現実では時に小説の世界ですらも取り上げた事がないような奇怪な出来事が起こる、というような意味合いを持つ言葉だが、それはつまり「いつどこで、何が起こるかなんて誰にもわからない」という事を示している。
ただ、それはごく一部に限られた例外中の例外で、実際には大概の人間がそんな奇怪な出来事なんて目にする事も耳にする事もなく人生を終えてしまう。
それが常識であり、それが普通。
しかし、ごく一部に限られた例外中の例外とは言え、確かにそんな奇怪な出来事に遭遇してしまう人間もいる訳だ。
・・・・・さて、ではそんなごく一部に限られた例外中の例外の、1つの例を挙げてみよう。
「・・・・・・・・・・どういう、事だよ・・・・?」
いつも通りの朝、いつも通りの自室で。
焦りを隠し切れないといった表情で鏡を見つめる「彼」の視線の先には、全く見覚えのない、紫色の髪に紫色の瞳の少女が同じく困惑した表情で立っている。
「彼」の身に一体何が起こったのか。
それを説明するには、少し時間を遡る必要がある。
*
今となっては、昔の話だ。
とある1人の科学者の手によって、世界にある「法則」がもたらされた。
すなわち、「魔法」。
「魔法」の発見以来、「科学」と「魔法」はまるでお互いを切磋琢磨し合っているように、凄まじいスピードで発展を遂げてきた。
もちろん、それは日本も例外ではない。
そんな日本の、とある街の、とあるスーパーマーケットで。
「えーと・・・・後は・・・・・っと」
商品を入れるカートを片手で押しながら、食品コーナーを見ている1人の少年がいた。
彼の名前は紫ノ宮アゲハ(しのみやあげは)。
紫色の髪と、同じく紫色の瞳が特徴のごく普通の男子中学生だ。
正確には、彼は既に中学校を卒業しているため、ごく普通の男子中学生「だった」、と言った方が正しいかも知れない。
彼の隣には、付き添うように少女が歩いている。
彼女はじゃがいもを1つ手に取りながら、適当な調子で呟いた。
「最近色々値上がりしてるよねー・・・・・ま、仕方ないっちゃ仕方ないんだろうけど」
彼女の名前は翡翠凛(ひすいりん)。
アゲハの同級生で、緑色のポニーテールと緑色の瞳が特徴だ。
中学の時は陸上部に所属していたため、スポーティーで快活そうな印象を受ける。
ちなみにアゲハと凛は住んでいる家が隣同士で、いわゆる幼馴染という関係にあたる。
そのためか凛とアゲハは行動を共にする機会が多く、それが同級生達の間で「2人は付き合っているのではないか」という疑惑にもなっていたりするのだが・・・・当の本人達にはそれに気づいている様子は見受けられない。
「・・・・・ていうかなんでお前は勝手についてきてんの?」
アゲハが鬱陶しげな視線を凛に向ける。
しかし、凛はその視線を気にする事もなく、
「今日お父さんもお母さんも帰るの遅いから久しぶりにアゲハが作るご飯でも食べようかなーって思って」
「なんでそうなるんだ」
「いやーだってアゲハ料理上手だし?」
はあ、とアゲハは軽くため息をつく。
アゲハの両親は外資系の仕事をしていて、1年中海外を飛び回っている。
日本に帰ってくるのは1年に数回程度しかなく、必然的にアゲハは自炊するようになった・・・という訳だ。
「・・・・勝手にしろ」
めんどくさいだのなんだのと理由をつけたところで、この幼馴染が諦めるはずがないのはアゲハが1番知っている。
よって、元々1人分だったはずの食材に更にもう1人分の食材を買う羽目になってしまったのだった。
*
その日の夜。
「ごちそうさまー」
アゲハが作った夕食をさっさと平らげた凛は、ソファに寝そべってテレビの電源を入れた。
色々とチャンネルを切り替えていった結果、そこそこ人気のあるバラエティ番組に落ち着いた。
番組では今が旬のお笑い芸人やらタレントやらがわいわいと騒いでいる中、そんなテレビとは正反対のテンションの凛は眠たそうに欠伸をした。
「うあー・・・・・・眠い」
「じゃあ帰れよ」
アゲハはもっともな指摘をするが、凛はアゲハの話を全く聞いていないらしい。
ごろごろとソファの上を転がる凛は、不意に何かを思い出したように起き上がると、
「そーだアゲハ!明日高校の制服買いにいくからね!」
そういえばそんな約束もしてたな・・・・とアゲハは思い出しつつ、
「はいはいわかったから凛ちゃんはお家に帰りましょうねー」
「えっちょっ・・・・酷い!!扱いが酷い!!!」
*
夕食の後片付けを終えたアゲハは、はあとため息をついてソファに寝そべる。
(あいつが帰った途端に静かになるよな・・・・・この家は)
もともと両親が不在がちなためにこの家はアゲハが1人で使っているようなものなのだが、こうして1人で過ごしていると、どうしても1人の静けさや、家族や友人がもたらしてくれる温もりというものを実感させられる。
いつも一緒にいると忘れがちだが、確かに彼らは自分のことを想ってくれていて、自分はそれに支えられて生きている。
・・・・とは言え、基本的にアゲハは集団よりも個人でいる方が好きなタイプの人間である。
「・・・・・あー・・・風呂入って寝るか」
頭の中ではそんな綺麗事を並べつつも、結局は現状を受け入れて生きていくしかない。
そんな訳で、今日もアゲハは普通にシャワーを浴びて、普通にテレビを適当に見て、普通にベッドに入って就寝する。
明日からもこんな風な生活が続いていくんだろうな、と思いながら。
*
次の日の朝。
アゲハは、枕元に置いてあるアラームの音で目を覚ました。
(・・・・もう朝か)
アラームを止め、布団を被り直してまどろみに身を任せる。
アゲハや凛は既に中学を卒業しているため、基本的に高校の入学式までは休みが続いている状態だ。
(そういえば凛が制服買いに行くとか言ってたな・・・・・)
めんどくさいな、とは思うが、約束をないがしろにする訳にもいかない。
という訳で起き上がろうとするアゲハだったが、
そこで。
明確な違和感を感じた。
正確に言うと、布団を持ち上げようとした際に手が自分の胸に触れてしまった。
そこまでは普通。
アゲハが違和感を感じたのは、胸に触れた時の感触だ。
アゲハは男であるため、言うまでもなく女性のような胸の膨らみ・・・いわゆる「おっぱい」とかいうヤツは存在しない。
ところが。
「・・・・・ん?」
アゲハは静かに目線を落とす。
そこには、あるはずのない2つの膨らみが。
「なっ・・・・・!?」
一瞬、アゲハの思考が完全に停止する。
1つの違和感に気がつくと、他にも色々な違和感を感じるようになる。
例えば、体つきが華奢になっていたりだとか、髪が伸びていたりだとか、声が甲高くなっていたりだとか。
状況を全く理解できていないままに、アゲハは自室にある鏡の前へと向かう。
そして、現在に至る。
鏡の前でアゲハが軽く手を振ると、鏡に映っている少女も同じく手を振り返してくる。
鏡なのだから当然の結果なのだが、それが逆にアゲハに起こってしまった現象を如実に物語っている。
「女になってる・・・・?何が起こったってんだよ・・・・・?」
悪い夢だと思いたい。
というかそうでなくては困る。
そう願ってほっぺたをつねってみるも、
「・・・・・いひゃい」
夢では、ない。
「・・・・・・・・・・・・・」
ぽかーんとした表情で、アゲハはベッドの上にぽすんと腰を降ろす。
「嘘だろ・・・・・・」
唐突に塗り替えられた日常。
しかし、アゲハはまだ知らない。
こんな馬鹿げた出来事すらも、これから始まる物語の序章でしかないという事に。
*続く*
あけましておめでとうございます、るかです。
え?遅い?
いやいやみなさん何をおっしゃってるんですかまだ1年は始まったばかり・・・・1月折り返してましたねはい。
新年一発目という事で心持ちも新しくノータイトルプロジェクトの小説をリスタートさせてみました。
これからもこんな調子でぼちぼち書いていきたいと思ってるんで、今年もよろしくお願いしますね。
では、今回はこれで!