遺伝子組み換えトウモロコシはガンを発生させるのか? | あなたも農業コンサルタントになれる

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  わけではない / by 岡本信一

皆さん、GMトウモロコシを食べた試験によって腫瘍で膨れたラットの写真を覚えているだろうか。

モンサント社のGMトウモロコシを食べたラットが腫瘍を発生したという衝撃的な写真で、ネット上にはゴロゴロ転がっているので見たことがある方も多いだろう。フランス、カーン大学のセラリーニ教授の論文とともに公表された写真である。

その後、GMトウモロコシを食べると腫瘍が発生するとした論文がどうなったかご存知だろうか。


と、その前に書いておくと私は別に遺伝子組み換え作物を養護するつもりもないし、非難するつもりもない。日本では商業的な栽培が認められていない以上、論評する気になれないためである。いずれ、これについては環境などへの影響も含めくわしく書きたいと思っているが、今回は遺伝子組み換え作物を食べると腫瘍が発生するかどうかについてのみ検証してみたい。遺伝子組み換えの擁護とかそういうことではなく、間違った情報が流されているということをお知らせし、事実を知ることのほうが重要であるということを知っていただきたいからである。

2012年9月にフランスカーン大学のセラリーニ教授が「Food and Chemical Toxicology誌」に「Long term toxicity of a Roundup herbicide and a Roundup-tolerant genetically modified maize(ラウンドアップ除草剤並びにラウンドアップ耐性遺伝子組み換えトウモロコシの長期毒性)」という論文を発表すると記者会見したことからはじまった(論文の掲載は2012年11月)。

GMとうもろこしを食べたラットが腫瘍を発生し、臓器にダメージを与えて多くが死亡したというショッキングな論文であった。

この論文は、瞬く間に全世界で話題になったがわけだが、すでに飼料として世界中で大量に使用されていたのだから当たり前の話である。ロシアなどは輸入制限措置までとったほどだ。国によって対応が違ったが、多くの国の政府がこの論文についての論評をすぐに発表している。

しかし、同時に多くの学者から反論の声が上がる。最も権威があると言われる「(小保方さんの論文が載った)Nature」に「Rat study sparks GM furore」
http://www.nature.com/news/rat-study-sparks-gm-furore-1.11471
という論評が掲載されたのを始め、世界中の科学者から疑問の声が寄せられたのだ。

食品安全情報blog2012-09-21
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20120921#p10
でもそれらの状況について触れている(原典へのリンクあり、日本語の要約もあるのでわかりやすいです)。

見出しだけ紹介しておきます。

 ・GM食品が「がんと関連する」という主張は他の研究者に疑われる

 ・GMトウモロコシ、除草剤、ラットの腫瘍についての研究データ要請

 ・GMトウモロコシがラットで腫瘍を作ったという報告への専門家の反応

 ・がんとGMトウモロコシの研究 専門家の反応


こちらにもあります。

一般社団法人サイエンス・メディア・センター 2012年9月27日

http://smc-japan.org/?p=2886


多くの科学者の疑問は、試験の不備について触れ、これまでも多くの研究が行われてきたにも関わらず、同様の結果が全く現れていない点についての疑問が投げかけられている。

要するに試験内容に疑問があるということなのです。

おそらく同様の試験を行ってきた学者もおり、その点からも疑問が投げかけられているのだと思います。



もう少し詳しく知りたい方は、こちらも見てください。今回のエントリーは、このページを参考にして原典にもあたった結果を書いたものです。

フランスの研究グループによる「組み換えトウモロコシの毒性」に関する論文およびそれに関する報道について

https://sites.google.com/site/fsinetwork/jouhou/gm_maize


結果どうなったのかというと、論文を掲載したFood and Chemical Toxicology誌は、論文を取り下げました。論文が実際に掲載されてから一年後の2013年11月のことです。

http://www.elsevier.com/about/press-releases/research-and-journals/elsevier-announces-article-retraction-from-journal-food-and-chemical-toxicology


色々書いてあるけれど、要約すればカーン大学のセラリーニ教授の試験内容がずさんであって、科学的とはいえないというものです。

ただこれは、GMトウモロコシがラットに腫瘍を発生させないということではありません。←これが重要

これは科学的な慎重な物言いであって、他の多くの科学者も追認試験や以前から試験も行っているにもかかわらずセラリーニ教授のような結果が出ていないということは、GMトウモロコシを与えても腫瘍は発生していない、ことを表しています。

安全の話と同様で、多くの試験結果から腫瘍の発生が認められないとしても、科学的には発生しないとは言い切れないため、このような微妙な言い回しになるわけですが、一般人の常識からいうと、今のところ腫瘍が発生したと事例はないということになります。


未だにこの論文を元に遺伝子組み換え作物の危険性を主張している論調がネット上では幅を利かせていますが、実際上、遺伝子組み換え作物を食べることによって腫瘍の発生は認められない、ということでよいと思います。

ただ、これが他の全てに対して安全かというとそうではない、ということになります。ここが難しいところであらゆる健康被害から守られているかというとそうとは言い切れない部分はあります。今までの試験結果から腫瘍が発生していないからといって、今後もそのような結果になるかどうかは誰にもわからないからです。しかしながら、多くの試験が行われ安全性が調査されているのは間違いありません。


セラリーニ教授の論文は、不備が多いために腫瘍の発生があるということについては認めらないというのが、科学界の共通認識だと言ってよいでしょう。モンサント社の陰謀とかそういうことではありません。多くの同様の試験、調査を行った科学者がセラリーニ教授の論文に疑問を投げかけたということです。



非常にわかり易い例なのですが、農薬なども含め、一つでも発表があると大騒ぎになります。その後検証されて否定されたとしても人はそのことを知らずに最初の衝撃的な話だけを話題にします。誰も科学論文など探しもしないからです。

このGMトウモロコシの件でも明らかなようにその後のことは多くの人が調べもせずに、未だにネット上ではラットの腫瘍の衝撃的な写真が出まわり恐怖をあおっているわけです。


しかしながら、全世界を震撼させたこの衝撃的な写真は人の記憶には残り、遺伝子組み換え作物に対しての拒否反応を強くしている。

先に書いたように私は遺伝子組み換え作物を擁護でも反対でもないが、事実と異なることに対して多くの人が反応していることを憂慮している。重要な事は事実を知ることだ。

事実を知らずして判断することほど愚かなことはない。重要なのは結論ありきで物事を判断するのではなく、冷静に事実を見極めることだけである。

マリー・キュリー夫人は、こう言った。「今やもっと理解するときだ。恐れることを少なくするために」


なお、繰り返し述べますが、このエントリーは遺伝子組み換えの是非ではなく、事実を知る必要があり調べもしないで書いているネット情報に踊らされてはいけない、という意味のエントリーであるということを理解していただければ幸いです。


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