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宏は自分が勇敢な少年だと思っていた。

 

逃げ足が早くて小回りの効く、

はしこい子どもだと思っていた。

 

 

 

 

それなのに、このザマだった。

 

ちっちゃくて。

 

情けなくて。

 

 

 

 

震えながらむせび泣く宏を抱きしめる、

和子さんの腕の暖かさを感じて、

 

宏は生まれて初めて、

自分の体が小さいことを知った。

 

 

 

 

非力な子どもの体の自分を感じた。

 

 

 

 

そして、宏は、

自分が逃げ続けていたことを知った。

 

 

 

 

家族がバラバラになってしまったこと。

母親から置き去りにされたこと。

父親に辛くあたられたこと。

 

 

 

 

すべてから逃げ続けていたことを。

 

 

 

 

小さな自分には、何一つ打つ手もなく、

家族がバラバラになっていくのを

見続けるしかなかったという

不毛な現実から目を背けていたことを。

 

 

 

 

 

非力な子どもに戻って

泣き続ける日々の終わりに、

 

 

 

 

宏は、ようやっと、あきらめた。

 

 

 

 

心の中で望み続けていた、

 

夢の家族を、あきらめた。

 

 

 

 

仲睦まじい両親と可愛い妹。

夢の家族を取り戻す夢を。

 

 

 

 

泣き疲れた心の隙間に

少しづつ生まれ始めた、

柔らかな心のひだに安らぎながら、

 

非力な子どもに戻ることで、

 

与えられた現実を受けとめる強さを

手に入れた。

 

 

 

 

 

そして、

宏の瞳に映る和子さんは、

 

悪い奴らにやっつけられる

か弱いお婆さんではなくなり、

 

宏にとってかけがえのない

唯一の身内のお婆さんになった。

 

 

 

 

 

宏は、ようやっと、

ありのままの現実を受けとめる力を

手に入れることができたのだ。

 

 

 

 

 

 

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    ♡ Have a nice day ♡

 

 

 

 

  ♡ 素敵な一日でありますように ♡