私が役員をしているAgsoil株式会社で、土壌の均一性の評価サービス(ベータ版)を近々始めることとなりました。
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これまでブログで様々述べてきた土壌硬度について実際に測定してその評価を得ることができるようになります。ベータ版ですのでこれから様々な機能を順次増やしてゆく予定です。なお農業を科学する研究会の正会員は無償で利用できるようになる予定です。これを期に会員登録をご検討ください。
さて、それに先立ちこれまで明らかにしてこなかった土壌硬度に関する具体的な情報も解禁してゆくことにしました。
Agsoil株式会社では、多くのデータを公開できるよう二年ほど準備をしてきました。
今回のサービス提供を期にこのブログでそれらを公開してゆきたいと考えています。
私は従来、コンサルタントということで顧客のみなさまの結果やデータをオープンにすることはできませんでした。しかし、今回公開を目的としたデータがいくつか揃ってきたので紹介できるということになります。
その前にまずは、ITを活用した農業の未来について考えてみたい。
現在はICT(情報通信技術)と呼ばれるそうだが、農業現場での活用を行おうという機運がある。これは国のICT推進策によるところが多い。
実際の現場では、環境データの収集に活用しているケースが多い。
現状での活用法は、従来からの経験と勘と実際データによる検証による進化という方向で進んでいるように見える。
私自身はそれはそれで有効だと考えているが、データと作物の成長との関係が明確化できると最終的に何ができるようになるのだろうか。
私や解析していただいている方がずっと考えているのは、栽培の設計である。
何かの目的に応じた農産物を作りたい場合、一体どのような土壌硬度でどのような肥料を用い、どの品種を使い、いつ植えて株間はどのようにするのか、ということがシミュレーションできれば、最初から栽培が設計できることになる。
そんな事すでにやっているよ、と思われる方が多いだろう。もちろん意識している方もいるのだが、現実にはどのような作物を作るのかを明確に意識している方は少ないように思う。
農産物といえど本来は用途に応じた物が欲しい。食品加工などの分野で言えば、同じ品質の同じ大きさのものがいつでも供給をしてほしいわけで決して過剰品質を求めてはいないのである。
しかし、なぜ、そのように作物が作られないのかというと、農産物は天候による影響を受けやすく、同じものを供給するというのは非常に難しいと考えられているためである。
そのため、農産物供給における品質や量に関する取り決めは非常にゆるく、農産物が不足したときには品質基準が甘くなり、供給過多に陥ると品質基準が高くなるなどという取引になっている。
その根本的な原因はどこにあるのかというと、お天気任せの栽培ということに尽きる。これまで私は様々な栽培データを取り、新しい栽培の考え方を提案してきたが、実際には栽培の劇的な改善は可能なのである。
それの根本になるのが栽培の設計ということになる。
一番わかりやすい例をあげよう。
根菜類は土壌が硬ければ小さくなりがちだし、柔らかければ大きくなりやすい。これを考えると隣接していても土壌の硬さが違うところでは同じ時期に同じ品種を植えたとしても、同じ大きさのものができないということを意味する。
同じ大きさのものが作りたければ、土壌の硬い場所と柔らかい場所で株間を変えて対応する必要がある。つまり、硬い場所では株間を広げ、柔らかい場所では株間を狭めることにより同じ大きさのものが理論的にはできる。
従来、これを思いついたとしても、一年ごとに試験を行って経験を重ねた上で、評価し変えてゆくながら長年の試行錯誤の結果同じ大きさのものができるようになるのである。
しかし、十分なデータを持ち、栽培のシミュレーションができるとすれば、土壌硬度を測定した時点でそれぞれの土壌硬度ごとにおおよその最適株間を算出でき、ある程度同じ大きさのものを揃える栽培ができるということになる。実を言えば篤農家と言われる人の中には、それを理解していて経験と勘を用いて圃場ごとに株間を変えている人もいたりする。しかし、そういった人は極稀であり、多くの人はそこまで気をつけて栽培してない。しかし、シミュレートしその結果を知れば誰でもできるということになる。
次に施設栽培でも同様に十分なデータを持ってさえいれば、栽培期間中安定した供給がこれまでより容易にできるようになるだろう。低温や高温、日照時間の異常に見舞われてそれを回復するにはどのような管理をすれば、より安定的な状況に戻せるのだろうか、ここでも優れた農家は自らの経験と勘で微妙な管理を行った上で回復させている。しかし、これはごく僅かな農家の方に過ぎず多くの方はなかなか回復させることができない。
しかし、多くのデータを用いてシミュレートできれば、どのような管理をすべきかは大雑把ではあるが最適な管理を示すことができるようになるだろう。
本来栽培現場でデータをたくさん取る理由は、このあたりを実現するためであるはずだ。なぜ、これまでなぜ実現できていないのか。
これまでのデータ採取の方法ではシミュレートできるほど有用なデータを取れていないためである。
いろいろ理由はあるのがだがその鍵の一つは土壌硬度にある。土耕栽培においてはこのブログで度々述べているように、土壌の影響の中で手は物理的な条件が圧倒的に大きい。我々は露地栽培では6-7割くらいが土壌硬度の影響によるものと見ている。
その大きな要因をシミュレート中に組み入れることができなければ、当然、シミュレートとして成立しない。
つまり、土壌の硬さというのは栽培条件において最も大きい要因なので、外すことはできないのだ。
現在シミュレートできるのは、土壌硬度を測定し、初期生育のデータがあればどの時期にどの大きさになり、その品質はどのようなものか、というのはおおよそシミュレートできる。
栽培の後半になると天候の影響が大きくなるのでそのシミュレートから外れることもあるが、基本的には大きく外れることはない。
つまり、データさえそろえばそのくらいできるのである。
このシミュレートや試験結果についてはこれからデータを含めて、このブログで次々に明らかにしてゆく。
これまで多くの方が挑戦してきた栽培のシミュレートは、私達は可能になっていると言って良い。そうなると栽培の設計ができるということになる。
どのような目標土壌硬度を設定するのか、どのような品種をどの時期にどんな株まで植えるべきなのか、圃場ごとに設定することも夢ではない。
それ自体を実現することは今すぐには無理だが、今後、様々なソリューションが生まれてゆく中で実現することができるようになるだろう。
今回提供するのは、土壌の均一性評価のベータ版であるが、それはそういった栽培設計の第一歩であると考えていただきたい。