分の病室まで戻った。

病室に戻った時、シズカはこう聞いてきた。

「ねぇ、響。子供の頃の記憶と、ここに来てからの記憶ってどんな物?」

僕は母が亡くなってから父にされてきたこと、シズカが父にされて来て守ってきたこと、そしてここでユイさんから夢を見させられていたことなどをざっと簡単に話した。

「そう…響、それで脳内の情報量のキャパシティはパンクしてしまったのね。でも、響の言っていることに間違いはないわ。それは確かに私も経験したことだから」

シズカは泣きそうな顔でそう答えた。

僕はあの少年の言葉を思い出して元気に返答した。

「大丈夫だよ、姉さん。いずれはいつかは思い出すものだったのかも知れないし、それがただ今のタイミングで思い出したって言うだけの話だからさ。だって、病院から退院してそれで急に普通の学校に行っている時にこれが現れたら大変なことになってたかもしれない。それは考えると、今のタイミングでよかったんだよ」

僕はポジティブな発言をしたつもりだった。すると、シズカは泣きそうな顔から少し微笑んで「そうね…。今で良かったのかもしれないわね」とそう答えてくれた。正直、嬉しかった。

それから、2人で、父と母のこと、この病院に来てからのことなどを話し合った。

そして気が付けば夕方になり、夕食の時間帯になった。

そして、その日気が付いたことだけれども、病院の食事なのに、やたらと豪華だった。

何故昨日のうちに気付かなかったんだろう?不思議になる自分がいる。

メニューはご飯、味噌汁、焼き鮭、玉子焼き、ポテトサラダ、蜜柑、お茶と言った内容である。

そして、シズカと2人で食べ始めて、シズカは僕が玉子焼きを食べたのを見て「ねぇ、美味しい?どうかな??」と笑顔で聞いてきた。

正直、美味しい。こんなに美味しい玉子焼きを今まで食べたことがない位美味しい。

「美味しいよ!」

シズカはその答えを聞いて「本当に!?」と聴き返した後に笑顔になった。

「実はね、その玉子焼き…私が作ったの!響に喜んで欲しくてね?無理を言って作らせて貰ったの!」

僕は何と言ういい姉を持ったのだろうか。ここまでしてくれる姉も中々いない。いや、シズカくらいじゃないだろうか?

そして、僕はそのシズカの姿を見て更に喜んだ。

僕が喜んでいることを喜んでくれている人がいる。こんなに恵まれた環境でいる自分は何故ネガティブになんてなっていたんだろう?恵まれているじゃないか。少なからず、僕はもう一人じゃない。

そう、実感が出来て単純ながら嬉しくなった。

そして、それを分かったかのごとくシズカも笑顔になって嬉しそうにしてくれた。

この日常が…例え退院したとしてもずっと続けばいいのに…そう感じた瞬間だった。

平穏な日常。これこそが幸せなんじゃないだろうか?

そして、子供時代の埋め合わせじゃないけれども、シズカとはいっぱい子供に戻った頃のように遊びたかった。

まだまだシズカも精神面で言えば不安定であるはずだ。だから、シズカが倒れそうになったら、今度は僕が支える番だ。

そう、考えていたら電話が鳴った。

ケータイ電話…病院でも所持していていいものだったのか。

着信相手は細井からだった。

僕は電話に出た。

「もしもし?」

「あぁ、音成くん…?」

「うん。どうしたの?」

「いや、今日急に倒れたから、大丈夫かな?と思って。何だか普通じゃない倒れ方だったからさ」

「そうだね…心配をかけて申し訳ないね。明日もユイさんから休むように言われたよ」

「その方がいいだろうね…取り合えず、何かあったらユイさんや音成くんにはお姉さんもいるんだから、相談したほうがいいよ?余計なお世話かもしれないけれど…」

細井は遠慮がちに喋っていた。細井は気を使い過ぎる。僕と似ていると言われたこともあったらしい。

そんな細井だから、仲良くなれたのかも知れない。

「大丈夫だよ。余計なお世話なんかじゃないから。うん。ありがとう」

「うん。じゃぁ、お大事にね?」

そうして、電話を切った。

シズカは電話の相手が細井だと気付いていたようでこう言った。

「響…佐々木さんにしろ、細井くんにしろ、いい友達を持ったのね。似たもの同士だから仲良くできるんじゃなくて、響も細井くんも佐々木さんも共通して、人として優しいのよ。優しすぎるとでも言ったほうがいいかしら?だから、その友達をいつまでも大事にしてね?」

その話が終わった後も、シズカとはずっと下らない会話をしていた。

まだ、これから何が起こるのか分からず、夜を迎えた。その日の夜に、自体は急転することを知らずに…。