ビフテキという言葉は、今でも生きているのだろうか。若い子たちは意味がわかるだろうか。昭和生まれの人なら誰でもわかると思うが、ビフテキとは、言うまでも無くビーフ・ステーキの略、牛肉のステーキのことだ。豚肉のステーキはポーク・ステーキだが、なぜかポクテキとは略されず、トンテキと呼ばれる。鶏肉のステーキとなると、チキン・ステーキとは呼ばずに、チキン・ソテーなどと言う。
古い言葉は死語と呼ばれ、日常から消えていくのだが、明治大正昭和初期戦前戦後の文学作品などを読む場合、知っていないと意味がわからなくなる事にもなる。たとえば身近な食べ物の明治大正頃の言い方。麦酒、ソップ、ヘット、バタ、チース、ピスケットなどなど。おわかりだろうか。麦酒はビール、ソップはスープのこと。ヘットは牛脂のことで、バタはバター、チースはチーズ、ピスケットはビスケットのこと。文章を読んでいて、なんとなくわかるものもあるが、知っていないとさっぱりわからないものもある。
自分は昭和生まれで、食べ物を古い表現で言われると、何だかそそられる。ビフテキは、子供の頃から滅多に食べる事が出来ない御馳走の代表であり、だからやはり今どきの呼び方のステーキよりビフテキと呼んだ方が断然そそられるのだ。
この前、約1年ぶりに名古屋の実家に帰った。帰った日がちょうど自分の誕生日当日であり、母や義姉がお祝いしてくれたのだが、帰りに母が誕生日プレゼントとして、高級飛騨牛の分厚い肉を買ってくれた。先日、それでビフテキを焼いた。ステーキではなく、あくまでビフテキである。
名古屋で店をやっていた時、メニューでビフテキを出していたこともあり、肉の焼き方はお手の物だ。ミディアム・レアの最高の状態に焼き上げる。いつも思うが、ちょっとイイ肉さえ買えば、ステーキ屋で外食するより遥かに旨いものが我が家で食える。
まるで、二回目のお誕生日会みたいに大満足だった。最高のビフテキを頬張りながら、ただただ母の愛に感謝するのであった。その母が7月に八ヶ岳に来るかも知れない。その時はお返しにイヤというほど親孝行しようと思っている。因みに母はビスケットのことをピスケットと言う。戦前の表現が今でも実家で生きているのが驚きである。

