【オリジナル小説】DIVA 第2話 | 無題警報

無題警報

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5時限目は数学の授業なのだった。

いつも通りの教室、いつも通りの授業風景。

夏休み明けという事で若干浮わついた感じや怠そうな雰囲気はあるものの、誰もがいつも通りの学校生活を再開させていた。

そんな中で違和感が1つだけあった。

「小鳥遊渚紗(たかなしなぎさ)」の右肩にうつ伏せになって乗っかっている子猫、「カグラ」である。

(・・・いやなんで授業にまでついてきてんの?)

授業中であるという事もあり、渚紗が小声で尋ねると、カグラの方も流暢な日本語でこう返した。

(だって暇だったし、たまには人間の授業を観てみるのもいいかなあって)

(・・・・・あっそ)

まずこの状況もおかしいだろう、と渚紗は思う。

だって子猫を肩に乗っけたまましれっと授業を受けている生徒がいるのだ。

さすがに昼休みが終わって教室に戻ったら(カグラを乗っけたまま)、クラスメイトが「猫・・・?」だの「学校に猫って連れてきていいんだっけ・・・?」だのとざわざわしていたのだが、数学教師でもある「鬼束円(おにつかまどか)」が教師に入ってきた途端にピタリと静かになった。

ちなみに鬼束は渚紗の天敵(いろんな意味で)でもあり、見つかったら殺されるんじゃないかとビクビクしていた渚紗だったが、今のところはこうして何事もなく授業を受けている。

校則には記されてはいないものの、学校で飼っているならまだしも見知らぬ子猫なぞを連れてきていいわけがない、という事は小学生でもわかるはずだ。

それなのに皆真面目に授業を受けている。

ここが県内トップの進学校であるから、という理由ももちろんあるのだろうが、それにしたってこの状況はおかしいだろう、と渚紗は思う。

(おかしい。絶対おかしい。他の教師ならまだわかるけどあの円ちゃんが私が猫を連れてきてる事に気づかないわけが・・・・・)

その直後だった。

「ところで小鳥遊、その猫はなんだ?ぬいぐるみか?」

突然の事に渚紗はビクウ!!!と驚く。

(き、きたあああああ!!!!やばいやばいよどうしようどうしよう!!!)

さあどうする小鳥遊渚紗。

ここで解答を間違えたら最後、あの担任にいじられまくる事になってしまう。

元から渚紗いじりが栄養源ですと言わんばかりに渚紗をしつこくいじり続けている鬼束の事だ。

彼女にとっては今の渚紗は格好のターゲットだろう。

既にニヤニヤしている。

「え、えーとこの猫はですね・・・・・」

冷や汗をダラダラと流しながらこの状況を切り抜けようと必死に頭を回転させる渚紗。

その末に彼女が導きだした解答は、

「この猫は・・・そう!!生き別れた妹です!!!!!」

ドドン!!!という効果音と共に宣言した渚紗とは正反対に、クラスメイトと鬼束はしーんと、なんなら授業中よりも静まり返っていた。

(や・・・やらかした)

昨日見たドラマが思いっきり悪影響を及ぼしてしまった。

激しく後悔する渚紗を見て、鬼束は真っ黒な笑みを浮かべながらこう言った。

「ほほーう小鳥遊・・・お前は猫だったのか」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・にゃ、にゃー・・・?」

「にゃーじゃないわバカ!!!!!授業に猫を連れてくるバカがどこにいるんだバカ!!!」

「バカ3連発!!??」

渚紗の悲痛なツッコミは冷酷女教師に届くはずもなく、

「罰としてこの問題全部解いてもらおうか。全問正解しなかったら・・・・わかるよなあ?」

「り、理不尽だ・・・・!!」



「それ」は、1人の少女だった。

腰まで届く銀髪を、右側だけ耳の上でリボンで結んでいる。

端整な顔立ちとは不釣り合いな革ジャンを羽織ったその少女は、天ノ宮学園高校がそびえ立つ方角を見て、ニヤリと微笑んだ。

「見つけた。2人目の歌姫」



「それにしてもすげえなあこの猫。カグラだっけ?」

学校からの帰り道、渚紗の幼馴染みでありクラスメイトでもある「桐谷澪汰(きりたにれいた)」がカグラをまじまじと眺めながら言った。

ちなみに先程の渚紗のピンチはこのカグラによって救われた。

「まさか天才猫だったとは・・・・」

後でクラスメイトに聞いたところ、あの時鬼束に解けと言われた問題は一流大学レベルだったそうだ。

もちろん渚紗に解けるわけもなく、黒板の前で銅像のように固まっていると、

『僕の言う通りに書いてみて』

そう言われ、その通りに書いたところ、大正解だったというわけである。

それには鬼束もクラスメイトも唖然として、「あの小鳥遊が・・・!?」「頭打ったとかか・・・?」「小鳥遊さん大丈夫?保健室連れてくよ?」などと逆に心配される始末である。

全く失礼甚だしい。

「いやでも、世の中には不思議な事もあるもんだなー。猫が喋るとか本の中の話だとしか思ってなかったもんな」

確かに、渚紗自身も夢でも見ているような気分だった。

澪汰とは気兼ねなく話せる仲だし、だからこそ嘘偽りなくカグラの事も打ち明けられた。

澪汰も頭ごなしに否定するのではなく、渚紗の言う事なら本当なんだろうな、という風にしか思っていないのだろう。

渚紗もこういう信頼関係には居心地の良さを感じていたし、澪汰のそういう優しさにも少なからず好感を抱いていた。

だからこそ、幼馴染みで親友、という2人の立ち位置は時に大きな障害となってしまう。

冗談抜きに、澪汰はかなりモテる。

告白だって今まで何度もされていたらしいが、澪汰がそういう事に無頓着で鈍感なので誰かと付き合っているなんて話は聞いた事はないけど。

(・・・それでも嫉妬しないわけにはいかないよ)

小さい頃から隣で見てきた渚紗は、そんな澪汰にいつの間にか片思いをしていたのである。

もし自分の思いを伝えたら、澪汰はそれに応えてくれるかも知れない。

だけど同時に、失敗すれば今までとは同じように接する事は出来なくなる。

一か八かの可能性に賭けて思いを伝えるか、それとも居心地のいい今の関係を持続させるか。

(・・・出来るわけないじゃん、そんなの)

渚紗が押し黙っている事を心配したのか、澪汰はこう尋ねてくる。

「渚紗?どうかしたのか?」

「・・・ううん、大丈夫」

少し足を早め、澪汰が抱えていたカグラをひょいと掴んで肩に乗せる。

小走りで駆けたまま、振り返って幼馴染みに声を掛ける。

「ほら、早くしないと置いてくよー!!」

渚紗の肩に乗ったまま、カグラがにゃーと鳴いた。

澪汰がふっと笑みを浮かべ、渚紗に追い付くために少し駆け足になったところで、

ぐにゃり、と。

突然、渚紗の視界が歪んだ。

「・・・・・・・え?」

自分が倒れた、という事実に気づくのには数秒の時間がかかった。

意識が薄れていく。

無造作に投げ出された手は、ぴくりとも動かす事が出来ない。

澪汰の叫び声が聞こえた気がした。

それと同時に、誰かの悲鳴と、カグラが自分の事を呼ぶ声も。

返事をしようと試みるも、口はろくに動かせず、出るのは弱々しいかすれ声だった。

闇に染まっていく意識の中、渚紗は1つの名前を呼んでいた。

「・・・・・・・・お・・・・かあ・・・・・さ・・・・・ん・・・・・・・・・」

それを最後に。

ゆっくりと、渚紗の意識は途絶えていった。


────続く────