ひとつ前に戻る  目次 はじめから読む

 

 

 

 

 

 

すぐに和子さんは帰って来た。

 

 

 

 

和子さんは嬉しそうに

小さな鉢植えを買い物袋から取り出し、

宏に見せた。

 

ふっくらした緑の葉っぱに

小さな白い花がいくつも咲いていた。

 

 

 

 

 

夢うつつなまま宏は、

 

『この人は一体誰なんだ…』

 

心の中で呟いた。

 

 

 

 

宏の記憶は飛んでしまっていた。

 

 

 

 

 

和子さんと暮らす前の家の記憶。

両親と妹。自分の姿。

 

記憶に揺さぶられ、

歪んだ時間に閉じこもったまま、

 

和子さんが手にした

植木鉢を見つめた。

 

 

 

 

 

『こんな花じゃなかった。

 

 かあさんが育てていたのは、

 

 こんな花じゃない!』

 

 

 

 

 

白い花の記憶。

 

ベランダの鉢植え。

 

ぐずる赤ん坊。

 

かあさんのあやす声。

 

 

 

 

 

家族四人で暮らしていた頃の

小さなアパートの部屋の記憶。

 

 

 

 

 

戻ることのできない記憶が

宏の心を引き裂いた。

 

 

 

 

 

小さな体を震わせる

はち切れんばかりの大きな叫び声が、

強張って縮み上がった

宏の体から飛び出した。

 

宏は鉢植えを和子さんからガツっと奪い、

床に叩きつけた。

 

 

 

 

 

胸が張り裂けるような痛みが

体中を貫いて、

宏は突っ伏してむせび泣いた。

 

涙が枯れるまで泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

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     ♡ 素敵な一日でありますように ♡